■ 26.A requiem becomes a basket of spirit.

だって!だってあの矢を売ってきたピンク頭と同じ匂いを感じたんだって。絶対同類だって!と相変わらずの内心ツッコミオンパレードの俺の脳内は第六感警報がガンガンと鳴り響いている。

何故なら。



「そんなに警戒する事もないじゃあないですか・・・。そうではありませんか?影崎さん」



なんか名乗ってもないのに俺って特定されてるし、ヤバイ感じが尋常じゃないし、ハルノ達を早く迎えに行きたいし、ハルノと一緒にスタンド像を置いてあるから、視界がぶれやすいし。いや、最後のは俺がスタンドを上手くコントロールしきれてないから起こってる弊害だけれども。えーい、でもそのおかげでハルノが無事っていうのは分かってるからいいのか悪いのかわからんな、と思ったところで、彼の目が嬉しそうに細められた。

嫌な予感。



「やはり、貴方が影崎さんですか」



あれ、鎌かけられて、それにうまくかかっちゃった感じですかそうですか。
つまりプッチさんは俺が俺って分かってた訳じゃなかったのね、じゃあ、分かったらどうするの君、と思ったところで、彼はまたクスリと笑った。



「あの、自分の記憶を自分で飛ばす、マヌケともっぱらの噂の」



え、それどういう事、と聞く間もなく、彼の声がウジュルウジュルという気持ち悪い音にかき消されていく。
良く思考する時間をも与えられない。しかもまだどこからか音がしている。
何だコイツ。何だこの音。ヤバイ。なんだ、なんだこれ―――。



「だから、そんな弱い者など、DIOには不要!なのになぜDIOはいつまでもお前を・・・」



何だよ、それ。と思うと同時に、俺の視界に超気持ち悪いワーム的な奴が入る。
額の辺りに触れれば、それが俺の額を突き破って生えていた。うげえ。・・・なんだこれ。



「ですが貴方は貴重なスタンド使い。故に!我が親友、DIOの人形になって頂きます」



それってつまり・・・あんまり想像したくないけど、操り人形になって下さい宣言だよね。―――冗談じゃない。
そう思い、スタンドを出そうと構えたところで、プッチが「いいのですか」と声をあげた。なにがいいのか俺にはさっぱり・・・。という言葉が喉元まで出かかった所で、俺の頬をつう、とイヤな汗が頬を伝った。おいプッチおい。



「いいのですか。今、あなたが下の階にいるスタンドをここに呼び戻したとしましょう。すると当然貴方が守っている彼らは無防備になります。貴方が守る役割から外れたら、DIOの加護から外れた彼らはどうなるのでしょうかね?」
「・・・つまり、ハルノで俺を脅してるって事か」
「脅すほど貴方に価値があるとは私は思えませんが、結果的にはそう言えるでしょうね」



ぶちぶちと、気持ち悪い虫を引きちぎり、目の前が真っ赤に染まる。
別にスタンドを呼び戻さなくてもスタンド能力は使える。が、やはりスタンド像が傍にあるかないかで能力の精密性がかなり変わってくる。近くにいればいるほど、より広範囲で細かく能力を使える。自分自身のオートゲル化能力はそれに当てはまらないが、相手がどんな手を持っているか分からない今、相手の攻撃を受けた後に勝手に発動する能力はあまり使いたくないのが本音だ。
そしてここまでの状況から分析するに、俺のスタンド像を傍に戻したくないが、俺に勝負を挑んで来ているという事は、おそらく俺に一撃食らわせれば勝算が見込めるスタンド能力をプッチがもっているということで。

だが、そもそも話を戻すと、俺がスタンド像を自分の下に戻せないのは、彼がハルノ達の事をDIOの保護下から外れたと言った点にある。これがウソだった場合、俺はスタンド像を自分の下に呼び戻し、相手の身体を拘束するなどして逃走することが出来る。
が、それもウソとも言い切れない情報を俺が持ってしまっている。

