■ 44.It becomes past without being able to catch up with it hastily.


「何じゃあこれはァーーーーッ!目の前が全く見えんッ!」


ホーリーシット!とやけに大声で騒ぎだした老人の声をBGMに、俺はいつの間にか店の外に出ていた。どうやらジョセフ・ジョースターが店に入ってきた瞬間、ギャングのアイツが煙幕を焚いて人間業とは思えない手際で俺を掻っ攫ったようだ。
白煙がもくもくと立ち上ったせいで視界は真っ白だし、息はし難いし、花京院くんと最後まで話せなかったしで最悪な気分になりながら、俺はらしくもなく奴の腕の中で暴れた。あれじゃ花京院くんの死亡フラグが立ちまくりな上に、ジョナサンの事を話した俺が発破をかけたもんじゃないか。後味悪すぎにも程があるし彼にはそんな事はしてほしくない。百歩譲ってもせめて元DIOの部下のポルナレフも連れてけ!と言いたい。いや、本当はDIOと対峙なんかしてほしくないくらいDIOはヤバイ奴なのだけれども。今すぐ身を引いて欲しいけれども。



「くそっ離せ!」
「今ここで貴方を離したとしましょう。それでどうするのです?あの花京院典明が貴方の説得で思い止まると思いますか」
「・・・・・」
「思わないでしょう。それに、ここで彼らと私達が対峙してもあちら側に不利しか被りませんよ」



物静かな態度のまま俺に話しかけるこの男は、一体何を考えているのだろうか。正直言って冷や汗しか出てこない。ああ・・・現実逃避に甘いものが食べたくなってきた・・・。



「・・・ちなみに、理由を聞いてもいいですか・・・」
「組織的なバックアップがあるコーザ・ノストラに所属していたならまだしも、今の私は荒くれ者共の所属するギャングの一員なのですよ?振りかかる火の粉は自らの手で払っておく事に越したことはない」
「・・・つまり?」
「私の顔を見られたら、彼らと言えど生かしてはおけないという事です」



SPW財団の息のかかっているものに顔が割れる訳にはいかない、と穏やかな顔してコッチ見てるけど、それ100%俺の事脅してるよね?花京院くんをこのまま放っておくか、構って殺すかの二択しかない訳ですね分かりたくなかったよ馬鹿野郎。



「・・・先を急ぎましょう」
「懸命な判断をありがとう、影崎」



成人男性である俺を担いで移動する老人に火の粉を払う能力がある事を雰囲気的に分かっている俺は、重い息を吐き出しながら目を閉じた。
今日は1月16日。間違いなく厄日だ・・・と思いながら、俺はそろそろ自分の命の危機に気がついていた。ヤバい奴と手を組んじゃったなあ、の一言に尽きる。いや、ヤバさは分かってたけど。今回のでヤバさレベルが一気に100上がった感じ。自分の顔を見られただけでやっちゃうとかどんだけだよ。やっぱりヤバいよこの人。俺もやられてしまうんだろうか。笑えない。

DIOの館の場所も変わってるって花京院くんが言ってたし、俺を連れて行くのも古い方のDIOの館だろう。でも古い方の館にハルノがいなくても、それは即ちハルノの無事にはつながらないんじゃないか?いや、逆にハルノ達がいなくなったからこそ、DIOは場所を変えたのか?それもどうなんだろうか。ただの偶然?

うーん、と普段は使わない頭を頑張って使うがどうにも答えはでない。
逃げるべき?いや、でも逃げれないだろうなあと思う。ジョセフ、花京院くんを前にしても微動だにしなかった実力の持ち主は、おそらくジョセフにも負けないくらい経験だって豊富だろう。圧倒的実力差と経験の前にやれることはなんだろうか。いや、そもそもコイツは俺との関係をフェアだと言った筈だ。じゃあ殺される事はない?いやいやいや油断はできない。いやでもあの写真は本物だったと俺の親バカ(ハルノ限定)フィルターが告げている。あの写真に写っていたのは間違いなくハルノだった。つまりハルノは無事だ。という事は、ハルノはまだこの男たちの手の中にいるという事で、俺が逃げればハルノも危険に・・・うーん、と眉を寄せながら対策を考えるけれど、それもなあ・・・。と唸り、俺は結局旧DIOの館につくまで唸り続けたのだった。





急いても追いつけずに過去になる






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