■ ◇魂の記憶、

ソルベとジェラートが殺された時点で、ボスの縄張りを奪おうと考えるメンバーは居なくなったと、そう思っていた。

ほんと、あんな殺し方をするなんて人じゃない・・・。人じゃなかったらもしかして吸血鬼じゃないのか。もしかして、ボスがあのDIOなんじゃないかという考えがあるから、俺は未だにこのチームに籍を置いている訳だけど・・・いや、違う。・・・わかっている。メンバーの死はもう見たくないからここにいる事だって、俺は十二分に理解していた。そう思うくらいには、俺は彼らと共に過ごす時間が好きだったから。

ぎゅっと顔が見えない様に帽子をかぶり、暴走し続けるメンバーが死にそうになったのを回収する作業はもうこれで七人目だ。あーもう、手がかかる奴らばっかりだし、思考回路が常人とは全く違う奴らばっかりだけど、それでも見捨てるなんてことは出来ない。自分を気にかけてくれる奴らを見殺しに出来るほど俺は人間やめてないし、何より俺がこうしたいと思ったから今こうしてる、とただそれだけの事だ。

しっかしいつも以上にやっばい現場だなオイとそう思いながら、俺は自分のスタンド能力を使って、銃撃されそうなリゾットをこっそり庇い、”ボス”と呼ばれたスタンド使いに見逃してもらった。正確に言えば”ボス”の視界に入らないようにして存在を悟られないようにした、ってのが正しいけれどそれはこの際どっちでもいい事だ。奴はDIOじゃなかった。確認するのはそれだけでよかったのだから。

え?戦えばよかったんじゃないかって?いやいや無理無理!俺に戦闘能力を求めるのは酷ってやつだ。なんたって逃走経験値は豊富でも戦闘経験値はあまりないともっぱら定評の俺だ。そんなヤツがあんな化け物じみた能力を持つ強者と戦えるはずがあろうか。うんうん、そうそう。ありえないよね。勝てないよね。という訳で俺は戦わない(正しくは戦えない)訳だ、と俺は冷や汗を肩で拭いながら、リゾットを抱えて走り出した。スタンドを使ってリゾットの血液を回収しながら走るのは結構大変だったけれど、何たって回収七人目。憔悴したリゾットにそっと声をかける流れまでは慣れたものだったが、なんで話しかけるのかって?・・・話しかけないと意識まで持ってかれそうな彼が、雪山遭難での睡眠フラグよろしくお陀仏するのはゴメンだからだよ。無理しすぎだ馬鹿。



「さ、帰ろうリーダー。みんな待ってる」
「・・・何故だ。何故お前は戦わない・・・ッ!!お前は悔しくないのかッ!あいつらが殺された恨みをぶつけてやろうと思わないのかッ!!俺たちが見下されている事を悔しいと思わないのかッ!!!奪ってやろうとは思わないのかッ!!」
「おいリゾット!あんま大声で喋るな。傷に響くって・・・それに少しは頭を冷やせ・・・」
「―――待て」



そんな会話をしていただからだろうか。
不意に聞こえて来た声に、俺の足が止まった。いや、止まるつもりなんてなかったけど、思わず足が止まってしまったのだ。息が荒いし、胸は苦しいし、全身に倦怠感が襲う。
そして振り返って見えた色は、黄色。

向こうからスタンドを構える彼らがやってきて、俺たちを見ていた。

ああ、と俺は俺は思わず目を細め、観念してその目を真正面から受け止める。

懐かしい、成長した姿。
そして、その目に宿るのは間違い様もない、敵意だ。

潮風がひゅるりと音を上げ、耳のそばを切っていく。
俺は、こみあげてくるしょっぱい何かを飲み込み、歯を食いしばった。



こうなるって分かってたから、だから会いたくなかったのに。



父親譲りの意志の強い目を真っ直ぐ見つめて、俺はドクドクとうるさい心臓を無理矢理だまらせる。

くそ。

何のためにこっそりメンバーを回収したと思っているんだ。
全部、お前にこんな真正面から会いたくなかったからだ。
お前にだけは、攻撃やそんな敵を見るような目をされたくなかったからだ。

それさえも叶わないのか。
遠ざけようとしたことも叶わないのか。



「ジョルノ・・・ジョバァーナと、ミスタと・・・娘だ・・・娘を・・・」



わかったから、とリゾットの口をゲル化で一瞬軽く塞ぐ。
彼に頷いておいて何だが、俺の選択肢は逃げる一択だけどね。

だって俺がハルノに攻撃なんて出来る筈がないじゃないか。
だから逃げる。それに昔と変わったのは何もハルノだけではない。

俺も変わった。変わってしまっている。
あの時程、人の命云々を考える事をやめてしまった。
いつか失うのなら、一番大切だったあの時の幸せをもう感じなくてもいいと考えるようになってしまった。
だから、せめて関与せず、見守ろうとそう思っていたのに。

