■ 20.He desired another life.

うじうじ考えていても何も始まらない。
そう思って気持ちを無理矢理一新して、ショートケーキを作ろうと思ったのだけれど。

・・・おっけーおっけー。今の状況をよーく整理してみよう。
現在地はDIOの館の俺の部屋。南東側の部屋で相変わらず頭がおかしいんじゃないかと思うくらいの調度品に金をかけた良物件。ついでに外は今日も雨。
この屋敷的には中の下級クラスだけど相変わらず以下略。
壁には俺が勝手につけた万能フックに調理器具がかけられていて、まあいつも通りの風景だ。
机の上にはこの前の出張の時に買った卵とヒヨコさんの雑誌が置いてあって、傍に置いてある椅子には俺が座っている。

そうなの。俺が座ってんの。椅子に。



「・・・・・・・・・・えっと、どなた様?」



俺ってこんなに仏頂面だっけ?能面だっけ?と疑問に思うくらい、目の前の”俺”には表情がない。
が、顔のパーツは全部鏡で見慣れた俺自身の顔であるのでもれなく変な気分に襲われている。
ハルノが汐華様のとこ行ってて良かったーと思いつつ、さてコイツどうしようと思い始めたところで椅子に座っている”俺”が俺を見た。
ちなみに”俺”が椅子に座ってる奴で、俺が俺ね。
・・・ええい、分かり辛い。



「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」



もしかしてコイツ喋れないんじゃね?と思っていたらその通りらしく何か一瞥された。
俺、こんなに愛想悪くないしこんなに眼力ないよ・・・どういうことなのドッペルさん。そして無表情すぎるだろ、と気まず過ぎて目をちょっと伏せて閉じた時にその異常に気付いた。

目を閉じたのに風景が見えている。
というか、目を閉じた俺を俺が見てる。



「は?」



ちょっと言ってる意味がよく分かんないかもしれないが俺もわからん。訳わからん。
とにかく視点が変わったんだと思う。俺の視点から、”俺”の視点に。

瞬きをすれば、一瞬で視界が元に戻って”俺”がこちらを見ていた。
椅子から”俺”はスタンドが消えるように半透明になって、そして消える。
呆然とすること暫く。ようやく口から出た言葉はとても気の抜けた声だった。

これがもしかして噂のスタンド像なの?まさかの自分自身とかそれなんてナルシストとかなんとか思いつつ、けれど何となくそうなった原因に少し、いや多分俺の深層心理がそのまんまビジョンに反映されたのだろう、心当たりがあった。

スタンドはスタンド使い本人の意思を反映させたモノが多いらしい。
能力だけではなくビジョンにもそれが当てはまるなんてあまり聞いたことがないが、事実なってしまったのだから当てはまるのだろう。
ますますこのスタンドというものは得体がしれないものだなあとヒシヒシと感じながら、俺は自分の手の平を見、そして思わず項垂れた。




もう一つ命が欲しいと本気で願うなんて、我ながら馬鹿げていると思うけれど。




(どうしたのですか影崎)(あ!いや、何でもないよンドゥール!今日はいい天気ダネ)(今日は雨だがな)(言えない・・・自分自身がスタンド像とか絶対他人に言えない・・・絶対見せたくない・・・)(・・・こりゃあ聞こえてないな)


だってそうすれば、二つの道にそれぞれ進めるじゃないか。


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