あの日、何もかもが息絶えたのだ///

やや呆然とした様子で、きらきらと陽の光を返す鉱石を見つめるオリーに変わり、ギルバートがそれを拾い上げた。ハンはといえば、それ以外のアイテムをポーチに詰めて、マカネコピックを担ぐ。
オリーとギルバートに一人で向かい合うように立っているこの状況は始めてだった。
今までギルバートは臆病なハンの隣にいて勇気づけてくれたし、何より、ハンはいつもオリーを前にすると恐れをなして俯いてしまっていた。
オリーのことをハンはずっと、強くて怖くて、それでいて勇敢で……自分には到底なれないどこか遠い英雄じみた存在にさえ見ていた。ガチガチにこびりついていた認識は、その分だけハンのことを卑屈にさせ、臆病にさせていた。しかし幸か不幸か、それは今日のつい先刻に崩壊した。
彼は思っていたよりもずっと自分と同じだと知ってしまった。あれほど近くて遠いと思っていた存在は、それまでよりぐっと親しみを持てる存在になってしまって、それでいて、そう理解してしまった今、今までよりずっと遠い存在となってしまった。

「…もう、行くにゃ。僕、行かないといけないにゃ」
「そう、か…」

ギルバートが小さく返す言葉を聞いて、尚更にその確信は深まっていく。一瞬の、たったひとつのことでこうなるとは誰も予想だにしていなかったことだろう。

お前にもそんな目ができたのか。
お前にも、そんな。

ハンは振り切るように首を振り、背を向けた。
ギルバートは、はっとしたように向けられた背を凝視した。

急に遠い存在に思えてしまうと同時に、まったく別の生き物に対峙しているような錯覚に陥る。現れた感情は、そう、恐れだ。それが彼その人へおそれか。変化へのおそれなのか。その背後にいる何かへの恐れなのか、検討はつかなかった。

一歩また一歩とハンが歩みを進める。
遠ざかっていく背中に、慌てて手を伸ばそうとしたのだが、かたかたと震える手では、触れることは叶わない。

「っ、は、ハン…っ」

呼び止めた声は思ったよりも小さく、掠れていて、情けない。
振り向いたハンの顔がどこか寂しそうで、不安げで。どことなく大人びてしまったが、ああ、なんだやっぱり彼は彼じゃないかと己を叱咤する。
なにも言えずに、ただ、自分がいつも首から下げていたそれを放り投げた。

「また、にゃ」

どちらが言ったのだろうか。
ただ、その言葉にへにゃりと笑ったのだった。


mae  tugi
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