■ 09.In order to bring forth something rather than to destroy.

「まるで花咲か爺さんみたいだな」



どこから拾ってきたのか分からない木の枝に満開の花を咲かせたジョナサンは、きょとんとした後に「ああ!あの不思議な灰の話だね!」と嬉しそうに笑った後、「これは波紋っていうんだ」と何故か一層薄くなった体で身振り手振りをしながら説明をしてくれた。
曰く「呼吸によって生み出した生命エネルギーを使う」らしく、器を持たない今の彼は生命エネルギーの塊なので身体が薄くなるそう。へえ・・・と相槌を打ちながら生クリームを泡立てる俺の視界の端っこの方でピカッと何かが光ったと思ったら、俺の手の中の生クリームが爆発した。
そりゃもうその威力といったら凄まじく、キッチンの天井まで生クリームがぶっ飛んだほどだ。
「わあああごめんよ!!」と言いながら台ふきを持ってきてくれたジョナサンからそれを受け取り、呆然としながらクリーム塗れの顔をふく。
・・・どういうことなのー。とジョナサンを見れば、でっかい身体を縮こませて、シュンとしていた。
何気にコヤツ、ドジっ子である。
生前は自分の身長を忘れてドアの上の壁に頭をぶつけていたに違いない。



「生クリームが油だということを忘れてたよ・・・ごめんね影崎」
「なに?油だとなんかあんの?」
「うん。油は波紋伝導率が100%なんだ。その中でも動物性のものよりも植物性の方が伝わりやすいんだよ」
「・・・なら、これでもマシな方だったって事か」



俺は動物性の生クリームしか使わないのであれだが、もし植物性のものを使っていたと思うと背中に冷たいものが伝った。
文字通り俺の顔面崩壊の危機である。ジョナサンまじジョナサン。
まあとにかく、いつもの礼がしたかったらしいジョナサンは俺に波紋法を教えてくれようとしたらしい・・・が。



「残念ながら、俺には無理だったけどね」



と昔の事を思い出しながら、ようやく眠ったハルノの頭をそっと撫で、思わず苦笑した。
10分間息を吸い続けて10分間はき続けるなんて無理!普通の人間死んじゃうからそれ!と突っ込んだのは、随分と遠い記憶になってしまった。
もしかしたら、彼の世界にいる今ならばできるんじゃないかと思ったりもしたけれど、世の中そんなに上手く出来ているわけがない。
無理でした!死にかけました!思わず身体がゲル化するほどに。
まあこの身体で怪我をすることなんてないし、怪我をしたとしても零れた血とかをゲル化して取り込んで終わりだし。
・・・あれ、もしかしなくてもやっぱり俺人間やめてね?と少々虚しくなりながらハルノを見た俺は、ハルノの手が握っているソレを見て思わず固まった。



「・・・やっぱり、お前はジョナサンの息子だよ」



その手の中には、かつて見たような綺麗な花が握られていて、俺は何故だか眩しくなって目を細めた。
スースーと規則正しい呼吸をしているハルノがずっと息をはき出したり吸っていないか確かめた後、俺も眠ることする。
DIOの遺伝子も受け継いでいるこの子が将来吸血鬼にならないことを祈ってから、俺はようやく瞼を下した。



破壊するのではなく、何かを生み出す為に。



その力はあるのだと、友人が悲しそうに微笑んでいたのは何故だったのだろうか。


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