■ 42.The thing to dwell in if do not name it does not dwell.

「ーーーハイエロファントグリーンッ!」



自身の半身を呼び出しながら、ぼくは灰色の装束に身を包んだ男性を見て、そして固く拳を握りしめた。

どうしてここにいるのかと聞きたいのはアナタじゃあない!ぼくの方だッ!

そう口にしながらDIOの部下であるその人が構えたのを見て、ぼくもハイエロファントの身体を紐解いて戦闘態勢に入る。話には聞いていたが、本当にぼくらの前に立ちはだかるなんて。
やはり、DIOの部下か、と冷めた気持ちになりながら、言葉を吐き出した。
許せない気持ちと、理解者を得た時の過去の歓喜の気持ちがせめぎ合ってグツグツと胸の奥が煮え滾る。なんなんだこの人は。



「また承太郎やイギーを狙いに来たのかッ!」



彼は答えない。



「それにスタンドさえ出さないとは、我がハイエロファントグリーンも舐められたものだなッ!」



さっさとスタンドを呼び出して、正々堂々と戦ってもらおう!と宣言しても、彼の顔は俯いたままで視線さえ合わなかった。

グッと固く握った拳を更に固くして、ぼくは彼を見る。店内だからか、攻撃動作も見せず、スタンドの名前さえ呼ばないこの人は、やはり異質だった。

訳がわからない。
だから、ぼくはこの人と会いたくなかったし、戦いたくもなかったんだ、というのが本音だった。彼と対峙するということは、黒板に爪を立てた時のような気持ち悪さと抵抗感を持たせる。本当にこの人は何がしたいんだ?と問い詰めたくなる程の彼の奇妙な行動が、それに拍車をかけていた。

今でも思う。
スピードワゴン財団職員をホルホースから逃し、DIOの旧アジトを教えてくれ、ぼくの話に耳を傾けてくれた『影崎さん』と、承太郎と一戦を交え、僕と対峙しているDIOの刺客としての『影崎』と。
はたしてどちらが彼の本当の姿なのだろうかと。

それらを全て無理矢理嚥下してから、動かないままの彼を見続けていたぼくは、もしや逃走を図ろうというのではないだろうな、と訝しみながら言葉を続けた。



「・・・残る九栄神は確かアトゥム神だった筈です。貴方のスタンドが、そのアトゥム神なのですか」
「・・・」
「だんまりとは感心しないな。だが新しいアジトが見つけられて焦ったDIOが差し向けたのがアナタとは・・・余程DIOに信頼されているのか、それとも」
「―――ない」



不意に彼の声がして、ぼくは警戒度を高くして身構えた。ここで攻撃を仕掛けてくるならゼロ距離エメラルドスプラッシュも辞さない、と覚悟したところで、彼の声がまた溢れて、落ちた。



「―――スタンドの名前なんてない。それに俺はもうDIOを裏切った。新しいアジトなんて、今初めて知ったよ」



ハイエロファントの動作が、幾分か鈍くなった、ように思う。それは、それくらいぼくたちにとっては衝撃的な事で、彼がどんな顔をしていたのかも、ぼくたちにはわからなかった。



宿るもの
宿らないもの




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