■ 35.Blue and green to sting eyes.



「スタープラチナッ!!!」



―――オラァアッ!!!


テメー何者だ、と彼自身が先に口を開いたにも関わらず、俺目がけて間髪あけずに殴ってきた空条承太郎のスタンドはとても雄々しい青い戦士のスタンドだった。

人間の動体視力では追えない程のスピードなのだろう、気がついた時にはその拳は俺の身体をぶち抜いていて、その先にある地面をも抉っていた。スピードもある上に威力も半端じゃない。なにこれチートと思いながら、俺はすぐにぶち抜かれてゲル状になった腹を元のように戻した。負けじと彼を睨む。
パワーもない、スピードもないが、固有の能力的には恵まれているだろう俺のスタンドは白兵戦を主とするスタンドにはチート的能力に映るだろうか。
けれど、決定的な攻撃を与えられない俺が不利なことに変わりはない。
ジョナサンのように彼がもし爆発力のある人間ならば、俺には想像つかないような戦法を思いつき、俺なんてあっという間にやられてしまうだろう。
そんな迫力が、目の前に立ちはだかる彼にはあった。

しっかしこの威圧感でこの身長は学生じゃないだろ・・・と内心冷や汗をダラダラかきながら、次々に飛んでくるオラオラを受け流していると、不意に盛大な舌打ちと共にスタンドの攻撃が止まった。砂埃が落ち着くのを待っていると、向こうからノシノシと巨大な影が近づいてくるのが見えて、俺は摺り足で後ろに下がる。さて、予期していなかった彼との戦闘だが、どうしようか・・・不意打ちという手札を失った今、俺に何が出来るのだろうと頭を悩ませていると「オイ、てめー」と重低音が俺を呼んだ。



「テメーはさっき俺の事を”ジョナサン”と呼んだな。それがどういう事かちゃあんと吐いてもらおうじゃあねぇか」
「真っ先に攻撃して来たヤツが良く言うよ・・・」
「なあに、ぶちのめしてから聞こうと思ったんだが、ぶちのめせねぇようなんでな・・・順序が変わっただけだぜ」



それはつまり話を聞いたらオラオラなんですね、という言葉を飲み込んだ俺は、思わず顔を引き攣らせた。ビュウッと風が頬を切って、砂埃が視界から消える。
まったく、ぶっ飛んでるな・・・と思いながら、溜息を吐き出した俺は、彼から目をそらさずにまた一歩後ろへ下がった。緑の瞳が目に痛い。



「そのままの意味だよ。俺は、君がジョナサン・ジョースターにそっくりだって言ったんだ。他に何も意味はない」
「・・・・・ソイツは俺のジジイのジジイだ。てめーが知っている筈がねえ」
「何故そう言い切れる?」




殺伐とした空気の中で、唯一ボストンテリアが欠伸をしている。先程まで二重にぶれていた視界は今はもうクリアになっていて、スタンドも俺の下に戻っていた。容赦のない日ざしが肌に痛いが、それよりも目の前の人の目線が痛い。めっちゃ痛い。彼のスタンドもこっちを睨んでいるので痛さも二倍になっている気がする。彼の背後からゴゴゴと音が出てきそうな空気の中、何かを考えていたのだろう承太郎が地を這うような声を出した。



「・・・てめーとジジイのジジイとの関係は何だ。影崎」



なんだ、俺の名前知ってたのか・・・と思いながら、今にもぶちぎれそうな承太郎に本当の事を言う事にした。どっちにしろ、何を言っても今の彼のオラオラは止められないだろうし。なにより。



「ただの、友人だったよ」



いや、親友かなあ。そう言って苦笑すれば、その後すぐに視界が青く染まって、衝撃と共に体が派手に浮いた。これ、ゲル化能力がなければ絶対死んでるよなあと思いながら後ろにぶっ飛ぶ俺を、きっと彼は凄い顔で見ているのだろう。
これで彼の頭に血がのぼってくれれば、動きが単調になって時間稼ぎもしやすいんだけどと思いながら、俺はホル・ホールから教えてもらった受け身をとって地面にめり込んだ。空はまだ青い。



目に染みる青と緑



(まったく・・・柄じゃない事はやるもんじゃない)

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