■ ◆パッショーネ・パーティ

俺がパッショーネの執務室でパソコン相手に睨めっこをしていると、不意に小さく息を吐く音が聞こえて来た。あれ、珍しいなんて思いながら、顔をあげてその溜め息の発生源を見る。金髪碧眼、見目麗しく逞しくなった彼―――俺とってはまだまだ子供だと思っている初流乃ことジョルノは、書類を見ながら眉間に皺をよせている。



「・・・ハア」
「どうしたハルノ、溜め息なんて吐いちゃって。幸せ逃げちゃうぞ?」
「父さんに言われると説得力が物凄いんですが・・・、いえ、実は先日のパーティの食事が鶏肉メインだったので、今度のパーティでは鶏肉がなければいいなと思ったのですが、このメニュー表を見る限り今度も食事は期待できないようです。・・・少し憂鬱になっただけですよ」
「ああ、そっか。ハルノは鶏肉が苦手だもんなあ・・・」



まだ小さいハルノに焼き鳥の串が刺さったまんま置きご飯をしたフリーダム汐華様の例のアレが発端となって、ハルノは今でも鶏肉嫌いだ。それはもう見るのもあまり好きではないらしく、パーティなどのほとんど食事が出来ない場でもそれは変わらないらしい。



「俺がパーティの厨房について、ハルノの好きなものばっかりつくってやろうか?ほら、プリンとか・・・」
「それは是非家でやってください。あと今夜はオムライスがいいです」
「はいはい・・・って、また仕事持ち帰るの禁止だからな」
「時間を無駄にしたくないので却下します」
「なら今夜は鳥そぼろご飯」
「・・・オムライス」
「・・・そんな目をしても駄目なもんは駄目だ。ほら、ハルノは働き過ぎな気があるんだから今晩くらいダラダラすごすこと。それが出来るなら俺はちゃんとオムライスを作る」
「・・・仕方ありませんね。鳥そぼろは勘弁ですから、仕方なく無駄な事をしてあげましょう。あとプリンもちゃんとつけてくださいね。僕は今日、ごまプリンの気分です」



ブフォと向かいにいたミスタが激しく咳き込んでいたので、そんなにこんな感じのハルノが珍しかったのだろうか。彼は家では常にツンツンデレなので俺はほほえましーく、ハルノを見るだけで何もしない。家でくらい我儘を言わせてやるのが俺の役目だよなあと思うくらいだ。それがまた彼のツボにジャストヒットしたのかは分からないが、また咳き込みながら笑っている。
そんな中、彼の背後にゴールド・エクスペリエンスが見えたので俺は思わず合掌した・・・ああ、ミスタご愁傷様です。なんて思いながら、俺はこっそりパソコンで次回のパーティの日程を調べる事にする。主催はどうやらパッショーネのようで、なら鶏肉を辞めてもらえばいいのになあなんて思うが、変なところでプライドが高いハルノの事だ。側近の人以外には弱みを見せない為に何も言わないのだろう。弱みっていっても鶏肉嫌いなだけだけど。



「・・・あ」



ああ、そうだ。いい事思いついた。
その時の俺はきっとピコーン、と頭の上に電球が2、3個ついていただろう。ミスタの絶叫をBGMに、俺は早速とある人のダイヤルをプッシュしたのだった。イチゴファッションの彼は今、どうしているだろうか。



□■□



今日のパーティでは、何故か事前に報告されていた僕の嫌いなものはあまりなくて、取引相手と談笑しながらもある程度食べる事は出来ていた。ボスとしての僕は多忙だ。ほぼイタリアの全権を掌握しなけらば行けない身としては、ある程度緊張はするが物怖じはしない。これくらいやってのける話術と力は十分持っていると自負しているし、そもそも今日はパッショーネが主催であるから、食事に毒を盛られたり、奇襲などの対策も完璧に対策済みだ。変に気張るのも仲間を信頼していない事に繋がるので、適度な警戒程度にとどめるべきだろう、と僕は一旦フォークを置き、ぐるりと会場を見回した。フロア内は元護衛チームが警備を務めているし、場外だって今はもう忠誠を誓ってくれた彼らに任せている。
唯一僕の側近でこの場にいないのは父さんくらいなものだ。まあ彼は一回もパーティに連れてきたことなんてないんですけどね、なんて思いながら交渉相手が勧めてくれたデザートをありがたく頂く事にする。



「いいシェフをお持ちですね、ドン・パッショーネ。特にこのデザートは素晴らしい!」
「ありがとうございます。実はまだ私は食べていないので、頂いてみる事にしますよ」



実はこの会場をセッティングしたのはフーゴなので、僕はお抱えのシェフというものを知らないのだが、今度会った時は鶏肉以外のものをリクエストしようと思う。それなら、ボスのメンツと言うのも幾らか立つのでは・・・いやでも好き嫌いでメンツも何もあったもんじゃなさそうですが、何となく僕が弱みを見せるのが嫌だ。弱みを見せるのは信頼できるものだけでいいと考えている身としては、これがベスト。そんな事を思いながら、少し見覚えのあるデザートを口に含んで、僕は思わずにやけそうになる口角を律する事になった。この味を、僕が間違えるはずがない。
まったく。



「(・・・やれやれですね)」



思わず、ボスの仮面が剥がれ落ちるところだったのを寸前のところで留めた。
父さんの味がするという事は、きっと鶏肉の事もうまい具合にシェフに伝えてくれたのも父さんなのだろう。そしてちゃっかりデザートも作って行った彼は、僕がこれを食べた時の驚きとか、にやけるのだとか、そういうのを考えなかったのだろうか。

これは次に何か僕からもサプライズをして驚かせなきゃ気がすみませんね、なんて思いながら、僕は交渉相手に思わず笑顔を向けた。



「ええ、確かに。彼は僕の自慢のシェフですよ」



パッショーネ・パーティ



(後日、やられっぱなしは性に合わなかったハルノがやり返したとか)(そんなつもりじゃなかったんだけどな!)



塔野様リクエストありがとうございました!

[ prev / top / next ]