微睡みの山頂で///

 がつん。

 壁に鉄が当たる音。

 かきん。

 硬いものを叩く音。

 がん。

 岩を削るその音。


 頭上から聞こえてくる音を聞きながらあくびを一つ。今日はリカルドたちのフィールドワークにお付き合い。
 ただの採掘なので、私は対して役に立てないと思ったけれど。だからこそ来てくれといわれて付いてきたところ、どうやら私を荷物持ちにしようという魂胆だった。
 まぁいいかと差し出されたカゴをはしりと咥えて登ってきたのは雪山山頂。きちんとわたしの口でも持ちやすいようにと改良のされたカゴとその用意の出来具合から、じつはリカルドがそれなりに以前からこうするつもりだったのではないかと思わざるを得ない。なんておっさんだ。仮にも… そう、仮にも女の子に荷物持ちをさせるとは。

 遮るものが一つもないここからは遠くの山もよく見えた。

「にゃ、ブルファンゴだにゃ。」
「ぐる?」
「一緒だと襲われないから、楽チンにゃぁ。」

 寝そべる私の足元にもたれかかる毛玉…もといハンとのんびりとおしゃべりをしながらリカルドが下りてくるのを待つ。
 どうしても、と連れてきた理由のもう一つはこれである。ほかのモンスターに対する威嚇… …というより、ボディーガードとしてらしい。
 たしかに、巨体の私を襲って来るような天敵はこの雪山には少ない。ドドブランゴや、ドスファンゴ、ドスギアノスやフルフルと喧嘩をすることは時々あるし、たまにたまーに、同胞と鉢合わせてしまうこともある。
 けど、それくらいだ。ほかの小さなやつらは私に果敢な挑戦をしてこない。縄張り争いだとか、食料争いだとか。いないわけではないけど、基本的に私たちに勝てる種族は多くない。

 ぐぁ。あくびが溢れる。

 雪山、それも標高の高い雪山は寒さが厳しい。吐く息が白い水蒸気へと変わって消えていくのを何度も何度もみおくりながら、だが降り注ぐ陽気の暖かさにむしろ意識を取られる。

「おぉーい、そこー、ちゃんと見張りやってるんだろぉな〜」
「早く終わらせるにゃー!」
「おー、今から投げるぞー」
「にゃ!?」

 ブンッ!

 音を立ててその、年をとっているとは思えない豪腕が手にしていた何かを放り投げる。ああ、やれやれ、なんて危ない。思いながらじっとその小さな塊がこちらめがけて飛んでくるのを凝視する。
 ヒュッと風を切る音を鳴らして飛んできたのはきらりきらりと輝くもの。いうなれば、今しがた頭上遠くでせっせとなにやら掘っているリカルドが発掘した鉱物である。
 ハンがひゃあと悲鳴を上げて私のしたに潜り込む。私は確かに、あの程度の小石ならよほど打ちどころが悪くない限りは大した問題にもならない。

 すぐそばに置かれていた籠の端っこをばっくりと咥える。

 5、4、3。 ゴマ粒より小さかった石がくっきりと姿を見せる。すぅと目を細めて距離を図った。

 2。きらり。まるで鋼のように光沢が照り返される。

 1。すぅっと顔の位置をそらして。

 0。

 ゴッ。鈍い音を立てて、その欠片は籠の中へと収まる。すでにいくらかの石や破片が溜まっているそのカゴの中に放り込まれても、キラキラと光るその塊はいまだ輝いていた。

「にゃあ、これなんだにゃ?」

 さぁ。なんだろうね。私にもわからないよ。

 ハンと一緒に首をかしげる。カーン、カーン。またつるはしの音が響き始めた。もうしばらく、日向ぼっこをしないといけないようだった。


mae  tugi
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