■ 05.You were fortunate and also me.
よく晴れた日の深夜。
澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ俺は腰かけていた椅子から立ち上がり、ようやく寝付いた女のそばによって、思わずため息をはいた。
彼女の名前は汐華秋といって、正真正銘あのDIOの妻だったりする。
やんちゃで派手好きなDIO様信者の彼女はとんだ我儘女で、やれ日本食が食べたいやら、服をそろえたいやら、好き放題いった挙句、やっぱり止めた、なんて言うことはしょっちゅうで、正直そろそろ堪忍袋の緒が切れそうなのだが、バックにDIO様がいると思うと怒るに怒れないというか俺の存在問題にまで発展しそうなので我慢している。いのちは、大事に。
そんな生活が続いているせいか、俺の目の下にはおっきいクマさんがいて、そろそろぶっ倒れるんじゃねえかなあとまで感じてるくらい身体がキツイ。朝起きたらプッチ●プリンも真っ青なくらいプルンプルンになっていた布団と同化してたなんてことはザラだ。くああと変な声を出しながらあくびをした俺は、そんな哀れな経験をしている馴染みの布団に倒れこんだ。ああ、冷たくて気持ちいい、ってまたゲル化してるううううと一人寂しくつっこんだ俺はまたまた溜息をつく。
なんか最近溜息ばかりついているな、と幸せが逃げていく幻聴を振り払った俺は、何とかして布団のゲル化を解除してから、また布団にくるまった。
ここに来た当初は風乗って微かに漂う血の匂いが鼻について眠れないこともしばしばあったが、今はもうその匂いすら分からなくなってしまったので、俺の睡眠を邪魔するものは何もない。
麻痺してしまった感覚に、心がずっしりと重くなったが、それだけだった。
「ああ―――、かえりたいなあ」
切に思う事はそれだけだ。
口から出た日本語は、日本人の彼女を相手にしていたせいか、郷愁の念に駆られてか、どっちなのかは分からなかったけれど、とにかくこんな血濡れた館に居たいと思う奴は物好きな殺人者か吸血鬼くらいだと思う。
ああ、あとはDIO様の『エサ』か・・・。
薄い布を一枚隔てた先にいる彼女の影を見、そして目を閉じる。
運が良かっただけなんだよ、貴女は。
・・・そして、俺も。
そろり、と伸ばした手が虚しく空を切った。
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