閑話:誰かの旅行記2///

故郷とはいいものです。
良いことばかりでないにせよ、やはり最期に帰るべきはここです。
そう思える場所があるのはいいことですが、私はもう一つ思いました。
あいたい誰かがいることもまた、素晴らしいと。


全く驚くばかりでした。
私の背丈を抜くだけでなく、その何倍もある大木が連なっているのです。
てっぺんは光を求めた木々によって覆い尽くされておりますし、私の足元も一面が緑の絨毯。
上を見ても下を見ても、緑に覆われているだなんて。
時折地へと注がれる光。それに照らされる小さな花々たち。相まって、いっそ幻想的でした。
私や同胞にどことなく似たものにも会いましたよ。まぁ、色も違えば触り心地も違うでしょうから、綿密に似ているかと問われれば難しいところではありますが。
私たちよりずっと素早いですしね。私の目は赤々と光ることもありませんし。
気が立っているようだったので、あまり長居をしてはいけないと思い、足早に森を抜けることにしました。

ふと、大木に紛れるようにしながらもそれらをゆうに超える高さの塔が目にうつりました。
そのてっぺんで、どちら様かわかりませんが、ギラギラと輝くお体が見えたような気がします。
まぁ、あまり私には関係のないことのように思えますがね。

段々と大木が背を縮め、深い緑の絨毯もなくなってしまいました。
代わりに、見渡す限りに光を浴びた草原と、どこまでも続いていそうな道がありました。
これはいけないと思いながら、その道がどこに続いているのかが気になったのです。

今思えば、あまりそちらには行くべきではなかったのですね。
それでも行きたくなってしまった。行くべきではないと分かっていたのに。

遠くには巨大な壁が見えました。
行き交ういくらかの人々も遠くに見えました。
彼らがこちらを見たことにも、私を指さしたことだって、見えました。

少しだけ開いた門から、壁の向こうが見えたのです。
巨大な市場。賑わう人々。間違いありません。

かつて私もそこにいたという懐かしさに惹かれたのでしょう。

人の町を見て、私は踵を返したのです。
唐突に自分の居場所を思い出したような、あるいはお前の居場所はないと言われたかのような両極端な思いが心を占めたのです。
それに、このまま町の近くにいてはいつ人間に、ハンターと呼ばれる存在に襲われるかもわかったものではありませんから。

私は足早に来た道を引き返しました。
そして気がつくと、見慣れた銀世界がありました。

改めて思うと、ここは静かです。
いっそ孤独と感じるほどに静かで、だから私はそれを恐れて腐っていました。
しかし、それもまぁ悪くはないのかもしれません。
…こんなに感傷的な気持ちになるとは、すこしあちらこちらに行き過ぎて疲れてるのでしょうかね。

そんなことを思いながら、ふと思ったのです。
この雪山だって広大で、私の知らない場所がたくさんあることに。

折角です。今度はこの雪山でも、走り回ってみましょうかね。

mae  tugi
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