■ 31.I look to the future with hope.

「あ、もしかして影崎さんってあの不死の影崎って呼ばれてるあの影崎さんですか?」
「 」



やめて花京院くん!俺のライフはもうゼロよ!と言いたいのに顔が引きつって上手く言葉がでないのはもうなんなんだろうね…溜息癖に続いて顔引きつり癖でもついちゃったのかね…なんて思いつつ、俺は花京院典明(日本の高校生だそうだ)と名乗った彼に促されるまま部屋にあった椅子に腰掛けた。相変わらず顔が引きつってる感がやばいのはしょうがない。ゴホンと一つ咳払いをした俺は、居心地が悪くてまた椅子に座りなおした。

いや、あのー・・・花京院くん。君が言うその俺の恥ずかしすぎる二つ名は一体どこまで浸透してるのかね、と思わず彼にツッコミを入れてしまったのは、俺がまったく外に出ないからで、影崎という人間が本当に外でそう呼ばれてしまっているのか知らないからだ。何せ俺はずっとハルノにつきっきりなので最近はあまり外に出てない…というかもしかしたらエンヤ婆のお使い以来屋敷の外に出てないかもしれない。
まあそれは置いといて、第一印象が結構イっちゃってる系だった花京院くんはとても普通に「有名ですよ」と微笑んで応えてくれた。その事実に(恥ずかしさのせいで)結構なダメージを負った俺は、その後も彼と話していたのだが、彼はそう、第一印象に反して実に好青年だった。こちらの事を聞けば普通に応えてくれるし、話せるし、気配りも上手い。
・・・ただ。



「DIO様は私に友達になろうと言ってくださったのだ…だから私はDIO様の為に今から日本に行く・・・そして・・・」



DIOの事を話す時は目がイっちゃうけれども。
ついでに言うとこの状態の時は彼の一人称が僕から私に変わる。口調も変わる。
・・・あっれー、これってまさか。と冷や汗を流しながらこっそり彼の額を覗き見ると、ええ居ましたね。ええ。居ましたよ例のワーム的な奴が。こうして改めて見てみるとすごく気持ち悪いなと、遠い目をしつつ口を押さえる。うえっぷ。人の性格まで変えてしまうとは恐ろしい。・・・そういえば俺の肉の芽ってプッチと会った時に埋められたのか、それとも以前から埋められてたのかどっちなんだろうと頭の痛い事を思い出してしまった俺は、その思考を振り払った後、未だにDIOの呪縛にとらわれたままの彼の肩をトントンと指でつついた。どっちにしろ、今俺の中に肉の芽がないことに変わりはない。



「花京院くん」
「―――そして、私は今からDIO様の為に空条承太郎を殺しに行くッ!!この私のハイエロファントグリーンで奴を殺すッ!!!」
「・・・そんな物騒な事言ってないで、さ」



自分の意識を保って、肉の芽なんかに負けるなと彼に言い聞かせるように言うと、ハッと正気に戻った花京院くんが不思議そうな顔でこちらを向いた。きっと自分の言動の違和感に気づいていないのだろう。あー肉の芽こわい。洗脳より達悪いよなあと思ったところで、俺もこんなんになっていたのかもしれないという事実に気づき、治った筈の額が疼いた。DIOって本当に世界征服できるわ。肉の芽だけで。
・・・それにしてもまったく、こんな高校生引っ掛けてDIOは何をやってるんだ。何て事をやらせようとしているんだ。と思考を巡らせていたところで俺はふと気づいた。



DIOが、スタンド使いを操ってでも殺したい相手ーーー空条承太郎って誰だ。と。



ジョースター家じゃないのにDIOに命を狙われるなんて、その空条くんが一体何をしでかしたのか非常に気になる所だが、やっと正気に戻った花京院くんにその話題を振ればまた肉の芽モードになりそうだから聞くにも聞けない。ならば、その肉の芽をどうにかすればいいんじゃないかと思った俺は、少し考えた後、部屋を一時退室した。ダメもとで自分の頭を叩いてスタンドのDISCを抜き(結構簡単にとれてへこんだ。)そして、声をかけてみる。



「―――ジョナサン」



シン、としたまま何も起こらない事が、これほどまでに悲しいことだとは思わなかった。馬鹿な事をしたと後悔して、俺はまた頭にDISCを戻す。部屋にまた戻ると、心配そうにこちらを伺う花京院くんがいて、俺はその目から目を逸らした。彼には申し訳ないが、波紋使いでもない俺では彼の肉の芽をどうにかすることは出来ない。

曖昧に笑って別れを告げ、逃げるようにその場を後にする。
ふうと息を吐いた俺は、また頭からDISCを取り出す。

返事が来るまでずっと呼びかけ続けるのも有りかもしれない。なんて思いながら、そっとその場を後にした。




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