■ 28.I can leave it to them.

「さて・・・と、本当ならこの手でディオを散滅したかったのだけれど、それはもう・・・時間的に無理そうだね」


そう言って苦笑したジョナサンを見ながら、俺はゲホゲホとむせた。
取り敢えず必死に息をしながら思う事は、相変わらずディオに対してだけはすっげえ物騒な事言ってんなあ・・・とか、いやむしろ散滅だったら生ぬるい方か、と言うどうでもいいことばかり思うのはしょうがない。だって勿論現実逃避。それもディオがやってきたことを思えば当然なことなのかもしれないけれど、ことジョナサンに関してはそうも言い切れないんだよなあと現実逃避を続ける。何せコイツは死ぬ直前にディオとは半身発言をした男である。父親も殺され、自身も殺された癖に、最後はディオの事を拒絶するのではなく受け止めたジョナサンの気持ちは、俺には今でも理解できない。だからこそ、俺はここに来た当初にこいつらの関係を考えるのを放棄したのだけれど。

相変わらずゲホゲホとむせながら、そんな事よりと俺は先程のジョナサンの言葉に無理矢理頭を戻した。それは今考える事じゃない。

今考えるべき事は・・・そうだ。確か、時間がないって言ってたな。
ふーっと息をゆっくり吐き出して、また考える。現実逃避はそろそろやめとかないとヤバイ。うん、で、何の、時間がないんだっけ?・・・うわ、またむせた。地味に痛い。しっかし、こんだけボロボロの癖に、いつの間にやら全身がもう地味にしか痛くないのが・・・・・の、が。

ばっと顔を上げてジョナサンの顔を見る。ニッコリと笑みを返された。いや、笑みは素敵なんだけど言いたいことはそうじゃなくて・・・。



「・・・ジョナサン、お前もしかして波紋」
「もちろん使ってるよ!だって影崎だって痛いの嫌だろうし。それに波紋を使ってなかったら今頃痛みで意識飛ばしてるか、最悪僕と同じ存在になってたと思うよ」
「いやいやいや・・・冗談だよね?」
「僕がこんな時に冗談言うと思うかい?だから言ったんだよ。時間がない、ってね」



あー・・・、さっきのはジョナサンの時間ではなく、俺の時間がないって意味だったのか。実感がない。と言葉を漏らせば、ジョナサンにガチで怒られました叱られました。
そして何故か額に手をあてられる。真剣な顔に、緑が揺れた。時間がない。
もう一度言葉が呟かれたと同時に、彼の静かな言葉が俺の耳に突き刺さった。
ひゅっと喉が鳴る。赤い目が頭をよぎって、冷たい汗が背中を伝うような錯覚に陥った。
無駄なことを考える暇もない。



「君はディオの力を甘く見すぎている。僕が外側から波紋を流したくらいじゃあ、君の額に埋められたディオ・・・いや、DIOの肉の芽は完全には消えない。かと言って、スタンド使いでない今の影崎にそのまま波紋を流したら君の身体が波紋のショックに耐えられない事は確実なんだ・・・これは僕の力不足が原因でもある。僕に正負の波紋は扱えないからね。・・・でも、ちゃあんと取り除く方法は考えてあるんだ!だから影崎、僕を信じてくれるかい?」


100年で嫌な成長をされちゃったから、こうするしかないんだと彼は笑ったけれど、俺は俺でジョナサンの言葉を認識するまで少し時間がかかったのですぐに返事をする事が出来なかった。DIOの力は、そう簡単に取り除ける代物じゃなかった、という事か。
そう言われてみれば、額に違和を感じる・・・気がする。色々普通じゃない状態だから言われてみないと分からなかったけれど、確かに、まだなにかいるかもしれない。息を飲む。血の味がするはずなのに、何の味もしなかった。嫌な汗ばかりかいちゃうもんだから困るよなあ、ほんとに。色々一度に起きすぎて、ゆっくり理解する時間もないんだから。



「・・・信じるって言ったって、何するんだ?波紋は、直接内側に流せないんだろ?」
「例外があるんだ。今の僕に上手く出来るか分からないけれど、でも、もう僕にはこれしか思いつかない」
「俺にスタンドを戻してから、内側に波紋を流すって言うのはどうだ?それなら・・・」
「いや、君にスタンドが戻るってことは、レクイエムの発動条件が満たされなくなって僕がここにいられなくなるって事だ。それじゃあ影崎に波紋は流せない。それじゃあ、意味がないんだ。だから・・・」
「わかった。わーかった。信じるよ。お前が信じて欲しいなら、俺はいつでもお前を信じる。ちょっと言ってみただけだよ」


だって、何だか嫌な予感がしたから。とは言えなかった。俺の第六感はこのDIOの館で大分鍛えられたが、今のところ成績は五分五分。記憶に関しては全敗だったのでその第六感自体を完全に当てにできるかといったら答えは否だ。だけど・・・なんだろうな。どうにもジョナサンが死んでしまうような気がして、ならなかったのだ。おかしいのは理解している。だってレクイエム云々は置いといても、彼はもう確実に死んでいるのだから。・・・死んでる、けれど。



「そっか」



でも確かにここにいる。
なのにそう言って嬉しそうに笑うジョナサンに危機感しか抱かない。抱けない。



「僕、そう言ってもらえる友達ってディオのせいで全然いなかったんだ。だから、すごい嬉しい。やっぱり僕は影崎に会えてよかったよ。本当に感謝してるんだ。だって君がいなかったら、僕はエリナやツェペリさんやスピードワゴンもいないあの世界で、ずっと一人ぼっちだったんだから」



ガッと俺の腹に一発入れたジョナサンが、だから、本当にありがとうと本当に嬉しそうに耳打ちして、崩れた俺を片手で支える。そんな事言いつつ鳩尾に一発入れるなよだとか、一生の別れみたいだろそんな事言うなよだとか、ハルノは、どうするんだよ、とその言葉も出なくて、俺はただ彼が次に零した言葉に指を一本動かすことも出来なかった。



「―――深仙脈疾走」



その意味を理解するのに数秒。
そして、理解した瞬間に、息が止まった。

光る視界で、満足そうに微笑む彼が手を振る。
俺の頭を一撫でした彼は、ハルノそっくりの笑みを浮かべて、消えた。




馬鹿野郎が。

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