■ 08.Thinking cannot be stopped.

ハルノの事が外部に漏れると色々ヤバイということで、俺たちDIOの部下には緘口令が敷かれることになった。そもそもハルノの事を知っているのは俺とかテレンスみたいに四六時中DIOの館にいる奴だけなので、別にどうこうなるもんではないと思ってしまうのだが、まあDIOにも何か思うところがあるのだろう。吸血鬼の考える事なんて俺がわかるはずがない。

そんなこんなで今日も真夜中生活の俺たちは、きゃっきゃっとはしゃぐハルノにデレデレな毎日を送っています。見てみろよ、テレンス。天使がいるぜ?本当ですね。とかやってる俺らはもうダメだと思う。

言うならば砂漠に降ってきた一滴の雨みたいな。
殺伐とした陰険空間に舞い降りてきた癒し的な。

癒しに飢えていた俺なんてもう目に見えて元気になったらしく、エンヤ婆に呆れられました。もっとも、完全にハルノのお婆ちゃん化してるエンヤ婆の方が引くレベルだけど。息子も引くレベルだったけれども。どんまいJ・ガイルとか言える間柄じゃないから黙っといたけどさ。

よしよしとハルノをあやしていた俺は隣からチラチラ伺ってくるヴァニラに目をやる。
この男もポーカーフェイスが上手いだけで、内心相当ハルノにデレデレなのを俺は知っている。朝方破顔して接しているのを見た時なんて・・・。ドアのそばでガタついた俺悪くない。
そんな経緯があるせいか、どうにも俺の中でのヴァニラ像がぐらついてしゃーないのだ。
ちらり、と彼の顔色を窺った後、俺は思い切って腕の中の子供を彼に押し付けてみた。




「ほら」
「な、なにをする影崎!!ハルノ様の世話係を仰せつかったのはお前だろう?!それを放棄するなど・・・」
「そんな嬉しそうな顔して言っても説得力ないからさ。ほらほらハルノ様、この人がヴァニラ・アイスですよ〜」





数回目をパチパチさせた後、ふにゃりとハルノが微笑んだ。
固まるヴァニラ。
これは・・・完全に落ちたな。最期の砦が崩壊する音を確かに聞いた俺は、その緑の双方に友人の面影を重ねながら遠い目をした。恐るべし新生児。恐るべきジョナサンの血。
って、いかんいかん。つい思考がトリップしてたよと頭を振った俺は、未だに隣で固まったままのヴァニラの脇腹を肘でつく。肘が筋肉で弾き返されるなんて、俺はじめて・・・。



「なんか・・・ほんとに、すごいね」
「ふ、相変わらず貧相な体つきだな」



ヴァニラの目線はばっちりハルノに向いたままで、そんないつもより三割増し(当社比)なデレデレ顔で言われたかない俺はフンッと某ラピュタのおじさんのように身体に力を入れる。が、まあ服が破ける筈もなく、徒労に終わる。
俺よりもはるかに大きな手でハルノの髪を不器用な仕草で撫でている男は、服パーンが本当に出来そうなのが悔しい所だ。
というか絶対あのおじさんとかヴァニラとかジョナサンとかは筋肉族っていう新しい人類だと思う。じゃないと俺・・・俺・・・。



「そういえば、お前の代わりにテレンスが汐華様のお世話係になったそうだな」
「そうなんだよねー・・・おかげで俺がテレンスに和食を仕込む羽目になったよ・・・」
「貴様はどうでもいいとして・・・まあなんというか、テレンスも大変だな」



前任の俺と前々任のヴァニラがそろって同情する中、同時期にテレンスがくしゃみをしたとかそうでなかったとか。
しっかし、苦労性テレンスと筋肉ブルマの化身ヴァニラと溜息癖の俺ではハルノの教育的にまずい気がしないでもないが、それでも今日もこの子の為に頑張ってやろうという気になるのから不思議で、ハルノのおかげでこの館で息をすることが随分と楽になったような気がする。



「ありがとうな。ハルノ」



お前のおかげで、俺は今日も頑張れる。

小さな手にそっと触れれば、ハルノは俺が思っていたよりも強く俺の指を握ってくれた。




(ほんの少し、泣きそうになったのは内緒だ)


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