■ ◇リライフ

「いやあ、命拾いしたなアバッキオ」



そう言った黒髪の男を俺は上から見下ろした。
おかしい。俺はこのサルディニア島の海岸で、ボスの正体を知る為に15年前の『再生』を開始した。そして・・・その最中に何者かに殺された筈だったんじゃあなかったのかと俺は一人眉を寄せた。だがしかし、覚えているのだ。白昼夢のようなあの相棒との出来事を俺はしっかりと覚えているのにも関わらず、今こうして生きている。



「何が・・・起こったんだ?」



ポツリと呟いた言葉が、やけに大きく聞こえたのはこの場で喋ったのが俺一人だけだったかららしい。瞬間、ワッと仲間達が俺をぐしゃぐしゃに構い倒して来た。
ナランチャ、ミスタが特に酷い。けれど、うるせえだとか、鼻水を俺の服にこすりつけるなだとか言う気にもなれずに、じっと耐えていたら、いつの間にか目の前にブチャラティが立っていた。仲間たちが空気を読んで俺から離れる。手を俺に向かってスッと差し出した彼は、微笑みながら俺に言った。



「よく戻ってきた。アバッキオ」



その言葉に、思わず息を詰まらせた俺は震える手でブチャラティの手をとった。
誰が血に濡れている手を冷たいと言ったのか、彼の手は赤くはあれども、冷たいなんて事はなく、ただひたすらに温かい。生きている、俺はまだ生きている。その事実をたった今噛みしめた俺は、大きく息を吸った後に、最初に俺に声をかけた男―――影崎に顔を向けた。



「影崎、テメェ俺に何をした?」
「俺は直接アバッキオになにかした訳じゃないけどね。ただ入れ物を提供しただけだよ」



そう言った男の手にはなにやらCDのようなものがあって、その斜め後ろには何やら人間のようなものが横たわっている。ああ、あれは何だったかとよく目を凝らした俺は、その物体が何かという事を認識した途端、視線がそこから動かせなくなった。
じわりと手に汗が浮かぶ。思わず唇をかんだ。



「―――どうなってやがる。やっぱり俺は死んでんのか?」



人間のようなものではない。それは人間だった。もっと詳しく言うと、それは俺だったのだ。俺の身体。ピクリとも動かず、瞳孔は開ききっている。そしてその死体の傍にはジョルノが俺のけがをした部分を、スタンドで作りだした部品と取り換えているようだった。



「いや、理論上死んでると思う・・・よ?今のアバッキオは俺のスタンド能力でその魂をこの世に留まらせてるだけで、人間かと聞かれると人間じゃないしね。その身体って、俺のスタンドの身体だし。まあハ・・・ジョルノが今アバッキオの身体を治してくれてるから、そっちが治ったら勝手に魂が元の器に戻るんじゃないかなあ」



それにしてもよかったよかった。と俺の肩を叩く影崎のスタンド能力は確か、そんな魂がどうとかいう力ではなかったはずだ。だが、その旨を聞いてもはぐらかされるだろうとは分かっている。奴の事はブチャラティが知っておけばそれでいい。コイツは存外秘密主義者だし、俺達もそれに同じだ。昔の事を語りたがらず、ふらふらとどこかをさまよっているようなそんな男だったが、俺はコイツのことを信頼はしていなくとも信用はしているのだから、それで問題はない。ブチャラティがコイツの事を信じているのならそれでいい。俺はそれに倣うだけなのだから。



「何はともあれ、これでボスの素顔が分かった訳だな・・・」
「ええ、そうですね」



そう相槌を返して来たジョルノの顔を、俺は下から見上げていた。いつの間にか死者から生者になったらしい俺の身体は、あらゆるパーツを入れ替えたからか死ぬほど痛い。いや、もう死ぬわけにはいかないが。
痛みに耐えながら身体をぐるぐる動かした俺は、十拍程置いた後、実は仕草がそっくりな奴らに身体を向けた。



「ジョルノと影崎がいなかったら、俺は死んでいた。・・・礼を言わせてもらうぜ」
「素直なアバッキオなんて明日は槍が降ってくるかもな」
「同感です」



そう言う奴らの仕草がまたまたそっくりでイラッとした俺は、フンと鼻を鳴らした後にムーディーブルースを出現させる。お前の時間を巻き戻したら一体何が出て来るんだろうな、影崎。案外藪蛇だったりするのだろうかと俺は金髪と黒髪の二人を見ながら思うのだった。



リライフ



トリ様リクエストありがとうございました!

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