心が息を返す音が聞こえたのだ///


かろうじてその小さな影たちがアイルーであると目視できる範囲。
トトはその見た目に反して拒絶される恐怖を思い描き、足を竦ませていた。

その集団から一歩また一歩とひとつが後ずさるのを目を凝らし、それが探し人…あらため探しアイルーであることがわかる。
表情までは伺い見ることはできないが、どうにも気圧されているようだということは伝わる空気で十分に判断ができた。
当然、会話などが聞こえることもないが、言い争っているような様子も見えた。

洞窟にいた時のように、身を縮こませるアイルーの姿に、トトは首をひねる。

(…仲間、じゃないの?)

彼女からすれば、アイルーやランポスといったモンスターたちは非常に小さく非力な存在でしかない。それは時に餌、と称するしかないほどに。
だからこそ、淘汰され、種を絶やさぬようにと彼らは寄り添い、群れを作る。それは孤高の存在であるトトやそういった強者の存在からすれば当然のことだった。

たしかに、群れのためなら、と時として大のために小を切り捨てるという選択をすることはある。だが、ある程度に知恵を持つ生き物ならば、あまり選ばない手段でもあったはずだ、とトトは再び疑問に首をかしげた。
それが、目前に天敵が迫っていて囮にしなければならない、などという差し迫った場面でもなければ、なんだかんだと長い時間をモンスターとして生きてきてしまったトトからすると尚更奇妙に映ったのだ。

(あんまりアイルーを知ってるわけではないけど…多分…めずらしい、よね)

やがて、アイルー…ハンは荷物を全て明け渡した。

立ち尽くす、といった表現がピッタリなその姿に、どくりと強靭すぎる心臓が脈打った。
くるりと踵を返した彼らに、じりじりと顔が熱くなる感覚に苛まれる。

満足げにぞろぞろと森へと帰り出す仲間だったであろう彼らに、しゅんと耳と尾を垂れ下げて俯く仲間に捨てられたであろうアイルーの姿に、久しく感じたことのない何かを思い出す。
それは沸々と湧き上がるかのようだった。
抵抗をしなかった彼にも、安々と冷酷なことをやってのけた彼の同種に対してもだった。
あまりに久しすぎて、それがなんというものだったのかも思い出せないまま、トトはやや赤く色づいた手で地面をえぐるようにして飛び跳ねた。

いつの間にか、恐怖は消えていた。
代わりにトトを支配していたのは、一言でいえば怒りと悲しみだった。

例えるならば、いじめの現場に鉢合わせたような。もっと言えば、仲良くしている子供にガキ大将が理不尽なことをしている現場を見てしまったときの近所のお姉さん、のような。そんな、どこか憎めない子供たちを叱りつけたいような気持ちでいっぱいいっぱいだった。
本人がそんなどこか気の抜けた感情に囚われていたのだと。彼らからしたらいかつくて怖いお兄さんに突然叱られるようなものであることを。
冷静に思い返したのは…もっと後になってからのことだったが。



滑るようにして跳び、アイルーたちのすぐ背後にある冷たい川に勢いよく足をつけた。
ばしゃぁ、と顔にかかった飛沫に頭が少し冷える。

驚愕に振り向いた目の前の彼を見て、あぁ、やはりこのアイルーだったか、とトトはひとり、満足げに目を細めたのだった。




mae  tugi
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