穏やかな丘の上///


荷物を持って、アイルーたちの村を出たハンは小高い丘の上で途方にくれていた。


雪山で見事に全てをぱぁにしてしまい、なんとか帰っても追い出されるなどというこの事態に未だ頭がついていかない気持ちでいっぱいいっぱいだったのだ。
なんとか家の持ち物を詰め込んだが、あまり多くないそれはすぐ終わってしまった。
またあの、冷たい目を向けられるのが怖くて、夜が明けるより少し早いうちに飛び出して、川べりで日が昇るのを見上げていたのが少し前。

行くあてもないハンはそのままそこから動くことができないでいた。


「……にゃぁ…」


しかしこのままこの丘陵にいることもはばかられた。うっかり仲間と会いでもしたら…そこまで考えでぶるりと身が震える。直接的に痛い目を見たわけではないが、それは一応のところ同胞として扱ってもらえていたからで。
そうではなくなったいま、かつての彼らが今までの鬱憤を晴らしにこないとも言い切れなかった。…ああ、そんな寒々しい関係だったのかと、ハンは川へと目を落とした。

雪山のほうにある村にでも向かおうかと考えて、仲間の声が蘇る。
弱虫で臆病で、何もできないお前になにができるんだ、と。


せめて自分に、もう少し勇気があったらよかったのに。
せめて自分に、もう少し得意なことがあったらよかったのに。


暗く沈む思考はとどまることをしらなかった。

いくらかそうしていたハンに、不意に声がかけられる。


「まだこんなとこにいたのかにゃぁ」
「!」


不愉快そうな顔で、顔に怪我をしているらしいアイルーが言った。
ハンは振り向くことができなかった。
しゅんと耳が下がり、しっぽも力なく垂れ下がっているハンに、そのアイルー…ギルバートは続ける。

「早く遠くに行くにゃ…オリーたちはお前のこと、よく思ってないにゃ」
「…し、知ってるにゃ」
「ハン、昨日、オリーが言っていたにゃ…次にお前を見つけたら痛い目に合せてやるって」
「…」
「だから、早く遠くにいくにゃ。俺はそんなの見たくないにゃぁ」

ギルバートの方を振り向くことなく、ハンはぐずりと鼻を鳴らした。
ごめんにゃ、と小さく謝ったハンの背中をギルバートが軽く撫でる。
ようやく顔をギルバートのほうに向けて、もう一度、ハンは謝罪を口にした。

「僕のせいで、怪我したって聞いたにゃ…ごめんにゃ、ギル」
「お前のせいじゃないにゃぁ。それに、これもかっこいいにゃぁ」

不機嫌そうな顔をしていたギルバートがにっと笑った。それにつられて、ハンもかっこいいにゃ、と小さく笑った。



「ギル!ハンから離れるにゃー!弱虫がうつるにゃ!!」


そんな空気を壊すように、オリー、と呼ばれていたアイルーが姿を見せたのだった。




mae  tugi
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