■ 12.The man was looking at them calmly.

「で、つまり俺は客寄せパンダならぬ客寄せスタンド使いって訳ね」



飛行機の中でホル・ホースの話を聞き終わった俺は、機内でもらったミックスジュースをストローですすった。
ズズズ、と音がして中身が無くなった事を悟った俺は、空の容器を袋の中にねじ込む。
まあそういう事だな、と相槌を打ったホル・ホースはどうやらオレンジジュース派らしい。
「間もなく、当機は離陸態勢に入ります」というアナウンスを聞いて席のベルトを締めた俺は、そういえばとホル・ホースに目的地を聞いた。
煙草が吸えなくてイライラ気味の彼が「ああ」と気の抜けた声を出してプラプラと手を振る。
彼の青い目がこちらを見た。



「まずはイタリア、次にアメリカだった筈だぜ。で、そこでDIO様の駒になる奴を見つけて来るって言うのはさっき話したよなァ?」



んー?あ、うん。と相槌を打つ。
DIOがエジプトから出れないから、俺らが駒候補をエジプトまで来るように仕向けるんだっけか。
で、その為に俺のスタンド能力を相手に見せて釣る。
曰く、力を欲する奴とか、欲深い奴とか、金が欲しい奴にはスタンド能力を視認させればコロっと落ちるそうだ。
それなら別に俺じゃなくても場馴れしてそうなンドゥールとかの方が適役っぽいのにと半ば独り言のように呟いただけだったのだが、どうやらそれがホル・ホースには聞こえたらしい。
ふっと笑った彼が「わかってねーなぁ」とスタンドのビジョンが見える右人差し指を俺に向けた。
思わず顔が引きつったのはもうしょうがない。
風穴の一件からして0:10でホルホル君が悪い。



「人を魅せようとした時に最も効果を発揮する力ってのはな、まさにお前みたいな能力なんだよ。死なねぇ能力ってのはそれだけ人を狂わせる。DIOの部下の中でも古株なお前なら、それに心当たりがあるんじゃねぇか?」



ドヤ顔するホル・ホースの顔面にチェストしたい衝動を抑えながら、「あー」と思わず言ってしまったのは大変心当たりがあったからだ。てか俺古株の内に入るのか。人の回転率良すぎだろDIOの館。だめだろDIOの館。

いや、まあそれはこの際置いておこう。本当は置いといたら駄目だけど置いておこう。じゃないと話が進まん。うん。うん確かにヴァニラしかりエンヤ婆しかり。まさに誘蛾灯のように人を引き付けるDIOは不老不死だ。
波紋攻撃と太陽の光には弱いが、それを上回る回復力を誇るあの吸血鬼は”不老不死”と、そう表現してもいいだろう。
ああ、でもなあ。不老不死もDIOの魅力の一つだ、けど・・・けれど。



「でもDIOの場合、天性のカリスマ性の方が”不老不死”の魅力より人を引き付けてる気がするなぁ。まだDIOが人間だった時も今みたいな感じだったって言ってたし」
「・・・影崎」
「んあ?どうしたんだよホル・ホース。そんな顔して」
「・・・お前、まさかDIOと雑談するような仲なのかよ?!」
「はっ?!まさかそんなわけないだろ!なんで俺があんなゲロ以下と雑談するんだよ!会うのが恐怖でしかないあの吸血鬼様だぞ!?」
「なのに何でDIOが人間だった頃の話なんて知ってんだ、お前」



てか、そもそもアイツ元人間だったのかよォ、という言葉と、ホル・ホースの硬い表情で自分の失態を悟った俺は盛大に固まった。
うわあああああああああやべえええええええ!!と内心大混乱の俺の手の半分以上はボトボトと床に落ちてしまっている。
オイ!と焦ったホル・ホースの声でハッとした俺は急いでスタンド能力を使って自分の腕を元に戻したが、もしかしたら誰かに見られたんではないかと思うと気が気ではない。
素早く辺りを見回したホル・ホースが表情に異常が出ている人間を探したが、その心配は杞憂だったらしく、俺の肩をポンと叩いた。
「ったく、これだからビジョンも出せない奴は・・・」という小言をもらいながら、俺は面目ないと思わず苦笑した。



「で、理由を聞かせてもらおうか」
「あれ、やっぱりそこ気になっちゃいます?」
「むしろ気にならない方が可笑しいんじゃあねぇか?」



くっくっくと笑うホル・ホースだったが、その目は面白いネタを見つけたとばかりにギラついていて、正直ちょっと怖い。
怖いですよホルホル君、と言うも、観念しろと頭を軽く叩かれて、俺ははあと溜息をはいた。
・・・まあ、ホル・ホースは俺につられてDIO呼び捨てにしてたし、DIO様信者じゃないっぽい雇われガンマン(本人談)だから話しても大丈夫かなあ。と判断した俺は、自らの首に手を当てた。別に言っても言わなくても、どっちでもよかったのだけれども。



「DIOの首から下の身体がDIO本人のものじゃないって事は知ってるか?」
「ああ。それが100年たってもまだ馴染んでないから、俺たちが駒を探しに行くんじゃあねえか」
「実はさ、その首から下の身体は俺の友人の身体なんだ」



は?と呆けた表情のホル・ホースが可笑しくて、思わず笑みがこぼれた。
こんな顔もできるんだなあと思いながら、もしかしてコレ結構レア顔なんじゃないのかとカメラを持ってこなかったことを少し後悔。コイツは結構各地に恋人という名の協力者がいるのでその方たちに結構な値段で売れそうなのだ。もちろんこの時代なのでポラロイドカメラだけれども、写真であることは変わりない。二十一世紀に生きる俺としては画質が気になるところだけどさ。



「その友人から聞いたんだ」



一応内緒だぞ?と言えば、俺の耳に「うそだろ・・・」というホル・ホースの声が届いて、同時に頬をつねられた。いたいいたい。お前ゲル化したらどうしてくれると言えば何言ってるか分からんと言われた。理不尽。

「ガチで不老不死なのかよ、お前」という言葉にまっさかーという返事をした俺は複雑そうな顔をしたホル・ホースの手からオレンジジュースをかすめ取った。ゲル化を使うとどうも喉が渇くのだからしょうがない。因みに未開封だよ。好き好んで野郎と間接キスとかマジ勘弁。お、これ100%果汁じゃんラッキー、と鼻歌交じりの俺は、オレンジ色のパッケージのそれにストローをさして中身を嚥下した。








「(・・・・・いまのは、まさか)」
それを見ていた男がいる事も知らずに。


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