こんな風に、俺を敵視する彼らを前にぼーっとしていたからだろう。
だから、俺は一瞬怯んでしまった。



「ゴールド・エクスペリエンスッ!!」
「セックス・ピストルズ―――くらえッ!!!」



彼らの攻撃が当たるギリギリのところで避けようとしても、反応が少し遅れたためにハルノのスタンドの拳を顔面に受けてしまう。いや、受けると思っていたのだけれど。



「―――ゴールド・エクスペリエンス・・・?」
「・・・なん、で」



呻いた言葉は掠れていて、ろくな声にもならなかったけれど、それでも俺が驚いていることが向こうにも十分伝わったらしい。



拳は俺の眼前で止まっていた。



意のままにスタンドを操れないからだろうか、ハルノはびっしょりと汗をかいており、驚愕に目を見開いている。

そして俺も驚いている。

だってハルノのスタンドは拳を降ろしたと思ったら、あろうことかリゾットごと俺に抱き付いてきたのだから。・・・って、ちょ、くすぐったい。

セックス・ピストルズと呼ばれたスタンドも、ゴールド・エクスペリエンスが拳を止めたからか、弾丸を持っておろおろしている。・・・のが抱き付いてくるスタンド越しに見える。
・・・いや、なんかゴメン。しっかしこいつ、敵意どころか好意しか感じられないんだけど、大丈夫かなあ・・・。まあ、かわいいけど。



「おいッ!!ジョルノどうなってやがる!!!」
「くそっ、なんでこんな・・・もしかしたらアイツのスタンド能力かもしれません・・・だとしたら、僕は完全に彼のスタンド能力を受けている事になる・・・ッ」
「それにしては、彼の反応はおかしいわ!まるで・・・そう、本当に驚いているみたい」



いや、本当に驚いてます。と思いながら未だにぐりぐりと抱き付いてくるゴールド・エクスペリエンスの頭をそおっと撫でると、ハルノが驚いたようにこちらを見た。
そしてどことなく嬉し気なハルノのスタンド。てか・・・父親のスタンドに色はそっくりだけど、間近で見るとよりかわいく思えてくる・・・不思議なやつだなあ。さてはお前、俺の事覚えているのか?と思っていると、もぞ、と抱えていたリゾットが微かに動いた。・・・ん?



「僕のスタンドに何やってるんですかッ!!」
「全くだな。行くぞ、影崎。今は引く」
「・・・なっ、ちょっ」



ひょい、といつの間にか立ち上がったリゾットに肩で担がれて舌を噛みそうになった。
って、え?本当にどうなってんのコレ。
そしてさっきまで瀕死の重傷で血まみれだったリゾットさんはどうしたの?


「てかお前怪我は!?」
「荒療治だが、お前に懐いていたスタンドが治してくれた」
「はあああああああああッ?!てめっ、何やってんだジョルノッ!敵の傷を治すとか何やってんだてめーーーーッ!!」
「・・・・・、ぁ」
「ちょっとジョルノ、あなた本当におかしいわよッ?!」



見ろ、逃げちまうぞ!と叫ぶミスタを横目に、あっという間に流れる景色。そして飛んでいく帽子。ああ。
それに伴って、ぎゅーっと抱き付いていたスタンドも射程距離の限界が近づいているからか、どんどん透けて行って、悲しそうにしている。
なんだ、お前・・・やっぱり。



「俺の事を、覚えてたのか・・・」



思わず、笑みが浮かぶ。
ありがとな、大好きだよ。いつまでも。と彼の頭を一撫でしてやれば、あっという間に消えてしまったスタンドの感触を残す手が少し寂しい。これまでの観察の結果から、ハルノのスタンドは自立型ではなかったのは確かだ。だから今回はスタンドの暴走だろう。暴走するまで俺のことを覚えていてくれた事を思うと、やっぱり嬉しく思う。

そしてまた、今度はハルノ本人に会いたいと、思ってしまって。

チリン、と鈴の音と共に低めのリーダーの声が俺の思考を現実に引っ張り上げ、俺はハッとする。
ひゅるりと潮風が遠のいていって、俺は久しぶりに大きなため息を吐き出したのだった。



魂の記憶、拾われた帽子



(やっぱりばかだなあ、俺。)(あまり自分を蔑む言葉は使うな、馬鹿)(おいリーダーおい)


スー様リクエストありがとうございました!

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