■   セパンナコッタ・ストーリア-3

「何でもパッショーネってところの情報解析チームの人らしい。匿名希望だけど、恩は売っときたいって感じだったな」



そう言えば、隣に座るフーゴ君がはあと深い溜息をついた。
俺がいうのも何だが、彼の場合は俺の三倍速で幸せが逃げそうだなあと考えていると、ぐるんと彼の顔がこちらを向く。
伊達男を気取りすぎて逆に滑稽な感じになっていたムーロロという胡散臭いおっさんを思い出していたせいか、俺の顔がしかめっ面のまま固まった。



「で、何で影崎さんがここにいるんですか・・・」
「だってどうせ空港行くんだろ?俺も飛行機に乗ってエジプトに行かなきゃいけないんだよ。ついでだついで。それにフーゴ君の仲間ってのも個人的に見てみたいし」
「最後が本音じゃあないですか?」
「まあそうともいうけど、場合によってはエジプトに行っても意味がない可能性も出てきたっていうか・・・もう決定事項かもしれないというか」
「?」



さて、大体の車にはシートベルトの下側の付け根のところにタグがあるのだが、其処には製造年月が記されていることが多い。
このフーゴ君が運転する盗難車も例外ではないのだが、それをちょっと確認してみた所製造年月はなんと2000年。
まさかの21世紀ものである。俺の犯罪歴が着々と更新されている事には目を瞑ることにして、まさかの21世紀。
俺がDIOに会ったのが大体1984年。でもここは2000年。
明らかに西暦がおかしいですねありがとうございます。



「ああもう・・・これはまた飛ばされたんじゃないだろうか・・・。でもスタンド使いがいるってことはここは向こうじゃない訳で・・・という事はハルノは?!」
「ちょっともうすぐ空港に着くんですから黙ってて下さい。じゃないと舌噛みますよッ」



ギャギャギャッとドリフトしながら止まった車からフーゴ君が飛び降りて、それに続いて俺も降りる。
ほんとに舌噛みそうだった危なかった・・・ああでも噛んだところでゲル化するから大丈夫だわ・・・といいんだか悪いんだか微妙な俺の痛覚を無視したスタンドにどう反応すればいいか困りながら、走るフーゴ君に続く。
まっすぐ迷いがない走りに、吹っ切れたなあと笑みを浮かべた俺は瞬間表情が凍り付いた。



「見ろフーゴ君ッ!!あの飛行機スタンドが取りついてるぞ!!」
「あれはブチャラティ達だ!!そして―――彼らはまだ、スタンドに攻撃されていることに気づいていない・・・ッ」
「どうする?今ならまだ俺のスタンドで離陸を阻止することは可能だけど」
「頼みます!奴は・・・僕がやるッ!!」



そう言って、飛び出していくフーゴ君の背中を見ながらスタンド能力を発動させる。
地面をゲル化させて飛行機も下の方をゲル化すれば、離陸は不可能。不可能だけども。



「・・・フーゴ君、出来るなら早くやっつけてほしいかな・・・、引き止められる時間はあんまりないか、も・・・」
「影崎さんッ!!」



何故か飛行機の中にいるフーゴ君の仲間より、俺の方を優先して攻撃しているスタンドに疑問しか浮かばない。
口の中から血がこぼれて、陽炎の揺らぐ地面に染みを作る。
広範囲の能力使用は本体の防御が疎かになるんだなと新しい発見をした痛み耐性ゼロの俺は、その場に膝をついた。
地面の上に倒れこめば、用がないとばかりにフーゴ君に向かっていくスタンドのおぞましさと言ったらない。
離陸しない様にスタンド能力だけは緩めなかった俺を誰か褒めてーと思う自分に苦笑しながら、けど今にもこちらを攻撃しそうな銃口の方にも苦笑した。

まったく、俺部外者なのになにやってんだろうって思うけど、・・・放っておけないんだよなあ。



「いいかフーゴ君・・・突っ走れ・・・今の君に物理攻撃は効かない・・・」
「フーゴッ?!・・・そうか、俺達の追っ手になったのか。気にするな、よくあることだ。この世界ではな」
「違うブチャラティッ!!僕はッ!!」



こちらに来た小さい飛行機に何発か打たれたが、致命傷ではない。でもめっちゃ痛いやばい。
まさかこんなところで地面に熱烈なキスをかますとは思わなかったと、イタリア語で何やら叫んでいる彼らを重い頭を少し動かして見た。
一通り会話が終わった後に、彼のスタンド・・・パープル・ヘイズが姿を現す。

ああくっそ、視界がめっちゃぼやけてきたし、頭も割れるように痛い。
スタンド能力の使いすぎだと分かっているけれど、今更能力を止める気はない。
いや、したら多分フーゴ君が滅多打ちにされて終わると思う。
それは避けたいし、離陸させるわけにもいかない。
ここまで来たら関係ないもあるか。やりきってやる。そうも思った。それに。

・・・それに、エジプトに行ってもきっと誰もいない。
時代が違っているだけとは限らない。俺の知っているこの世界とは似て異なる世界かもしれないんだし、それなら。と徐々に沈んでいく思考を、どれだけ時間がたったのだろうか、誰かがぐいっと引っ張り上げた。



「何してるんですか、馬鹿ですか貴方はッ!!」
「・・・・・・・はる、の?」
「ええそうです。正真正銘、汐華初流乃です。母は秋。そして父は貴方だ」
「ばっか・・・そこはDIOかジョナサンだろ・・・」
「そんなに嬉しそうに言っても説得力ありませんよ・・・父さん」




遠くからフーゴ君と仲間らしい声が聞こえる。
駆け寄ってきたフーゴ君のすがすがしい顔から、ナランチャと名乗った少年の申し訳なさそうな顔までぐるりと見回した俺は、ハルノに支えられながらその場に立った。
中々個性的なメンツだなとハルノに話しかければ、彼はとても爽やかに微笑む。



「ええ。これで全員そろいました。そうですよね?フーゴ」



居心地が悪そうに頭をかくフーゴ君をナランチャ少年とミスタ青年がどつき、ブチャラティさんが微笑み、アバッキオ青年が呆れたように、でもちょっと嬉しそうに肩を竦めている。



「何してんのみんな。早く行くわよ!」



そう言った彼女―――トリッシュさんもどことなく嬉しそうで、俺も思わず笑みが浮かんだ。
ところで君、前に俺とどっかであったことなかったけ?という彼女への問いにはエルボーで返されてしまったけれど。

・・・いやナンパじゃないんだってば、ほんとに。

どっかで見たことあるピンク髪なんだよなあと呟いた言葉は、青空に吸い込まれていった。



セパンナコッタ・ストーリア-3



アラン様リクエストありがとうございました!


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