思いなど届くことなく///


自分を食べるものだとばかり思っていたハンはぺたりと座り込んだままだった。
やがて目を閉じてしまった轟竜のその様子に、ほ、と息をつく。そこでようやく、自分が思っていた以上に緊張していたことに気がついた。同時に、見慣れないものが体に巻きついていたことにも。

「…にゃ…」

外は相変わらずの吹雪だったが、不思議と寒くない。
体に巻き付いたいたのは厚手の布で、頭からははらはらと干し草が落ちた。自分がいる足元は雪山の洞窟とは思えぬほどにふかふかとしていた。積み重ねられた干し草と、何枚も重ねられた布によって、凍えることがなかったのかと合点がいく。

そこでハンは一つの疑問にぶつかった。一体誰が、と。
この場にいるのは二人だけ。一人は自分で、もうひとりは……と、自然と目の前の轟竜へと視線を向ける。
その雄々しい姿を改めて確認して、ハンは(いや、まさか、)と首を振り、ありえないと、もう一度心の中で呟いた。


大きな危機からは脱したといえども、一度生死を彷徨った体は疲労感で重たい。
足元の柔らかな干し草と、体を包む布の暖かさに次第に瞼が降りて来る。
ここで寝たら、もしかすると今度こそ食べられてしまうかもしれない。
寝てはいけない、と必死に言い聞かせるが、とうとう睡魔に意識が攫われてしまった。

(少しくらいなら大丈夫にゃ…すこしだけ…にゃ…)

やがて、ふわふわと体が浮かぶような心地よい感覚の後、ハンはぐっすりと眠りについた。


次に目を開けたとき、外は朗らかな陽気を見せていた。
(真意のほどはハンには分からずとも、結果として)吹雪から助け、尚且つ泊めてくれたらしい巨体の隣人は未だ眠りこけている。

(い、いまのうちにゃ…!)

起こして機嫌を損ねては困ると、ハンはそろりそろりと抜け出す。
起きるようすのない轟竜に息を付き、ハンは足早にねぐらをあとにしたのだった。





mae  tugi
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