■ 04.He was laughing.

「―――クイーンズ・イングリッシュ」
「え?」
「クイーンズ・イングリッシュだ。お前のその英語、一体誰に習った?」





暗い暗いDIOの部屋で紅茶を飲んでいた俺は、突然の話題変更についていけなかった。
ええ?だってさっきまで一緒にスタンドの話してたじゃん。なんでいきなり言葉の話。
というか、クイーンズ・イングリッシュってたしか英国貴族が使う言葉じゃなかったけ。
それを俺に振る意味が・・・・・・・・・・・・あったわ。俺の英語の先生が専らジョナサンだったことを考えるとおそらく俺の使う英語の中にクイーンズ・イングリッシュ的な言い回しがあったのだろう。それで、誰に習ったか聞いている、と。

ああ、しくった。まさかジョナサンに習いましたという訳にもいかない。
が、ここで全くのウソを言う勇気を俺はもっていなかった。
だって命の危機だしな。いくら物理攻撃が効かなくても吸血鬼に吸血されてしまえばどうなってしまうかわからない状況で、そんな危険を冒すわけにはいかない。
少し息をついてから、俺は上の方を見据えて口を開いた。





「・・・古い、友人にですよ。俺はそいつに英語を習ったんです」
「紅茶の飲み方もか」
「ええ。そんなに飲み方が変でしたか」
「いいや。随分と貴族のように飲む男だと思ってな」





ははは、と思わず乾いた声を出してしまった俺の脳裏に、気品あふれる姿で紅茶を嗜む友人の姿がフラッシュバックした。
あそこまでとはいかなくても、あんな感じに飲んでたらそりゃDIOも不振に思うわな。

不適に笑うDIOを見て、嫌な汗が背中を伝う。
大丈夫だ、よな・・・?いくらDIOでも、俺のその友人がジョナサンだとは思うまい。多分。そうだと言ってくれ・・・・。
きゅっと一気に紅茶を飲みほした俺は、息もつかずに口を開く。頬を冷たい汗が伝った。





「それで、俺はこれから何をすればいいんですか」
「随分と結論を急ぐじゃあないか、影崎」





だが、まあいい。
そんな呟きが聞こえたような気がして、はっと目線を上げればそこには笑みを浮かべたDIOがいた。

優しい笑み、だとそう感じてしまった俺の目は変になってしまったのだろうか。






「ある女の世話を頼みたい。そいつは俺の子供を身ごもっていてな」






少し笑いさえもらすDIOの言葉に思わず息を止めてしまった。
俺はいくつもこの『話し合い』の内容を想定していたが、これは予想外だ。
俺は、てっきり。





「―――――誰かを、殺せと。そう言われるかと思ってました」
「世の中には適材適所というものがあるだろう?」
「・・・ええ」
「今のお前に殺しを命じても、動物一匹殺れはしないだろうからな。殺しは他の奴にでもさせればいい」





そう言いながら、DIOが俺に向かって何かを投げてよこす。
見ればそれは鍵のようで、大きなリングに一つだけ装飾が施された鍵がついていた。
その鍵の部屋に、その女はいる。





「では、頼んだぞ」





そう言ってこの部屋から出ていくDIOの顔を見る余裕なんてものは俺にはなく、ただただ安堵のため息がもれた。
―――よかった。本当は怖くて怖くて仕方がなかった。
DIOの言う通りだ。俺は動物一匹殺せやしない。そんな勇気など、ない。
カタカタと未だに震える手を合わせ、息を吐き出す。
逃げ出そうとしても捕まる可能性の方が圧倒的に高かったこの状況で、その選択を潰したのはDIOだ。奴は気づいていた。殺しを命じたが最後、俺がここから逃げ出すことに。


本当に、よかった。
まだ殺されずにすみそうだと俺は安堵した。

[ prev / top / next ]