Merry Mary 6///

「どちらが正しいのか…か。」

歩みを進めると二つの扉に、絵画が一枚。
嫉妬深き花と題されるものの、何も描かれていないそれに眉をひそめる。
片方の扉は、やはりというべきか、鍵がかかっていた。

仕方ないと四人はもう一つの部屋に足を踏み入れる。

「…こ、れはまた…」
「…なによこれ…」

扉をくぐってそうそう、揚羽とギャリーは足を止めてしまった。
イヴとメアリーはその二人にも気がつかず、中央の絵まで歩みを進める。
周囲を見渡し、再び絵を観るイヴの後ろまでギャリーが続いて、ぶちぶちと文句を垂れる。

「…ったく、この絵といい部屋といい…なんでこんな気色悪いのよ!」
「え?そうかな…カワイイと思うけど」
「えー!?これのどこが可愛いのよ!」
「そうかなぁ?イヴはどう思う?」

揚羽はといえばそんな三人の様子を入口のドア付近から、やや頬を引きつらせながらも微笑ましく見守っているだけである。
さっさと調べてとっととでましょ、というギャリーの言葉には賛成だ。
両脇の本棚を調べ、置いてあるものも調べたが…特別、なにも見当たらない。
不意に、棚の上からぼとりと落ちる。
きらりと視界の端に光るものを見つけ、イヴが拾い上げた。

「鍵…か?あぁ…隣の部屋のかもしれんな。」
「そうね、行ってみましょう」

イヴもメアリーもこくりと頷き、廊下を進む。
ふと、何も描かれていないあの絵の前でイヴが立ち止まる。
つられるように、全員が足を止めた。


がさ、がさ…

どこからか妙な音が聞こえる。きょろきょろと周囲を見渡すが、やはりなにもない。
イヴがじっと絵を見つめる。それはまるで絵の中から聞こえているかのようだ。

「なにこの音…近づいて来る…」


がさがさがさ…

音が素早く近づくとともに、絵の中の花もまた、額縁の外へと近づく。
ばっと花が飛び出すと同時、イヴのすぐそばの足元から勢いよく茨のようなものが飛び出してきた。


「な!?」
「地面からなにか出てきた!」

続いて、ごごご、と足元が大きく揺れる。
ギャリーがおろおろとしながらも、声を荒らげた。

「な、なんかまずいわ!みんな絵から離れて!」
「イヴあぶない!」
「っ…!」

咄嗟に、各々が絵から距離をとる。
それと、同時だったろうか。物々しい音を立てて、いばらはさらに太く大きく、周囲を貫いた。少しでも遅れようものなら、鋭い剣のようなそれに串刺しにでもされていたかもしれない。
茨が大きく道をふさぎ、四人はそれぞれに分断されてしまう。
ギャリーが茨の近くから、向こう側の二人へと呼びかけた。

「二人共大丈夫!?」
「あーびっくりした!」
「イヴは?怪我とかしてない?」

こくり、イブが頷く。メアリーがちらとふたりを見た。

「メアリー、君も怪我はないか?」
「え、あ、うん! 大丈夫!」

揚羽が聞き、一拍遅れてメアリーはにこやかに頷いた。それを見て、揚羽たちはほっと息をつく。

「そうか…ならよかった。」
「それにして、これ……邪魔ね。そっちに行けないわ。」
「まいったな……。」
「しかもなにこれ!?石でできてるわ、この植物…!」

ぺたりと茨に触れたギャリーが声を荒らげた。軽く叩いてみても、その茨からはこんと硬い音が跳ね返る。力づくでどかすにもどかせないだろうそれに、二人はどうしたものかと視線を交わした。

そんな中、メアリーがいう。

「ねぇイヴ、さっきの部屋で鍵拾ったよね。」

イヴが鍵を取り出した。きらりと光るそれをみて、揚羽たちは首を振る。

「まさか二人で行くつもりか?」
「だめ? だって、あっちの部屋、もしかしたらこれを壊せる道具とかあるかもしれないし…… 見てきてもいいよね?」
「うーん、でも……二人だけで大丈夫かしら……。」

なおも不安げに渋るギャリーに、メアリーは笑顔で大丈夫だとつげた。

「大丈夫よ!ねぇ、揚羽、行ってきていいでしょ!」
「……何かあったらすぐ戻ってくるんだぞ。」

仕方がないと先に折れたのは揚羽であった。メアリーはその返答に嬉しそうに笑う。

「はぁい!」
「ちょっと、揚羽!」
「仕方がないだろう…… どのみち、これがどかせないんだ。」
「それは…そうだけど…。」
「イヴも大丈夫って言ってるし!ね!」
「……わかったわよ、何もなかったらすぐに戻ってくるのよ?いい?」
「はーい!」

そしてギャリーも仕方がないとため息混じりに了承を告げる。それを聞いたメアリーがイヴの手を引いて去っていく。角を曲がった二人の姿は、すぐに見えなくなった。
がちゃんと鍵を明ける音と扉が開閉する音が少し離れたところから聞こえてくる。揚羽とギャリーは静けさの中、冷たいいばらの隙間から二人が去っていった方向を見続けるのであった。


mae  tugi
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