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■ 11.To ride one's shanks' mare



「おめーが影崎か」
「んー?」



人がポツポツとしかいない食堂でむしゃむしゃと親子丼を頬張っていた俺は、突如聞こえてきた男の声に顔を上げた。西部劇に出てきそうなガンマン風の男が俺の向かい側の机にドンとハンバーガーを置いて、「ここ、いいか?」と聞いてきたのでこくりと頷く。
こんな人いたっけな、と思いながらも口を動かすことを止めないのは、部屋でハルノとエンヤ婆が待っているからだ。
あ・・・いや、待ってないとは思うけど、俺がエンヤ婆とハルノを一緒にさせたくない。
だって何か悪の帝王学とか学ばせそうだし。
とは言っても、この顎割れガンマンは俺をわざわざ訪ねてきたようなので何となく無下にもできない。
どうせ碌な事じゃなさそうだけど、と思いつつ手にしていた木製の箸を皿の上に置いた俺は、ゴクンと口の中のものを嚥下した後にじっと男を観察してみた。
三十代半ば、金髪碧眼にすっごいモミアゲ。あと。



「もしかして、スタンド使い?」



そう言えば、男の肩がほんの少しピクリと動いた。どうやらビンゴらしい。
DIOの館に出入りする人はたくさんいるが、この吹き抜けの食堂まで使う人は稀だ。
基本自分の力に自信がある奴か、誰かに守られてる奴か、俺みたいに基本攻撃がきかないスタンド使いしか来ない。

殺しが趣味みたいな人が大勢いる場所でのんびりと食事をとる行為がどれだけ自殺行為なのか、滞在初日にそれを味わった俺はしばらくこの食堂で食事が出来なかったものだ。

だからこの男はスタンド使いなんだろうなと思っただけなのだが、目を少し見開いているガンマンはどうやら自分がスタンド使いだと言い当てられた事に少なからず驚いたらしい。
それもすぐに隠されてしまったが、肩が揺れたり顔に出るところを見るに意外とおっちょこちょいなのかもしれない。
それでいいのか暗殺者(仮)とそんな失礼な事を考えていたせいか、顎割れガンマンの口元がくっと歪んだ。

あ、やばいかも。

DIOの館に来てから否応なしに鍛えられえた俺の第六感がガンガンと警報音を鳴らしたが、それに応えられる程の運動神経など俺に備わっている筈もなく。




「だったらどうするのか俺に見せてみろ影崎ッ!」



ドンと大きな発砲音と共に俺の眉間に衝撃が走った。
丁度ここを通りかかったらしいヴァニラの呆れたような目線を全身に受けながら吹っ飛ぶ俺。
見てたんなら助けろよ、という目線をヴァニラに向けてみたが、弱いお前が悪いとばかりに鼻で笑われる始末。
いや・・・まあヴァニラが優しかったらそれはそれで怖いんだけどさ。

どさあ、と音を立てて倒れこむ俺に食堂中の視線が集まる。
と言っても二、三人しかいないけど、平和な日常生活を望む俺の本意ではないのは確かだ。

あー、眉間に風穴開けられた気分だなーと思っていたら本当に開けられたらしい。
立つのめんどくさいな、とか思ってたら視界が一気に暗くなった。どうやら誰かが俺を見下ろしているようだ。
コツンと杖のようなものでつつかれた後にいつの間にか閉じていた目を開ければ、苦笑を浮かべたンドゥールが俺に手を差し伸べていた。



「いつまで死んだふりをしているんだ影崎?」
「いや・・・なんかめんどくさいなーと思って」
「まったく。だから言っただろう。攻撃されたくなければ壁の中にでも潜んで気配を消しておけと」
「壁の中で食べ物食べる趣味ないしできないし何より真っ先に壁を攻撃してきたンドゥールさんには言われたくない」
「オイオイオイ。まじかよ・・・眉間に風穴開けられてもピンピンしてやがるぜ・・・」



相変わらずのンドゥール。結構黒いよねンドゥール。にやってしてる顔もイケメンだけれども滅びよー滅びよー。あ、嘘ですすみません。

・・・まあ、いきなり悪かったなァ、と悪びれもせずこちらに手を差し伸べる少し顔を引き攣らせた顎割れガンマンの手も取って二人に起こしてもらった俺は、地面に着いた血痕に触れてシュルシュルと零れたそれを回収する。
はあ、と溜息をはいた俺は、さっきの真剣な表情から打って変わってシブい笑顔を浮かべた顎割れに向かって口を開いた。



「・・・で、何か用ですか」
「いや、DIO様にもしお前を殺せたら金をやるって言われてなァ?笑いながら言うもんだから何が裏があるとは思ったけどよォ。こういうことだったのか」
「金のために容赦なく眉間を狙えるお前が怖いよ・・・」
「俺は野郎に遠慮はしねぇぜ。それに試したかったしな」
「は?」



くっと笑った顎割れが、先程のように俺に手を差し伸べている。
どういうことだってばよ、と混乱する俺の頭に叩き込まれた言葉は衝撃以外の何物でもなかった。




「俺はホル・ホース。これからよろしくな相棒!」




はああああああああ?!と叫んだ俺の声が食堂中に響いたのはもはやお約束で、どこからか飛んできた茶碗が俺の肩にめり込んだ。



「ちょっとうるさいわよ影崎!!」



すっかりこの館に慣れた様子の汐華様の言葉に「は、はい!すみませんでした!」と即答した俺に向けるホル・ホースの目線が痛い。
ハルノ様の担当は臨時で私が引き受けることになりました、と耳打ちしてくれたンドゥールに断りを入れてから、俺は盛大な溜息をはいたのだった。



「(・・・・・まじで勘弁してくれ)」



大分一般人よりじゃなくなった影崎も平和に暮らしたい。

そしてようこそ男旅。癒しが・・・俺の癒しが・・・。
(本当は野郎はおよびじゃなかったんだけどなァ?)(生憎だな俺もだよ!)(影崎!海外行くならついでに日本に行って味噌買ってきなさい!)(えー)(私は赤味噌豆派なの)(贅沢な)

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