無き道や、何処へ続かん///


「だんにゃ、どっか行くにゃ?」
「散歩。」
「まさか、それでかにゃ!?」

村人たちもさぞや驚天動地といった心持ちだったことだろう。
ここしばらく引きこもり生活を心ゆくまで謳歌していたリカルドが二日続けて家から出てきたのだから。

しかも、彼の姿はといえば……がっちりと装備されているわけではない。
それどころか、ハンターの本分を果たすわけではないのだなと誰もが思う程度には軽装備だった。
雪国伝統のマフモフ装備にも似た防寒性能が高い装備。ここらに住んでるならば誰もが見慣れているククリ。そしてポーチ。以上、近くへ散歩に行くにしてもあまりに準備の少ないリカルドの装備である。

なんせここは雪山。
人は愚か並大抵のモンスターさえ近寄らないレタラ村。
そもそも人が住んでることさえ不可思議とまで麓では囁かれるのだといえば、いかにこの雪山が過酷な環境かはお分かりいただけることだろう。

そんな中でリカルドは……繰り返すようだが……簡単お手軽初心者装備。
さすがのハンも驚愕、あるいは呆れて口元が引きつった。
それがどうしたと言わんばかりの顔のリカルドは、ハンの制止を聞こえなかったことにして村を出た。
そして慣れた足取りで雪山の奥の方へと姿を消してしまった。

呆然とそれを見送るだけだったハンも慌ててその背中を追いかける。
幸いにも彼は元々が臆病な性格なだけに普段から用意周到。いつ何時、どこへ行こうと困ることはない。(かつてはその心配性をギルバードに呆れられたほどである。)

何かあったらたまったものではない。いや、あわよくばその”何か”が起きて、功績を上げれば雇ってもらえるかも……そんな下心を持ちながら。

軽装備で山奥へと向かっていくリカルドとそれを追いかける白い猫の姿を偶然目にした村人たちがその後胃が痛い思いだったこともここに記しておこう。






ヒュォオオ、と時折冷たい風が吹き付ける。
風は相変わらず刺すような冷たさではあるのだが、目論見どおり、吹雪いてはいなかった。
幾分歩きやすいと満足げにリカルドは道なき雪山を迷うことなく進んでいく。
少し前に訪れたときは、転々と鮮やかな色が散っていたものだったが、今はすっかりと白一色であった。
さくさくと深い雪に足を沈めながら、残っていない以前と同じ道をゆく。

はるか頭上でせり出すように積み上がった雪が影を作る。
不安定な屋根が続く谷間を音を立てないよう注意をはらいながら抜ける。
そして、全身に微弱な振動を感知し、足を止めた。

(……雪崩? それにしては揺れが大きい。)

振動の大きさと距離が、通常とはまったく比例しないものである違和感に怪訝そうに顔をしかめる。
耳をそばだて、見える限りの遠くへその鋭い目を向ける。
ぎらぎらと焼けそうなほどに光を照り返す銀世界の中、目立った異変は見つけられない。
身近に危険が迫っているわけでもなさそうだとひとまずは当初の目的のために雪にうもれかけている小さな隙間に身を滑らせた。

岩肌にぽっかりと空いている隙間からは奥へ奥へと細長い道が続いている。
白い息がその寒さを如実に物語っている。
リカルドが身をかがめなければ通れないその道は少しばかり広い洞窟へと繋がっている。
ギアノスやブルファンゴがすぐそばにいないことをちらりと確認して、小道から身を乗り出す。
くっと背筋を伸ばすとこきりと音が鳴った。

「……たしか、あっちのほうだよなぁ」

以前は大型種が出入りするような洞窟に直接足を踏み込んだ。
しかし、今回は別の……小型種が好んで通り道としている……細い洞窟からそこへ向かっている。そのほうが幾分か大物に遭遇せず安全だからというのと、洞窟に眠るいろいろなものも採取できるというのも理由であった。

道すがらに氷結晶や草類をむしり取りながらも着実に道を進む。ともすれば迷いかねない複雑な道筋で、リカルドは露ほども迷うことはなかった。

同時刻。リカルドを追いかけて洞窟へ足を踏み入れたハンは……すっかりと迷っていたのだが、これはまたおいておこう。

mae  tugi
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