■ 45.Evil and Justice are the same things.

「―――んーッ!!」



旧DIOの館に着いた俺を出迎えてくれたのは、猿轡と目隠しと耳栓をさせられて更に手足を縛られて床に転がされている女の子だった。予想の斜め上を行くある意味危ない光景だよ。おい、ギャングおい。で、・・・つまり、どういう事なの・・・と内心困って男に目線を送れば、彼はフッと息を吐き出して口角を緩めた。



「この娘は、あの子供が確実にジャッポーネにいるという確信を持てる情報を持っている。奴らはこの旧DIOの館を常に監視し、どのような人物が新しいDIOの館に行き、残ったかを把握している筈だからな」
「・・・監視してただって?何故?」
「君は頭がマヌケかね?彼らに情報を与えたのは他でもない、君じゃあないか」



さあ、その手で確証を掴んで見せろ。そう言って彼女の目隠しと猿轡に手をかけた男は、俺に向かって「さあ、早く聞け」とばかりに鋭すぎる目線を寄越した。SPW財団・・・情報・・・?と頭の整理が追いついていない俺が彼女の顔を見る為にしゃがんだ途端、猿轡を外されたのだろう、彼女の大声が俺の耳を直撃した。そして彼女の顔を見てハッとする。お前は・・・。



「なんや自分らッ!ウチを捕まえてどうする気ィやッ?!・・・って、自分・・・その顔・・・」
「・・・まさか、SPW財団の、鳥のスタンド使い・・・?」
「自分は・・・まさか影崎かッ!?まんまとやってくれたなァッ?!最初からウチを捕獲する為にSPW財団にこの館の情報を流したっちゅうわけかッ!」



いや、全然違います・・・と言っても彼女は聞こえない状態だったので、取り敢えず彼女の耳栓が外されるまでじっと待っていると、彼女のマシンガントークが止まった。
どうしたんだろう、と思っていると、彼女がぽつりと一言。



「いやでもなんか・・・自分、やっぱりそんな顔してへんなあ・・・。隣の老いとる男はガッツリ怪しいけど・・・なんちゅうのか・・・覇気がないというか、オーラがないというか・・・自分が主犯っぽくないっちゅうか・・・」



それは喜んでいいのかどっちなんだろう・・・と複雑な思いに駆られながら取り敢えず苦笑した俺は、彼女の前に座り込んで両手をあげた。突発的な行動だとは思う。けれど、彼女は今捕らわれの身だ。そんな所に急に現れた俺が、敵意を示していない事を伝えるにはこれが一番手っ取り早いし、それに俺は最初から彼女に危害を加えるつもりなんてない。それに、俺のせいで捕えられた彼女には、個人的にこれくらいはするべきだろうと思ったから。



「俺は、君に聞きたいことがあるからここに来たんだ。危害を加えるつもりなんて毛頭ないし、答えた後で君を始末しようなんて考えてない。本当に聞きたいことがあるだけなんだ・・・お願いします」



どうか俺の質問に答えてください。と敵意がないことを更に手をあげて示しながら、俺は深く頭を下げた。

俺はただ、ハルノ達が本当にこの館から無事に出られたのか知りたいだけだ。
俺を守ってくれたハルノを、逃がしてやれたのかどうかの確証が欲しいだけなんだ。
お願いします、ともう一度深く頭を下げると、しばらくの後、頭上から大きなため息が聞こえてきた。こてこての関西弁の声色の中に、困惑と少しの呆れと、憐みだろうか、が混ざっている。



「自分、やっぱ変な奴やなァ・・・悪なのか正義なのかハッキリ分からんわ」
「・・・」
「でも影崎には”貸し”があるさかい、・・・ええよ。ウチに答えられる事なら何でも聞きい」



ばっと顔をあげた俺の顔があまりにも必死なせいだったからだろうか、少しビクッと身体を揺らした彼女はやはり苦笑していた。やはり、余裕なんて直ぐなくなってしまう自分はそこまでの人間なのだろう。現に今でも心臓がバクバクと打ちっぱなしで、息だってし辛い。

けれど、これが今の俺のベストだ。胸を張れ俺!頑張れ頑張れと、自分自身を鼓舞しつつ(じゃないとやってられない)、落ち着くためにゆっくりと息を吐き出した俺は、男が見守る中、彼女にどうやって上手いこと質問しようかと考えを巡らせた。



悪は正義であり、正義は悪である



(人によって、立場によって、それらは逆転するのだから)


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