■ □答えはハイしか許可しないッ!!

肩でゼエゼエと息をしながらも屋根と屋根の間を飛び越え、振り向きざま後方へスタンド能力をぶっ放した俺はポケットから携帯を取り出した。

何回かのコール音の後、のんびりとした同僚の声に被せるようにして遅刻する旨を伝えた俺はすぐに通話を切ってそれをもとの場所へと戻す。
三十代な俺には少しハードな朝だが、まあしくったのは自分自身なので別に暗殺者に追っかけられてもしょうがないよねーそうそうまさか近道しようとして裏路地に入ったら暗殺の真っ最中でうっかり暗殺者たちのスタンドを目で追っちゃった俺が悪いんだよねー。
・・・あれ、おかしいな。視界がちょっとぼやけてるや・・・。

とまあこんな感じの経緯で暗殺者たちに追われる羽目になった元DIOの部下こと俺はただいま彼らと鬼ごっこの真っ最中なのですが、如何せん暗殺者達はチームを組んでいたようで中々巻けない。
仮に彼らを暗殺チームと呼ばせてもらうが、リーダーと思わしき銀髪の男を筆頭に、さっきからキレまくっている水色の天パの男やJ・ガイルみたいな能力の奴や見た目はサーファーの兄ちゃんみたいなピンク髪の坊主、途中からやけにイケメンな思わず兄貴と呼びたくなるような感じの男やネギっ子が追っ手として追加され、さらにさらに今俺の目の前には変態臭漂う金髪マスクが俺の血液を採取していったのだが、どう考えてもヤバイ感じがしたのでそれだけはスタンド能力を使って回収させて頂いた。
ぶっちゃけると中々ピンチであるが、元DIOの部下を舐めないで頂きたい。
これでも様々な修羅場を超えてきた身だ。
俺は乾燥した唇を少しなめて、目深にかぶった帽子をさらに深く被った。

俺の後方で男が顔を見せろとキレまくっているからまだ俺の顔は割れてない筈。
なので、今のうちに彼らを巻きたいところである。
だって俺の出勤時間が迫ってるし。遅れるって連絡はしたけど、遅れない方がいいに越したことはないからなーと我ながら呆れるくらい危機感がないまま、俺はふうと短く息をはいた。

一瞬。一瞬だ。
俺は物陰に隠れて瞬時に自分と全く同じ姿のスタンド像と入れ替わった。
そしてスタンドの方を敵に追わせるように仕向けて、自分は息を殺す。
俺はスタンド能力だけは無駄に高いらしいのでビジョンもハッキリしてるしスタンド自体の力もほぼゼロに近いので射程距離も長い。
伊達に十年近くこっちの世界で生きてないぜと誇っていいのか微妙な技術を行使した俺は帽子を取って人ごみに紛れた。
人を隠すには人ごみがもってこいなのだ。
ちなみにスタンド像には同じ帽子を被せといたので顔も割れない筈。
後は高みの見物だなあと思いつつ、スタンドから感じ取れた情報に俺は思わず苦笑した。



「チクショーーッ!!なんなんだってんだよォテメェはよォッッ!!クソッ!ナメやがってクソッ!いい加減そのツラ見せやがれってんだ!」
「落ち着けギアッチョッ!!イルーゾォがこいつを『引き込む』まで辛抱しろッ!!オイまだかイルーゾォ!」
「なんだ・・・?こいつ慣れてやがる・・・オレみたいな能力に慣れてやがるッ!!全然鏡に映らねえッ!!」
「ど、どうするんだよ兄貴ィ!兄貴の能力は無差別だから鏡の中に引き込めないんじゃあ・・・」
「だったら触れるまでだ・・・!!ペッシ!」



まだ若いらしい。ツメが甘いし、そんなに慌てちゃ駄目だよとツッコミを入れた俺は腕時計で時間を確認しつつその場から立ち去った。

それが今から六年程前の話である。
そう六年も前だ。六年も前な筈なのにだよ?



「ようやくその顔を正面から拝めたな・・・影崎」



にやりと笑みを浮かべた男たちに全力で叫びたい気持ちでいっぱいだよ!!なんで君ら俺の事覚えてんだよ!!!態々おっさんの相手なんてしなくていいんだよ君ら!暇か!粘着質か!!ネチッこい奴は嫌われるぞ!!
ぜーぜー。
とまあこんな風にツッコんでも現状が変わる訳でもない。
バッチリこっちの名前もばれてるし、ああこれから俺どうしようかなーと現実逃避していたら、何故かリゾットと名乗った男に手を差し伸べられた。

・・・うん?



「俺たちは貴方を始末しに来た訳じゃあない。誘いに来たのだ。俺たち暗殺チームの仲間になってほしい」
「・・・あのゴメン。言ってる事がちょっとよく分かんないんだけど。そこら辺にいる感じのアラフォーのおっさん捕まえて何言ってんの君ら」
「普通?俺たちを巻いて、更に六年も足を掴ませなかった奴が言う台詞じゃあないだろ」
「むしろ六年もかけて俺を見つけ出した君らの方にびっくりだよ」



重い重い溜息を吐いた俺は、記憶の中の彼らより成長した姿を見てまた溜息しかでない。
どうしてこうなった・・・と項垂れながら俺は米神に手をやった。





答えはSi(はい)しか許可しないッ!!





匿名様リクエストありがとうございました!


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