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朝焼けのエール


 耳の穴の奥の奥まで、醜い言葉がぎっしりと詰まっているように思った。ずきずきと心臓の辺りが痛くてたまらず、ぐっと奥歯を噛み締める。蓑虫のように薄いタオルケットに包まって、溢れる涙を隠した。泣きすぎたせいか、はたまた奥歯を噛み締めすぎたせいなのか。頭の芯が揺さぶられるような、鈍く不快な頭痛に襲われる。

 友人と、喧嘩をした。文字とすればただそれだけのことだけれど、心底信じていた相手だっただけに、彼女が口にした罵倒は、わたしの心の深くまで食い荒らしていったのだった。

 声を荒げ、表情を般若のように歪め、こちらの非を鳴らす彼女は、まるで自分の知る彼女ではないようだった。恐くてたまらず、足ががくがくと震え、立っていることすらやっとだったのだ。その状態で反論など出来るはずもなく、理不尽な言葉を一身に受けた。その結果がこれだ。情けないことこの上ない。

 昔から、そうだった。悪意というものに、めっきり免疫がないのだ。それを前にすると途端に恐ろしくなってしまい、自分を完全な悪者と認めて尻尾を巻いて逃げ出してしまう。


「……こんな自分が、大嫌いだ」


 泣きすぎて腫れぼったくなった瞼を擦りながら、ぼそりと本心を零す。顔でも洗おうとタオルケットから抜け出せば、部屋は僅かに明るくなっていた。驚いて窓の方に視線を向ければ、黄色のカーテンが光に透けて淡く色を発しているようにも見える。

 確かタオルケットに包まって泣き始めたのは零時くらいからだったはずだ。どれだけ長い時間泣き伏せていたのかと、自分で自分に呆れてしまう。それほど長い時間泣いていたと考えれば、この瞼の重さも道理である。

 太陽の光でも浴びてみようかと、しゃっとカーテンを開け放つ。眩しさに思わず顔の前に手を翳して目を細めた。徐々に目を慣らしていき、そして窓の外の光景に思わず息を呑む。空は見たこともないくらい見事な朝焼けに染まっていたのである。

 橙色の太陽と、まだ僅かに夜の色を残す空が上手く調和して、何とも言えぬ美しさを生み出していた。薄く掛かっている雲越しに空気が煌いて、呼吸をすることすら一瞬躊躇われるほどに神々しい。つう、と先程までの涙とは違う雫が頬を伝った。どろどろと胸に溢れていた醜い感情全て、浄化されていくようだった。

 ――大丈夫だよ。見えない何かに、そうやって背を押して貰っているように思える。ゆるゆると、顔に笑みが広がっていった。顔の筋肉が痙攣しているのが判る。まだ筋肉がかなり強張っているのだろう。
 自分の頬に手を遣って、ぐいと上に持ち上げてみる。ぐにぐにとそれを繰り返し、口の端を人差し指で吊り上げた。


「……もう少しだけ、頑張ってみようかな」


朝焼けのエール
傷付いた心を癒してくれる、それは優しい色でした。

(フォロワーさんのイメージss。有亜さんのイメージで書かせて頂きました)

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