なぜ、アヌビス神に彼らが襲われた時に傍に誰もいなかったのか。
なぜ、汐華様がゲル化した俺を見て、誰かに助けを呼んだ時、誰も来なかったのか。

この事を考えると、彼らは本当にDIOの保護下から外れたのではないのかという事が否定できない。いや、むしろ、肯定さえ出来る条件が先ほどのアヌビス神との一件で証明されてしまっている。



「(・・・どうする)」



可能性を、否定できない。
ハルノを危険に晒すというリスクは、負えない。

だが、このままでは俺がやられる。
ワーム的な奴は既に視界の大半を埋め尽くしているし、プッチの口振りと俺の今まで集めた情報から予想するに、この虫は俺を操り人形にするためのものと考えていい。



「(あれ、それなのに何故)」


それならば、今の時点で俺をDIOの操り人形にするという目的は八割方完了している筈だ。なのになぜプッチは俺に攻撃してこようとしているのか。



「なのになぜDIOはいつまでもお前を・・・」



そういえば、さっき聞いたこの言葉。
明らかに俺の待遇が不服な様子で、という事は・・・もしかして攻撃してくるのは逆恨みか、・・・もしかしたら嫉妬か。嫉妬なのか。そんなに俺大事にされてる部下だとは思わないけれども、プッチ的にみたら俺の境遇は羨ましいのかそうなの?!と自分の考えにツッコミを入れていたら、ものすごい顔でこっちを見下してるプッチがいた。

って、なんで俺、プッチに見下されてるんだ・・・?



「・・・あ、れ・・・・・・」


いつの間に石畳の上に這いつくばってたんだろうか、俺は。
あと、ワーム的な奴を引きちぎった時に出て来た赤いもの。これは虫の体液じゃなくてもしかして、俺の。



「無様ですね」



声質的にはとてもイイ笑顔で言ってそうな感じだけど、いつの間にか視界がぼやけている。そして時々クリアな視界が入る・・・のは、ハルノの心配そうな顔。こっちは、スタンドの方の視界か。ああ、そうだよな。ハルノにこんな不安そうな顔させてちゃ駄目だよな。だから、俺、がんばろう。がんばれ俺。よし。なんか知らないけど重篤な症状な割には頭はすっきりしている。そしてプッチは動けない俺に八つ当たりの一発をくらわそうとしている。(と思う。)

その油断しているところに、一発食らわせられれば、まだ勝算はあるはずだ。

油断するのは攻撃が当たる寸前。一か八かだけれど、いつか、やらなければやられる、
とマライアが言っていたのを思い出す。

まさしくその通りだと思いながら、俺は身体を丸め、そのおぞましいスタンドの拳
がぼやけるまで見続けた。そして、必死に身体を動かす。近くに落ちていた石の破片を自分に突き刺して、オートゲル化を発動させて、ゲル化でその拳を、避ける!

なのに、避けた、つもりだったのに、なぜ。

あたる。拳があたって、頭の中からCDのようなものが二枚、床に落ちたのを見て、そして急激に力が抜けていった。

・・・なんで。

と、つくづく無力な自分に嫌悪感を抱きながら、視界が徐々に暗くなる。

寒い。



「ディスクを奪ったッ!ははははは!!やったぞ・・・DIO、私は」



視界がぶれる。
くそ・・・ああ、ごめん、ハルノ、俺は。
やっぱり、なにも出来ない、駄目な―――。




「―――山吹色の波紋疾走ッ!!」





ガラガラと、何かが壁にぶつかって崩れ落ちる音がして、暗くなっていた視界に光が差す。
そして、頭に何かが差し込まれた。あたたかい。懐かしいこれは―――なぜ。



「・・・ジョナ、サン」
「やあ影崎・・・久しぶり」



地面に突っ伏したまま見上げた背中は、これ以上ないほど逞しく懐かしい友人のもの。
DIOの義兄弟であり、今は亡きジョナサン・ジョースターが、そこに立っていた。




レクイエムは魂の籠と化す


(かっこよすぎだよ、ジョナサン)

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