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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

■ 32.The connect got disconnected.


「敵の情報はSPW財団が少しばかりじゃが掴んでおる。皇帝のスタンド使いホル・ホースと不死の二つ名を持つ影崎という男の情報だけだがのぉ」
「―――影崎、?」



さん、と敬称をつけようとして、僕は慌ててそれを飲み込んだ。

黒目黒髪で中肉中背の日本人。僕が初めて出会った日本人のスタンド使いであるその人を、僕はよく覚えていた。どこか甘い香りがする人で、困ったように笑うのがとても印象的な人だった。そして・・・DIOの部下でもある人だという事も忘れてはいない。

今の僕とは敵対する関係にあるその人の事を思い出すうちに、なにか少し頭の中でひっかかった。彼は、なにか言ってなかったか?例えば・・・そう、人の名前。
たしか、・・・僕らに、とても所縁のある・・・。


「―――ジョナサン」
「・・・おい花京院。てめー今何と言った」
「ジョナサン。確か・・・彼はそう言っていた筈です」
「なんじゃと?!それは本当か花京院!」



彼がわざわざ僕に断りを入れて部屋から出て行ったのが気になって、ハイエロファントグリーンで彼を尾行させておいた時に聞いた名前。それが確か『ジョナサン』だ。彼が呟いたその名前のもたらす意味の事なんて僕にはまだ分からない。けれど。



「どっちにしろ彼に会ったらその意味が分かります。今は先を急ぎましょう」



今の僕の敵であることに変わりはない。



■□■




「花京院が寝返りました」
「・・・・・はい?」



バタンと部屋のドアを閉めたテレンスが、真剣な眼差しでこちらを見ていたと思ったらこの発言だ。あらゆる主語をぶっとばして喋るのはいい加減やめてもらいたいなあと思いながら花京院くんがどうしてそんな事になっているのかを聞いてみれば、テレンスの回答がスルスルと俺の耳に入ってくる。そして吐いてしまう重い重い溜息。まじか・・・。



「・・・初耳だよ全部」
「当たり前でしょう。あなたには何も話していなかったのですから」



しれっと言い切ったテレンスの話を要約するとこうだ。
DIOの邪魔になるであろう承太郎、ジョセフ達を花京院を使って殺しに行ったら花京院が寝返ってしまいましたテヘペロコツン。うわー自分で言っといてなんだけど、テレンスがテヘペロコツンしたらブフォ。
そうそう、それにぶっちゃけていうと承太郎という名前だけは初耳ではないが、その事はこの際黙っておこう。
ガリガリと頭をかきながら息を吐いて、内心めんどくさいことになり始めたなと俺は悪態をついた。


「俺が花京院くんと知り合いってテレンスに行ったっけか」
「いえ、言ってませんが、知っていますよそんな事」



ええーと声を漏らしながら、しれっとした顔の車に轢かれた系男をみる。・・・流石テレンスクオリティ。俺のプライバシーよ何処いった。と思いながらチラリと彼の顔色を伺った。彼の冷たい色をした目が俺を見ている。どこか憐れんでいるようにも見えたのは気のせいか。



「で、俺にどうしろと」
「今すぐ彼らを殺しに行って頂きたい」
「適材適所の話はどこ行ったんだよ・・・俺はそんなこと言われたら逃げるぞ」
「昔なら・・・そうだっただろうなァ影崎」



急に聞こえて来た低音ボイスにビッキーンと全身が固まった。
ギギギと首を後ろに回すと妖艶な色気をまき散らす歩く18禁の姿を俺の目が捉える。とりあえず服を着ろ服を!そして俺の視界からお引き取り下さいと土下座したい。
そんな存在、DIOがいつの間にか俺の後ろにいた。

そう、いつの間にか。



「だが、お前はもう断れないだろう?それにお前の手は既に赤く染まっている。今更だろう」
「赤い・・・・・ああ、そうらしいですね。俺は覚えてないけど」



ニヤリと口角を上げたDIOの顔面をぶち殴りたいです。お前は本当にゲロ以下だな。
奴の手からハラハラと落ちた何かが床に散らばる。黒くて細い、髪の毛のような、・・・。
身体を反転させて、それを拾った。艶々としている細いソレは随分と見覚えがあった。
これ、は。



「あの子がかわいいだろう?ン?影崎。守る為には、このDIOの為に働いてもらわなければ困るんだが・・・まさかこのDIOの為に働かないなんて事はないよなァ?」



俺に近づいて、首に手をかけながら呟かれる言葉に寒気しか感じない。
・・・このド腐れ野郎が、全て、全て俺から選択肢を奪う為に、今までの事をさせていたのか。この悪魔は、と、DIOに関してはどんどん悪くなる心の中の口を俺は噤んだ。
この勝ち誇ったような笑みにこれほど吐き気を催そうとは思わなかったと口を押えてむせる。膝をついて、えずいて、下からDIOを見上げた。もしかしたら、こいつは俺のバックにジョナサンがいる事に薄々気づいていたのかもしれない。ジョナサン消えた途端にコレだ。もしかしたらジョナサンに会ったプッチがDIOに何か言ったのか・・・分からない、色々分からないが、寒気が止まらない。



弱いままでは、駄目なのだろうか。
強ければ、それでいいのだろうか。



そんな風に迷っている時に、ここからハルノと共に逃げ出さなければならなかったのだと悟ってしまった
ああ、完全にこの男の術中にはまる前に逃げ出さなければならなかったのに、はまってしまった。

俺自身が殺しをしたことを知っていて、ハルノに依存し、解放を求めている。
そしてスタンド能力を人並みに扱えるようになってしまった。戦闘経験も積んでしまった。逃走するためのSPW財団からの支援も望めるか怪しい。ならばハルノを助けるにはどうすればいいか。残された道はこれしかない。DIOに頼る。異世界人の俺には身寄りもない。今の俺のつながりも、全てこの男―――DIO経由だ。そのつながりを使えばDIOにばれるのだから。ならばDIOに頼るしかなくなる。

それを逆手にとったのだ。このDIOという男は。

これらの条件がそろってしまう前に俺は逃げ出さなければならなかったのに、逃げられなかった。そこで俺の負けは決まっていたのかもしれない。一体この男は俺の行動の何手先まで読んでいたのか。すべてDIOの手のひらの上の行動だったとでも言うのか。だから俺の行動をある程度まで見逃していたのか。全てお見通しだったのか。

生理的な涙が目尻から一筋だけ零れ落ちる。

初めてこの男が恐ろしいと思った。
俺では、敵わない。
そう思ってしまった。



「―――さあ行って来い。貴様が承太郎達を殺せばハルノと共に解放してやろう」




切れた繋がり


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