飛べない翼で空を駆ける///

(…行っちゃったのかぁ)

晴天の雪山は、ひどく眩しい。白い雪はキラキラと光を反射させて輝いている。
トトは陽を浴びながら、ぼんやりとアイルーへと思いを馳せていた。
食事としてモンスターを狩ることは以外に、生き物に接する機会はほぼゼロと言ってもいい。そんな寂しげを募らせる生活において、初めて自分とまともに対峙した初めての存在があの小さい存在だったのだ。

(元気に帰れたのかな…)

まさか助けたアイルーが今度は村から追い出されるなどという境遇に立たされているとも思わないトトは、のそのそと雪山を歩いていた。
特別に空腹なわけでもなく、ちょっとした散歩、といった程度のものだ。

ふと、視界の端に何かが映り込む。
少し遠いところで、何かが光を反射させていた。
罠かもしれないと慎重に近づいたそこには、小さいピッケルのようなものが落ちていた。

(ハンター…のじゃないよなぁ…小さいし)

先端の部分は美しい鉱石のようなものでできているようだが、美しさに反して刃は鋭い。持ち手は木で出来ているものの、シンプルな装飾が施されている。その大きさにトトの脳裏にはハンの姿が思い起こされた。

(まさか…おとしもの…?)

そういえば、あのアイルーが倒れていたのはこのあたりだったかな。とトトは周りを見渡した。よくよく雪に目をやると、採取したらしい葉や鉱石が足元に散らばっていることに気がつく。
間違いない、とトトはその小さな葉や鉱石を慎重に慎重にかき集め、同じく落ちていた袋へと詰め込んだ。
袋の紐をひょいと歯に引っ掛ける。袋から大きくはみ出した例の刃がトトの鱗に軽くあたった。


(緑の匂い)


袋からは、雪山ではあまり嗅ぐことのない青々とした深緑の香りがする。
きっとあのアイルーが住んでいたのは緑のある場所に違いないと見当をつける。
それからこの雪山の周囲に、木々の茂る場所といえば丘陵のあたりだろうと、トトは首を持ち上げた。

空は青々としている。
吹雪などなかったとでも言いそうなほどの快晴だ。
しばらくは空が荒れることもないだろう。
そう心の中で頷き、トトはその強靭な足で地面を蹴り飛ばした。


その日、白い雪山から橙の巨体が移動する姿を観測気球は見た。




mae  tugi
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