■ 37.Use as a weapon whatever lies ready to hand.




「さて・・・おめーはこのままイギーに見張らせるとして、おれはポルナレフの奴を探さねえとな」
「イギッ」



そういいながら犬にコーヒーガムを渡した空条承太郎は俺を一瞥した後、スタープラチナを出現させながら俺に向かって人差し指を向けた。くそ、砂に身体を拘束されて体が動かせない。そしてスタンドも出せない。まさに八方塞がりな状態に俺は必死に頭を働かせた。考えるのをやめてしまってはいけない。そう、まずここに空条承太郎がいて、イギーがいる。そして彼らがポルナレフのみを探しているというなら、今現在彼らは少なくとも3グループに分かれているという事だ。承太郎と会う前に大きな音がしていたから、あれはスタンド能力的にマライアが誰かと戦っている音だろう。つまり彼女の担当であるアヴドゥルとジョセフがマライアと戦っているという事だ。よって、この近くにはポルナレフを別れさせたアレッシーがいる可能性が―――。

と、ここまで考えた所で、俺の真横にスタープラチナの拳が落ちた。
また地面を抉ってそこから砂が形成される。・・・やたらめったら地面を抉っていると思っていたけど、そういう事かとまた増えた俺の砂の拘束力に溜息を吐きたくなった。さすがここまで沢山のスタンド使いを屠ってきた奴は違う。



「おっと、余計な事は考えるんじゃあねえぜ影崎。てめーのようなゲス野郎には聞きたいことが山ほどある。逃げようなんざ考えるなよ」
「・・・空条承太郎、ひとついいかな」
「いいや、おれにはそんな暇はねえ。もう行く」
「なぜ俺のスタンドの弱点が分かった?」
「・・・・・・・・」



てめー、おれの話聞けよ。的な目を向けられたが案外律儀な性格なのだろう。やれやれだぜという言葉と共に彼の帽子が引き下げられた。あれ、俺の事を散々言ってるくせに見た目に反して優しいな、この番長・・・。



「まず最初に気になった事はおめーが空ばかり気にしてた事だ。まるで天気が変わるのを待っていますっつー動作が妙だと思った。だから真っ先におめーのスタンドは天候に左右されるスタンドなんじゃあねえかと疑った事がひとつ」
「・・・」
「そしてもうひとつがてめーのスタンドの形状だ。イエローテンパランスのような形状だが、アイツはスタンド自体がスライム状だったのに対して、てめーはてめー自身がスライム状になれる。そして他の物質もスライム状にすることが出来る。スライムってことは、一般的に溶媒がなければなりえない。そして戦う時間が経てば経つほど、てめーのスタンドの能力は弱くなっていった。そこで俺は自分の本能が思うままに仮説を立てた」



なんだこいつ・・・見た目に反して今度は学者肌かと思いながら、黙ってその話を聞く。不良っぽくなる前は案外優等生だったんじゃないのか?と思いつつも、強烈な日照りが容赦なく俺に襲い掛かってきて辛い。基本日中活動をしないDIOの館での引きこもり生活が仇になったなあ・・・と遠い目をしつつ、道中でもマライアの体調管理の徹底ぶりに水分が事欠かなかった事を思い出していた。ああああ、快適な環境が仇になるとは・・・。



「てめーのスタンドは本体の水分が多ければ多いほど流動性が増し、逆に少なくなれば流動性が低下していく。そして流動性がなくなったスライムはコンニャクみてーに手で引きちぎれるってわけだ」
「な、なるほど・・・」
「・・・・・おめー、まさか無意識に天気を気にしてたのか?自分自身のスタンドを理解してねえとは、ジジイもびっくりだろうよ」



いや、そう言う訳ではないんだけど・・・自分絡みではなくてね・・・。と心の中で思いながら、なんだよまだジョースター家いるのかよ!と俺は脳内で手を振っているジョナサンにツッコんだ。ジジイって事は年齢的にジョセフか?ジョセフなのかと思いながら、そういえばさっきジョナサンの事をジジイのジジイと言っていた事を改めて思い出す。
直系かよ!!!!!そりゃDIOも怖れるわ!!!と納得しながら、でも気まぐれにハルノを生ませたDIOの気がしれない。あの子なんて遺伝子的にはジョナサンの息子だぞ・・・。



「おい、聞いてんのか」
「あ、はい。聞いてます聞いてます。いや・・・まさか水分ないと発動できないとは思わなかった」
「・・・やれやれだぜ。おい、イギー、コーヒーガムの分ちゃあんと見張ってろよ」
「イギッ」



そういって急ぎ足で町に戻った空条承太郎を見送った後、俺は脱水症状でふらつく頭でふうと息を吐いた。

甘いな・・・チョコレートより甘いぞ承太郎と思いながら、俺は思いっきり頭を振る。
スタンド能力が使えない為に、体内にある矢は使う事が出来ない。懐にあるナイフも拘束されている為にまた然り。

だが、俺の意思に反して飛び出すものはまだあるんだよ、と頭から勢いよく飛び出した俺のスタンドのDISCを俺を舐め腐って油断していたイギーに直撃させた。



使えるものは何でも使え



今だけはプッチに感謝してやるよと思いながら、俺はDISCに弾かれたイギーの一瞬のスキをついて纏わりついていた砂を振り払い、ナイフを構えた。


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