■ ◇盲目との出会い

基本DIOの館から出ない、というか出られない俺は、外からの情報はからっきしだ。なので、せめて内部の情報には詳しくなろうと思って苦肉の策で俺が編み出したのがこちら。名付けて壁に耳あり障子にメアリー作戦。ああメアリーかわいいよメアリーでもバラで花占いはいけないぞ、っと。…いけないいけない話それた。
ごほん、ネーミングセンスは置いといて話を戻そう。冗談冗談。ともかくスタンド能力で壁に同化して他人の話を聞き耳するこの作戦は俺的にはうまくいくと思ったのだ。だがそれはどうやら常人の集まる普通のところだったならの話だったようで、つまるところDIOの館ではダメでした!と、俺は壁の中で顔を引きつらせながら目の前に立つ謎の男を見る。俺のいた壁をこれまた無言で抉った男はどうやら水を自由に扱うらしい。俺が見舞われた状況を詳しく説明するといきなり水が宙を飛んだかと思ったら、俺のいる真横の壁が抉られたのだ。何を言っているか分からないかもしれないが大丈夫。俺もよくわかってない。なのでそんなよくわからない物騒な輩なんてごめんだと思い逃げようとしたのけれど。



「まあ待て」



そう言ってヒュンヒュンと動く水をちらつかせながらニヤリとニヒルな笑みを浮かべた男がこちらを向いた。…ってこいつもイケメンかよおおおおおお!!!!まじDIOの館おかしい。性格キチな意味でも顔面偏差値的な意味でも。ぐっ、そんなツッコミはさて置き、この男は壁の中にいる俺に向けて話しかけたらしい。少々考え込んだ後、気配が読めるDIOの館の人を無視するのは得策ではないか、と判断した俺はその声掛けに仕方なしに応えた。いやだって下手したら殺されそうになっちゃうから…。



「…なんでしょうか」
「お前が新しくDIO様が見つけてきたスタンド使いだろう。俺の名はンドゥール。お前の名前を教えてくれないか?」



問いかけられている筈なのに口調が有無を言わせない断定口調な件について。てかそれだけ知ってるなら俺の名前も知ってそうなもんだけどな、と思いつつもハアと溜息をはいた後に俺はスタンド能力を解きながら壁から出た。俺のスタンド能力は体力を使うのでいつまでも壁と同化している訳にはいかないのだ。恐ろしく体力を持ってかれてしまう上に、脳まで疲れ切ってしまって非常によろしくない。見たところ奴のスタンド能力は水で攻撃してくるもののようなので俺が怪我をすることはよっぽどないだろう、とここまでの事をぼんやりと考えたところで改めて自分の名前を名乗った。



「影崎です。えーと、ンドゥールさん?」
「フフ…敬称はいらないさ。しかし珍しい能力だな」



俺でも操れるだろうか、と不穏なワードが聞こえてきて思わずジト目になる。え?操れるって何?俺、スタンド能力でゲルゾル運動してるだけで水じゃないんですけど。水じゃなくてどっちかというとスライムです。と、言おうと思ったら。というか言ったら。



「…すらいむ、とは何だ?」
「いや、こう…見た方が早いんで実践すると、まあつまりこうなるんです」
「すまないが、触らせてくれるとありがたい」
「え?」



そう言われて初めて相手の目が閉じている事に気づき、そして彼が手に持つ杖にもようやく気がついた。
もしかして、彼は目が見えないんだろうか。いやしかし、容易に触られて彼のスタンド能力に侵されでもしたら俺は直ぐに冷たい死体になってしまう自信がある。うーむ、どうしようかと悩んでいたら何故かンドゥールさんにクスリと笑われた。



「いや、聞いていたより警戒心が強いと思ってな」
「…やっぱり俺の事、前もって知ってたんじゃないですか」
「なに、だが事実スライムとやらは知らなかったのだ。本当に教えてくれるとありがたい」



穏やかに微笑む彼を見てほだされそうになったがイカンイカン。これが相手の作戦だとしたら…とか色々考えちゃうあたり俺もこの館に慣れてきてる証拠だろう。やな奴になったもんだ、俺も。しかしどうしようか。あ、いや、そうか。



「じゃあ杖をゲル化するんで、ちょっと待っててください…とっ」
「…おお」



ぱぱーっとスタンド能力を発動させればプニプニと面白そうに杖を触るンドゥールさんがいた。どうやら本当にスライムが気になっただけらしい。DIOの館にもこういう人がいるんだなあと思いながら、ひたすらスライムと戯れるンドゥールさんの隣でこそっと座りながら彼を待つ事にした。とりあえず彼の名前は覚えておこう。なんて、珍しくそんな事を思いながら。


盲目との出会い


まりも様リクエストありがとうございました!

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