■ 01.He was not so kind.But

「―――影崎ッ!?」



優しく思いやりがあって人当たりが良くて笑顔を絶やさないジョナサン・ジョースター。けれどそうして紳士然としているくせに、やんちゃを絵に描いたような奴よりよほどやんわりと強引なアイツは、なんだかこちらが従わなければいけないような、この人の望みを叶えてあげないのは申し訳ないと、そんな気にさせる何かを持つ男だった。そんな彼がなんであれ、今回の摩訶不思議現象のきっかけなのは考えるまでもなくて、けれどそれが彼の望んだ事ではないという事は火を見るより明らかだった。
最後に見た彼の酷く焦った表情が瞼の奥にこびりついて離れない。



落ち着け俺マジ落ち着け。



逆トリップした奴と紆余曲折あって友人になったら俺がトリップ的なものをしてたという、とてもじゃないが笑えない状態になっていた俺は何故かエジプトにいて、思っていたより冷たい風が日本慣れした肌をガサガサと撫ぜ続けていた。口の中がジャリジャリとして気持ち悪い。
どういう事になってるのか説明してくれると嬉しいなーとジョナサンに頼もうにも、彼はこっちの世界では100年も前に死んでしまっていて、中途半端に幽霊の彼は”こっちの世界”に戻る事はおろか彷徨う事さえも許されなかったとは本人の談である。つまり、彼による説明は期待できないし会えることもできなさそうだと自己解釈した俺は思わずため息をはいた。
そこら辺に転がっていた1984年2月15日の新聞を拾った俺は、SPW財団という文字を指でもう一度なぞり、そしてそれを自分のポケットにねじ込んで前を向いた。
とにかく、ここから動かなければ何も始まらない。
そう思って動き出そうとした時だった。


ぐさり。



「・・・スタンドとは、実に興味深いものだなエンヤ。これもスタンドというモノのせいなのか」

「そうですじゃDIO様。その者のスタンドはあらゆるものをゲル化する能力のようですのォ。物質に干渉する能力故、今のDIO様にも見えるという訳でございますじゃ」



いやあんたらいつの間にそこに居たの?とは言えなかった。
だってほら刺さってるよ。ほら腹に 剣 が な!!!
剣の柄の装飾が豪華そうですねだとか、ああ本体も24金で出来てそうですね。高そうですねだとかいう、所謂どうでもいいことばかりが頭に浮かんでしょうがないのは今が緊急事態だからに違いない。

ああ、腹?腹は痛くない。痛くないけど、問題は俺が人間の原型を留めるのに苦労しているという点で、腹から足にかけてはもうドロッドロのグッチャグチャのプルンプルン。重力に耐えきれなかったソレらがボトンと落ちたりくっついたりしていて、どうにも奇妙な感覚が俺を襲っていた。
俺、どうしちゃったの・・・とぼんやり思いながら、俺はコチラを興味深々な目で見る二人に目を合わせる。

ディオとかジョナサンの義兄弟と一緒の名前で、しかもジョナサンが話してくれたDIOの特徴まんまじゃねえか。はは、やだ超偶然ー・・・笑えねぇと思ったのを最後に俺の意識はプツリと途切れた。

ジョナサン、お前の元居た世界はモブにも容赦ないよなあと言ったら、彼は僕にも容赦なかったよと言って笑った。



でも僕は
あの世界を愛してるよ。今もね。



お前ならきっとそう言うだろうと思ったと言って、俺は笑っていた。

俺が俺を見ている、そんな夢を俺は見ていた。

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