Merry Mary 8///

 壁に書かれた文字がまるで宙に浮かんでるようにさえ見える。指でなぞってみても、一体それがどんなもので書かれたかなどわかりもしなかった。

「出口なんてない、理由なんてない、か。」
「ほんっと不気味よね……。 だめだわ、鍵がかかってる。」
「まいったな…。」

 ぐるりと部屋を見渡す。少しばかり変わった形の部屋だ。壁に阻まれてよく見えなかった部屋の端までみようと顔をのぞかせて、壁から垂れ下がる紐をギャリーが見つける。

「紐?」
「引いてみるか。」
「えぇえ……頑張るわね。」

 嫌な予感がするわぁ、とぼやくギャリーの隣で苦笑しながらも揚羽は紐へと近寄った。端の一本を手にしながら、揚羽はギャリーを振り返る。

「そういうな。こうなってはなんでも調べてみるしかないだろう。」
「それもそうよね…!」

 仕方ない。ギャリーもそういいながら揚羽の近くへと寄り、また別の紐に手を伸ばす。

 軽く揚羽が紐を引いた。

「ぎゃあ!?」

 ギャリーが悲鳴をあげた。ちょうど紐を引いた直後、彼の背後に何かがぼとりと落ちてきたのだ。驚きに声を上げたギャリーが落ちてきたものを見る。
 未だ心臓がうるさいようで、胸元に手を当ててギャリーが声を荒らげた。

「びびびびびびっくりさせないでよ…!」
「に、人形か……。」
「ねぇ揚羽、あんたこういうのどう思う……。」
「……さぁな。」

 お化け屋敷か何かみたいだな、と揚羽はいう。今度はギャリーがそうね、と言いながら苦々しく弱い笑いをこぼした。

 そして今度はギャリーが恐る恐ると紐を引く。かちん。何か音がしたかと思うと、ちょうど揚羽のいる位置に赤い煙が噴出した。

「げほっ、げほ……な、なんだ今のは。」
「大丈夫?」
「あぁ…。」

 煙を吸い込んでむせる揚羽に引きつった顔をしたギャリーが声をかける。なおも咳き込みつつ、まいったなと笑いながら揚羽が小さく頷いた。
 残る紐を引く。カチ。音がしたが何も起きない。不思議に思いながらも、もう一度引く勇気はなく、残る紐を引く。

「いたぁっ!?」
「大丈夫か?」
「なんなのよあの手はぁ!痛いじゃない!」

 壁から現れた手に引っかかれ、ギャリーが叫ぶ。今度は揚羽が心配そうにギャリーを見る。しかし、部屋の扉が開くことはなかった。

 どうしたものかと二人が顔を見合わせてため息をつく。徒労に終わったのかと疲労感さえもにじませていた。

 そこに何かが落ちてくる。重たい音を立てて落下した来た物体に二人は驚いた顔で振り向いた。

「あら?」
「これは……。」
「上から落ちてきたけど…… まさか、あそこにはめろっていうんじゃないでしょうね。」
「やってみるしかないだろう。」

 落下してきた物体に二人は首をかしげるしかなかった。オブジェだろうか。三角系にも見えるそれに特別、変わった様子は見受けられない。

 しかし、ふたりは室内の一点を見つめていた。広い部屋には不自然なくぼみがひとつあったのだ。
 まさかと思いながらもギャリーがずりずりと重たそうにオブジェを移動させ、くぼみにはめる。

 かちん。

「……。」
「……行きましょうか。」
「あぁ。」

 聞きたかったであろう物音にふたりは今一度顔を見合わせ、ため息をついた。


 扉はすんなりと開く。一体どういう仕掛けをしているのかと揚羽もギャリーも額に手を当てる。この建物、いや空間は、本当に不可思議で構成されている。



mae  tugi
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