怠惰が起きる///

「頼んだぞ。」
「はぁ……がんばります。」

 リカルドの言葉に答えたけれど、きっと彼にはがるるとしか聞こえていないんだろう。それでも構わないのだけれど、それでも、まぁやはり会話はしたかった。できない。けれど。 


 傷がすっかりと治ってから、私は雪山を去るようなことはしなかった。そして私が拠点としている洞穴から、リカルドたちが住まうレタラ村(というのだと、これはリカルドたちが教えてくれた)はあまり遠すぎず、かといって近すぎることもない。

 リカルドがハンター稼業をおざなりにしているのだとハンに聞かされ、じろりと睨みつけたのもすでに懐かしい。彼は慌てて、それは、と言い訳を始めたがよくよく聞けば私のせいであった。猛省すると同時に、彼の手伝いをしたいと身を乗り出したが、言葉が通じるわけでもなく。
 その意図を伝えるために実際にあれやこれやと行動をした結果、いまはこっそりと彼の手伝いをするようになっていた。


 今日の手伝いは鳥竜種の討伐である。

 一匹、二匹とギアノスたちを蹴散らかしていく。人間よりは硬い皮膚も、私の鱗には遠く及ばない。鋭い牙も、私には小魚の牙くらいにしか思えない。そのぎょろりとした目立って、小さな飴のようでさえある。ぎゃあ、と叫ぶギアノスたちの怒りの声だって。

「ギャォオオオオ!!!!」

 ほら、私の咆哮に全部全部かき消されてしまう。音の衝撃波(バインドボイスとハンは言っていたし、リカルドも青い顔をしていたから、きっと結構なものなんだろう)ですぐそばにいた軽いギアノスたちがぼんと吹き飛ばされた。

 一方的にべっしべっしと潰し続けていたからか、ドスギアノスがぎゃあと怒りのままに飛びかかってきた。がぶりと首筋を噛まれたけれど、ちくりとした痛みがあるだけである。ついこの間、姿さえよくわからなかった大きな白いモンスターに襲われたときを思えば、さっぱり痛くない。

 ぎろりとひと睨みすれば、ばっと飛びず去る。

「グルォオ!」
「ギャァーー!ギャギャッ!」

 ドンっ!
 前足を、尾を地面に叩きつけて向こうを脅す。ガチガチと歯を鳴らすことも忘れない。お前の首なんて、その立派に見えなくもないとさかだって、この牙には敵わないだろう。そういう意味を込めてもう一度吠えれば、ギアノスたちはたったと去っていく。ドスギアノスも、渋々といった体で帰っていく。それでいい。これでいい。

 雪をぼつぼつと染めている紅い色にももう見慣れた。ただでさえ色が白いのに、血の気がなくなったギアノスたちはもっと真っ白に見えた。がぶり。その首に噛み付いて、びりびりと布でも裂くような軽さで引きちぎる。頭をぽいと放り出して、私はその胴体にかぶりついた。

 ばきっ、ペキキ…… がしゅ、じゅるり。べちゃ、べちゃぺちゃ。

 一匹をあっという間に平らげたころにはリカルドたちが戻ってくる。口の周りを雪に押し付けて、どうにか少し汚れをとってみるけれど、きっと変わらないんだろうなぁ。

「おお! いい感じに倒してくれてる!」
「さすがにゃ!」
「しかもつまみ食いしてやがるぜ。」
「お腹すいたにゃ?」

 まぁ、ちょっと。
 運動したらお腹がすくでしょ、とがうがうと言ってみたのが伝わったのか、ハンたちはけたけたと笑うだけであった。


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新章、春は咆ゆる。

mae  tugi
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