nostalgia

悔の話



 幼少期は、そうやって叱られたり宥められたり、世話を焼かれたり説教をされたり。同い年のはずなのに、彼女はまるで姉であるかのように俺に接してくれていた。俺はそんな関係に満足していたし、当然のことだと思い込んでいたのである。
 しかし成長していくにつれ、そんな関係は当たり前でないと、俺は知っていくことになった。そして俺は、ランに対して根の深いコンプレックスを抱くようになっていったのである。

 彼女は成長するに従い、元から愛らしかった容姿に輪を掛けて美しくなっていった。無邪気さも優しさも、内面の美しさは何も損なわないままである。だが知識と教養は、まるでからからに乾いたスポンジが水を勢い良く吸収していくように貪欲に得ていったのだった。
 村のマドンナのような存在になっていくラン。それに反し、俺は悪ガキとして立ち止まったまま、何の成長も経ていなかった。いや、逆に性質が悪くなったといえるかも知れない。

 だって、どうせ。そんなマイナス思考な言葉ばかりを覚え、逃げることを知った。だって、俺はこんな奴だから。どうせ、俺では彼女に到底届かないから。
 そうして逃げることは何より楽だった。勿論、そんな自分に嫌悪感を抱かなかったわけではない。だが一度逃げることを知ってしまったあとにそれを手放せるほど、俺は強い人間ではなかったのだ。全てから逃げて、成長することを拒否し、立ち止まったまま、ただ羨ましいと輝いていく友人たちを指を咥えて見ているだけだったのである。
 それでもランは、俺に対する態度を変えはしなかった。「マオちゃん」と、両頬に笑窪を作った少し幼い笑顔で呼ばれる度に、素直な喜びと理不尽な憎しみに心が占められ閉められる。

 ――ランがそうやって俺に接することが出来るのは、俺が彼女よりずっと劣る人間であるからだ。きっと俺が彼女より優ることが何か一つでもあれば、彼女は俺を見捨てるに違いない。そうやって思い込むようになった。……その一方で、彼女を大切に愛おしく思う気持ちも捨てられず、相反する感情は、やがて複雑に交差し絡み合い、俺は発狂してしまいそうなほどにまで追い詰められた。思い切り叫び、罵倒し、逃げてしまいたくてたまらなかった。

 もしかしたらそんな俺の醜さを、ランは知っていたのかもしれない。


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Character

マオ

ラン

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