世界が色を変えた日のこと///
野を駆け、宙を舞い、少々途中でランポスを弾き飛ばした。
白い銀世界というに相応しかった不毛の大地から衝動的に飛び出して、周囲の景色がだんだんと緑が溢れていくのを目で追うのは楽しかった。
今思えば、初めてだった。
なんの因果か唐突にあの寒い死の銀世界で生まれてしまい。
いつか白に包まれながらあの土地で死ぬのだとばかり信じていた。
弱肉強食。
それ以外になんの言葉も似つかないような世界を残酷で苦しいだけの世界だと信じていた。
それが、ぐるりと姿を変えた。
弱ければ食われるだけの世界で、嬉しいことに自分は強者だった。(それも時として”絶対”強者と呼ばれるほどである。早々に食われるようなことはない)生きるためには自然の掟に従わざるを得ない部分もあるものの。
特異的に理性を存在させてしまっているトトは、全て従う必要はないのだとあの日知ることを許された。
どくりと心臓が高鳴るような、あの感動を、二度と味わうことはないのかもしれない。それほどの驚愕であり、それほどの歓喜に打ち震えた。
そしてそれは、自分よりも小さな小さな存在に教えられたことだった。
あの温もりがなければ、きっと今もまだ白い大地で安穏の中苦しんでいたことだろう。
だからトトは彼を求めていた。礼を。伝わらなくても、礼をしたい、と。
その一心で、轟竜は山を駆け、野を舞い、進み続けた。
初めてみる丘陵は眩しいほどに鮮やかだった。
流れる河、草を食む動物、駆け巡る風、揺らぐ花々。
抜けるような青空。空を優雅に舞う鳥たち。
現代の世界で見ていた青空はこんなに綺麗だったろうかと、トトは久しく己のいた世界を思い出した。
(嗚呼、やっぱり、うつくしい世界)
感嘆の代わりに口から漏れるのは醜い唸りだけれども。
それさえも、こんな世界を見れる代償だと思えば、気にならなかった。
すっかりと世界に馴染んでしまっていたことに今更ながら呆れながら、ぐるりと一帯を見渡しす。
川の近くに小さな影を見つけた。
きっとあれだ、間違いない。と直感が告げる。
すぐに駆けつけようとしたところで、はたと思いとどまった。
あの小さい存在は、どうにも自分の姿を恐れていたと。
小さい影が二つになったのが見える。
初めて、そこで、恐れられることを恐れる、などという複雑な感情に気がついた。
(私もまだそれらしい感情があったんだねぇ)
どこか嬉しさと、払拭しきれぬ不安に苛まれながら、増えていく小さな影を遠くから見つめていたのだった。
mae ◎ tugi