季節はいつか巡るのだから///

 ほろほろと涙するハンが抱きついたまま、くるると柔らかい鳴き声を漏らす。リカルドがなんだ知り合いかよ、とどこかつまらなさそうに言った。

 そんな中、トトは驚いていた。目の前で、ぱらぱらと小粒の涙を落とすハンの姿に、である。なぜここに、と彼女は言いたげであった。最もそう問いかけるだけの声は持っていなかったのだが。

「驚かせようと思ってたのによぉ……。」
「だんにゃも人が悪いにゃ!ぼくのこと、試したにゃー?!」
「おーおー、この俺のオトモになりてーっつーんだから、これくらいどうってことねぇだろうが。」

 豪快な人だな、とトトはリカルドの笑い声を聞いていた。ハンは少しばかり不機嫌そうだったが、トトを見て、すぐに明るい顔になる。彼にとって、今は何より感動が強かったのだ。

「つーことは、あれか。猫助。お前の言っていた用事っつーのは、こいつだったのか?」
「……そ、そうにゃ。」
「ふぅん……そういうことか。運がいいやつだなぁ、お前ら!」

 べしりとリカルドがトトの体を軽く叩いた。硬い体表故に、もちろん彼女はなんともない。むしろ、勢いよく叩いてしまったリカルドの方が一瞬痛そうに顔をしかめたくらいであった。ハンはそんなリカルドに激しく抗議するが、リカルドはそれを右から左へと聞き流しているようであった。

「で、どうするつもりなんだよ、猫助。」
「にゃ?」
「こいつはいくら変ちくりんでもティガレックスだぞ。」
「にゃあ! そうだったにゃあ。僕、恩返しがしたかったにゃ。」
「恩返しぃ?」
「そうにゃ。助けてくれたんだにゃ、お礼するのはあたりまえだにゃ。だんにゃはそんなことも知らないのかにゃぁ?」
「生意気言うようになったよなぁお前も。」

 リカルドは腰に手を当てながら少々呆れたような困ったような物言いをする。彼が聞いたのは、今後のあれこれであるというのに、ハンが全く違うことを言い出したからである。まぁいいかとリカルドはハンに「それで」と続きを促した。
 うーんと小さく唸って、ハンはリカルドにぽろりと疑問を投げかける。

「それで……ええっと、僕どうしたらいいと思うにゃ?」
「知らん。」

 ばっさりと切り捨てられた回答に、ハンは、肩を落とした。
 彼らの楽しげな会話を聴きながらトトはどこか寂しさを募らせる。目の前にいるというのに、たった一言さえも話せないし、伝えられない。
 だが、それ以上に、彼女は喜んでいた。きっとありえないと思っていたものが目の前にあることが。それが自分のそばにあることに。これ以上の喜びが、果たしてあるだろうか。
 明るい声と雪山にそぐわない暖かさを全身で受け止めながら、彼女は声に出さず、人のように笑った。



mae  tugi
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