■ □親子喧嘩をこじらせると恐い

父さんに抱き付くと、いつもふんわりとした甘い香りがする。

疲れている時も、大変な時も、いつも笑って「ただいま」と言って帰って来る父さんと、「おかえり」と言ってそれを迎える僕は血の繋がっていない赤の他人同士だけれど、でも僕たちは間違いなく親子で、僕は彼の息子だった。
たとえそれが、書類上赤の他人だったとしても、今まで僕をずっと育ててくれた父さんが僕の父さんであることに変わりはないし、肉親がどうであろうと僕の父さんは父さんだけなのだから、他の人から心無い事を言われたとしても僕はそんな無駄な言葉なんて相手にしていなかった。

けれど相手にしないという事が、すなわち気にしていないという事ではなく、当時の僕はまだ心も体もそれ程強くなかったせいもあって、一回だけ父さんに当たり散らしてしまった事がある。

―――その時の父さんの顔は今でも忘れられない。

もし当時の自分に会えるのなら、問答無用でレクイエムをぶちかますと思ってしまう程、僕にとっては苦い思い出だ。



「・・・・・・どうして」
「・・・ハルノ?」
「どうして僕と父さんは血がつながってないんですか・・・!どうして僕と父さんは苗字が違うんですか!!他の人はみんな顔が似てるのに・・・・どうして僕の父さんは―――貴方なんだ・・・ッ!!!」
「―――ッ」



今でも思い出しては息が詰まる。
あれは、言ってはいけない言葉だった。
あの時は苦しくて悲しくて、自分でも感情や気持ちを制御できなくて、何より考える事を放棄していた。そして、彼を傷つけた。傷つけてしまった。・・・父さんは、犯罪者だ。僕に肩身の狭い思いをさせない様に、母親を忘れさせない様に、そして何より父さんの命を狙うスタンド使いが僕を狙わない様に、父さんは僕の姓を汐華のままにしていたのだ。けれど当時の僕がそれを知る由もなく、おそらく言われても理解できなかったと思う。それだけ彼の不器用な愛情は伝わりづらく、そして当時の僕にとっては残酷だったのだから。

その後、朝起きたら僕は母さんのところにいて、父さんはどこにも居なくて、でも母さんは父さんと(おそらく)会っていて、でも父さんは僕の前には一切姿を見せてくれなくなった時はなんの冗談かと思ったけれど、本気になった父さんはすごかった。

家に行ってもそこはもぬけの殻。会社に行けば自主退職していて行方知れず。
携帯電話もすべて解約してあって繋がらず、意地になって戸籍まで調べたら、戸籍がない。
そして眠っている時に父さんに頭を撫でられた感触がして飛び起きても、父さんどころか誰もいない。
今思えばあれはきっと父さんのスタンドが僕の頭を撫でていたのだけれど、当時の僕はその感触だけがただただ懐かしくて苦しかったのを覚えている。母さんに抱き付いてもすぐに剥がされて、甘い匂いもしない。

結局母さんに散々お願いして、色々あった末に僕は父さんに熱烈な愛の告白のようなものをかまして散々泣いた揚句、僕を捨てないでと叫んで事なきを得たのだが―――ああ、今思い出しても頭が痛い。やっぱりレクイエムじゃあぬるいかもしれません、と思いながら僕は今日も父さんに親愛のハグをする。



イタリアの何がいいって、日常的に大人同士でハグしてもいいって所ですよねと、僕は今日も胸いっぱいに幸せな甘い香りを吸い込んだ。



親子喧嘩をこじらせると恐い



もし漂流主とハルノが三部後、親子になって平和に暮らしたら。
平和に親子になるとハルノの漂流主依存度がはんぱなく高くなる件について。
嘘だろハルノ。


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