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■ 43.True valor lies between cowardice and rashness.

声が、出ない。

何度も、彼には話そうと意気込んで声を出そうとするけれども、舌の根本がカラッカラに乾いてしまって声が出ない。俯いたまま、花京院くんの声を聞いていた俺は思わず歯を食いしばった。

情けない。



「――ない」
「!」
「―――スタンドの名前なんてない。それに俺はもうDIOを裏切った。新しいアジトなんて、今初めて知ったよ」



自分の事を話す時には、声は出る。
けれど、DIOの事を話そうとすると途端に声が出なくなってしまう。
それは、俺がDIOに”敵わない”と思ってしまったからなのか、あああああ・・・歩く18禁爆発しろと思いながら、俺は思わず苦笑しながら二の腕を摩った。
背筋が冷たくなって、人の命を簡単に摘めるあの手と、2つの赤い目を思い出す。
怖い。アイツが、堪らなく怖い。

花京院くんに会ってしまったなら、言わなければならないだろう。そう思って俺が体験したDIOのスタンドの事を話そうを思ったのに、声が出なければ意味がない。
手も震えてしまって、きっと字も書けないだろうと未だに震える腕を摩った。

切羽詰まった俺に追い打ちをかけるように、花京院くんが口を開く。



「貴方がDIOを裏切ったと言うならば、ぼく達にDIOの秘密を教えてくれ」
「・・・それは、出来ない」
「―――わからんヤツだなッ!」



傷のついた眉を釣り上げて激高した花京院くんが俺の前まで来て胸倉を掴んだ。
高校生とは思えない力で俺を揺さぶった彼のアメジスト色の目はDIOの館に会った時とは比べ物にならないくらい生き生きと澄んだ色をしている。そして今は仲間の為に、その目の光は燃えていた。



「ぼく達にはもう時間がないんだッ!貴方のお遊びに付き合っている暇はないッ!」
「遊んでる訳じゃない!話せないのは、俺がDIOに恐怖しているせいだ・・・」
「それならば、ぼくのようにDIOの恐怖を克服すればいいッ!」
「・・・なんだって?」



ジョナサンの師匠さん曰く、恐怖を我が物にする事で勇気を得るそうだが、まさしくその通りだと思う。今の彼は恐怖を克服した事で、勇気に満ち溢れている。けれど、恐怖を我が物にしたジョナサンの師匠は戦いで死んでしまった。その弟子であるジョナサンも死んでしまっている。
だから、俺に言わせれば恐怖は生命線だ。いつだって臆病者が生き残るんだぜ、と言うホル・ホースの言葉も手伝って、俺は焦った。それは、駄目だろう花京院くん。バカか君は。いつの間にか思っていた事も声に出してしまっていて、どこからどこまでが自分の心で叫んでいた事か分からない。けど、自分の頭に血がのぼりきっているってことだけは分かった。柄にもなく本気で叫んでしまう。



「死に急ぎ過ぎだ馬鹿野郎!ジョナサンやその師匠の二の舞になる気か!」
「な・・・」
「普通に考えてみろ!恐怖するって事は、身の危険を感じてるって事だ!克服したって事は乗り越えたって事だろう?!恐怖というストッパーを自ら外すなんて正気じゃない!」
「くっ・・・、それでもぼくはDIOに屈した自分が許せなかった!後悔はしていないッ!ぼくから言わせれば貴方は臆病者過ぎる!それに、貴方の言うジョナサンがジョナサン・ジョースターだというのなら、彼のように恐怖を我が物にしなければDIOには勝てないんじゃあないのかッ!それならば、DIOの恐怖を克服したぼくがDIOと戦わなければならないんじゃあないのかッ!」
「!」
「ジョースターさん達はDIOの恐怖を知らない!ならば、それを知っている僕じゃなければできない事があるってことだろう?」



あれ、これってもしかしてあかんパターンじゃね?と頭といわず背中までひんやりとしてきて俺の顔が引きつり始めたころ、中々店から出てこない花京院くんを心配したのか、エジプトでも群を抜いてデカい影が店の中に入ってきた。

100%葡萄ジュースみたいに雄フェロモンを濃縮還元した2メートル級の巨人ではなく、どちらかと言えばトレジャーハンターのような出で立ちの若々しい老人にジョナサンの面影を見て、俺は溜め息を吐きたくなった。タイミングが悪すぎるのは、俺が正しい道を歩いていないからか、それともただ単に偶然なのか。それは分からないけれど。





極端な臆病と無鉄砲との中間にあるもの





(止めようとしたのにどうしてこうなった・・・)


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