■ □幸せな甘い香り

「秋さん!ハルノを置いて出かけるなとあれ程言ったじゃないですか!!」
「何よ影崎。日中は貴方の言われた通りちゃあんとしてるわよ。でも夜は私の時間なの!いいじゃない。今日も影崎があの子の面倒を見てくれるんだし」



何年たっても母親という自覚が薄い彼女の家に通うようになってから早数年。
SPW財団の尋問からようやく解放されて日本に帰ってきた俺が、汐華様の母親らしからぬ生活に憤慨したのは当然だと思う。

まったく、と堅っ苦しいネクタイをほどきつつ、汐華様のきらびやかな服装を見て溜息しかでない。



「ハルノと一緒にいるのは勿論なんの問題もないし、むしろ一緒にいたいと思うけどさ・・・、でもさ秋さん。ハルノの傍には俺みたいな他人じゃなくて肉親である貴方がいるべきなんですよ」
「なら影崎がハルノの父親になればいいじゃない」
「・・・うん?」



にっこりと美しい笑顔で微笑む汐華様。
そういえばこの人って他に追随を許さないレベルの美人だったなと今更ながらに思い出しながら、俺は脱いだスーツの上着を彼女の肩にかけた。
・・・目のやり場が、非常に、困るんですけど。
夜の生活をエンジョイする人達ってみんなこういう服装なのかと男としては嬉しい反面、知り合いとしては酸っぱい顔になる。

そんな彼女の中でどんどん話は発展していっているらしい。
いつの間にか彼女はハルノを抱きながら、にこにこと笑顔を浮かべていた。



「そうよ寿退社しちゃいましょうよ。名実共にハルノの父親になればなんの問題もないわよね」
「・・・おや?」
「んっん〜!だったらついでにイタリア国籍をとっちゃいましょう!私ずっとイタリアの暮らしに憧れたのよォ」
「いや、え?ちょっ」
「ハルノ〜、これからは影崎が本当のお父さんになってくれるわよ」
「とうさん!ほんとうですか!!」
「ちょっと待てハルノお前パパ呼びはどうした!!あざとい!!流石ジョナサンの息子!!・・・ってそうじゃないでしょ汐華様ッ!!!」



それってつまり俺と彼女が、け・・・結婚するということでいやでもハルノのキラキラした目線が俺を攻撃しててじゃなくて何か急に拗ね始めた汐華様が俺の頬をひっぱっていて頬がゲル化しててええええええええええええッ?




「私の事は名前で呼んでって言ったでしょ・・・!!!」
「あ、はい、すみません!」
「分かればいいわ。・・・あ、もしもし金田?うん、そうそう。私、影崎と結婚する事にしたから書類の方と前に話してたイタリア国籍の件もよろしく頼むわね。え?もう三人分取得できてるの?さっすがSPW財団、話が早いわねェ!」



俺にハルノを託した汐華様が電話口で何かしゃべっている。
そして突如現れた鳥スタンドもといキャラバンに拉致られて、俺は袋の中へと落ちていった。


・・・うん?



■□■




「というトントン拍子で僕の父さんと母さんは結婚したんですよ」




イタリア首都、ローマにある有名なお菓子屋さんでジョルノと駄弁っていた俺は、持っていたフォークをガタンと落とした。
にっこりと天使のような笑みを浮かべているパッショーネのボスことジョルノ・ジョバーナは、大層幸せそうな様子でプリンを味わっている。
いや、お前それってよォ・・・。



「そんな流される感じで結婚しちまって大丈夫だったのかよ、お前んところの両親」



ソウダソウダー!とピストルズが同意する中、ケロッとした顔でこちらを見るジョルノの目は随分と爽やかだ。

確かジョルノは一人っ子だったと聞いているし、(俺達がギャングだからか)両親の話もあまり聞かない。
てっきり禁句だと思っていたその話題を急にふられたことにも驚きだと言うのにこのすまし顔はなんなのだろうと思いながら、ジョルノがのんびりと俺の後ろの方を指さした。




「まったく問題なかったですよ。結局父さんも最後は腹を決めてましたし、母さんは言わずもがなでしたからね。それにほら、後ろを見てくださいよ」




けっこういい夫婦だと思いませんか?という言葉は、この店の厨房にすわる夫婦に向けられていた。





幸せな甘い香り




匿名子様リクエストありがとうございました!

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