nostalgia

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共依存、その果てに。


 丁寧に形作った砂の城は、あっさりと波に浚われてゆく。さらり、さらりと溶けてゆくように、それは細やかな粒子に戻り、引いてゆく波と一緒に崩れ、一生懸命それを作り上げていた彼女を嘲笑うかのようだ。
 子供のようにしゃがみ込んでいた彼女は、寂しげにそっと眸を伏せた。彼女が履いている長いレースのスカートの裾が波と触れ合いそうになり、一瞬悪い意味で胸が高鳴る。ほら、立ちなよ、と彼女の腕を掴む。その腕のあまりの細さに、思わず呼吸を止めた。


「……どうかした?」

「……ううん。何でもないよ」


 そっと微笑みかければ、彼女の顔に浮かぶ不安の色が途端に消える。よく言えば純粋、悪く言えば単純だ。腕を支えて彼女を立たせた。少しだけ体重を預けるようにしているその姿勢が、彼女自身を表現しているようだ。

 彼女は、一人では生きられない女性だった。それは金銭的な問題もあったが、何より精神的なものが大きいのだ。誰かに依存しないと立っていられない。それを指し示すが如く、彼女の身体は平均的な女性と較べれば明らかにがりがりである。骨と皮で形成されているようなその見目は、どう贔屓してみても美しいと言えるものではなかった。


「ねえ、どうして唐突に、海に来ようなんて言ったの?」


 異様に大きく潤んだ眸が、甘えるように私を見る。舌っ足らずなその口調には無垢な信頼が表れているようだ。煌く眸は年齢にそぐわない、まるで何も世間を知らぬ純粋な少女のようだった。


「んー……そうだなあ。一回、夕陽が海に沈む光景を、生で見てみたかったからかも」

「それなら、もっと綺麗な海に来れば良かったのに。この海、ゴミが浮いているし、あんまり綺麗じゃないよ」

「うん、そうだね。ちょっと抜けていたかも」


 長く伸びた彼女の黒髪を撫でる。愛おしさが胸に詰まって死にそうだ。心地よさそうに目を閉じる彼女の首を見た。白く細く、筋が浮かび上がっているようなそれ。もしこの両手で掴んだのなら、簡単に折れてしまいそうである。

 ――彼女は、一人では生きられない女性だった。誰かに依存しないと立っていられない。けれど、依存している相手は、私ではない。ずっと私に頼りきりで、私の後をくっついてきた彼女だったのに。他の友人には目も向けず、ずっと、私を見ていたのに。

 結婚するの、と大切な秘密を打ち明けるように彼女が少しだけ気恥ずかしそうに声を潜めて言ったとき、その左手の薬指に光るものを見つけたとき。私は嫉妬に狂ってしまいそうだった。恋慕から来るものではない、嫉妬。私の居場所が奪われた、存在意義が奪われたと、そう思った。


「――結婚、おめでとう」


 呪詛のように、たった一言、吐き出した。


共依存、その果てに。
貴女に頼られることで、私の居場所を見出していた。

(フォロワーさんのイメージss。あいづきさんをイメージして書かせて頂きました)

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