Merry Mary 2///

「…参ったな…ここはどこだ?」

ぽつりと男がつぶやいた。
その小さなつぶやきに返事をするものはいない。
きょろりと周囲を見渡す。
…が、人の気配もなにも、ありはしない。

「…美術館にいたはずなんだがな…」

耳によく聞こえる低い声でうなるものの、その声は空気に溶けて消えた。
短いとは言えない程度の年月を生きてきた男にとっても
このような体験は初めてであり、顏には出ていなくとも混乱はしていた。

確かに、美術館にいたはずなのだ。
彼の言うとおり。

ゲルテナの美術作品を順番に見て回っていた、と記憶している。
一階から順繰りに、急ぐ用事もないとゆったりと。
中には先に二階へあがる者もいた。
各々が自由に、穏やかに、時にひどく感情をあらわに作品を熱心に見ていた。
その横へ並び、すり抜け、自分もまた作品を見回っていた。
もとより多少はゲルテナのものについては知識はあったため、いざ実物を目の前にしてみると…なかなかに面白いものがあった。
ゲルテナ展がやっていると知ったのは偶然ではあったものの、熱心に鑑賞していたことには違いない。

それで…どうして自分はここに居るのだろうか。
もう一度見渡せど、薄暗い廊下は見たことがない場所だ。

(うっすらと覚えているのは…たしか……)

記憶をさかのぼり、考え込んでいる男は気がつかなかった。
普段ならばそこそこ気配には敏感だというのに、
突然の事態というのは正常な感覚をも奪い去るのだった。


「…おじさん、大丈夫?」
「ん?」

おじさん、と呼ばれて男が振り返る。
振り返った先に居たのは年端もいかない少女だった。

「わたし、メアリーっていうの。おじさんは?」
「メアリー…?そうか、私は揚羽だ。」
「揚羽……うん、うん!よろしくね!」

金の髪が薄暗いこの廊下において唯一輝いてみえた。
少女の名前に、笑顔に。
なにかひっかかるものを感じたが、思い出さないようにと無意識で揚羽は、それに蓋をしたのだった。


しらないほうがしあわせだ、と
だれかがいったようなきがした



(あぁ、よろしく。ところで、ここは…どこなんだろうか)
(……んー…んー…っと…わかんない!)
(そうか)




mae  tugi
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