■ 41.Only their fate cannot change any Stand.

俺たちがカイロの街に着いたのは、13時ごろだった。
ああー、長かったなあと呟きながら、久しぶりのカイロを見回してみる。
ロープが張り巡らされた市街地には洗濯物が吊るされ、600万人都市だけあって駅前はこれでもかというほど様々な人々がひしめき合っている。そんな人々の中に紛れるために今の俺の格好は白黒の普段着とは違い、灰色無地のガラベーヤにターバンというエジプト人ルックであるのだが、これはまあはDIOを裏切った身であるのでしょうがないだろう。
用心に越したことはないし、と水タバコを吸う現地の人を眺めながら、思わず懐にしまったハルノの写真のある場所を手で触った。



「赤の他人だろう」



え?と咄嗟に口から出てしまった言葉は、どうやらギャングの男に届いたらしい。あの子供の事だ、と言われて、また俺は写真のあるところをさする。まあ客観的に見れば、確かにそう感じるだろうなあと思わず笑ってしまった。でも。



「でも、もう息子同然なんです。それにハルノは命の恩人でもあるし」
「命の恩人、とは?」
「もしあの子がいなかったら、俺はきっと身投げでもしてたんじゃないかってくらい、DIOの館の非現実っぷりは半端なかったですからね」
「…不死と呼ばれる君が身投げしても死なないんじゃあないかね」


またその厨二っぽい恥ずかしい二つ名かよ!と思いながら苦笑してしまう。そう、人が死なないはずがないのに、俺はきっとハルノがいなかったら元の世界に戻るために身投げだってしただろう。でも、きっと死んだとしても、元の世界には戻れなかったと思う。それで戻れるならば、それはこの世界に来たきっかけが自分の死だった場合だと思うのだ。だが、この世界にトリップした時は唐突だった。ならばもし帰りがあるとするならばそれも唐突なトリップなのだろう。いつ爆発するかわからない、トリップするかわからない、そんな時限爆弾のような恐怖を俺はずっと見て見ぬ振りをして背負っていくしかない。俺の人生とはそういうものなのだと、もう腹はくくっている。それに、少し成長したハルノの夢で懲りているし。



「吸血鬼じゃあるまいし、死なない人間がいるはずがないじゃないですか」
「・・・。そうか」
「ええ。あ、すみません。ちょっとトイレ行ってきます」



何だか黙ってしまった男を放っておいて、俺はそそくさと近くにあった店に入る。未確定だが、ほぼハルノが助かったと確信したからか少し浮かれてしまっている。まだまだ、あの男には気をつけないといけないのに、と自分を律して気を引き締めた俺がトイレのドアを開けようとしたその時、先客がいたのかそのドアが勝手に開いた。



「あ、すみま…」



ドアの隙間から穏やかな日本語が聞こえてきて、そこに現れた人物の黒いサングラス越しの目と視線が交わった。詰襟のボタンまでしっかりと閉められた緑色の学生服に、赤毛の特徴的な前髪が一房揺れている。よく見れば、両瞼には一本ずつ傷が縦に走っていて、何よりさくらんぼのようなピアスがその存在を主張していた。



「どうして・・・」



俺の口からかすれた声が出る。
見覚えがある姿に動揺して、思わず足元が揺らいだ。

俺がどれほど、標的の名前に君の名前がないことに安堵したと思っているんだ。君の平穏を願ったと思っているんだ。
何故だ。君はもう、離脱して日本に帰ったんじゃなかったのか。何故。



「・・・ッ貴方、いや、貴様はッ!」



何故、花京院くんがここにいるんだ!と叫び出したい衝動に駆られながら、俺はただただこの運命を床に叩きつけて、破壊してしまいたかった。



彼らを包み込む運命を止める事だけは、どんなスタンドにも出来ない



(なぜ、戻ってきてしまったんだ)
(そこがまた、悲しいほど君らしいけれど)

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