- ナノ -


ねだって欲しがるなら奪ってあげるのに(三郎)


幼少の頃から、体調はあまり崩れるほうではなかった

その代わりというか、蓄積された疲労は一気に爆発するようで、崩れる時には一気に崩れる体質であった

意識は吹っ飛び、身体の全機能が停止する

これはそんな日のある一コマである








「お帰り願いましょうか」

「いいじゃないか、どうせまだ寝てるんだろう?」

「だから余計ですよ 安静にしておきたいんです 大体、先輩が入って事故なく静かに終わった覚えがありません」

「えー、でも本当に久しぶりだし 折角だから様子を…」

「そもそもアンタの診察は普段より委員長は断ってるでしょうが、善法寺先輩」


ゆっくりと、意識が浮上するのに合わせて聞こえた会話に鴇はぼんやりと周囲を見渡した

見慣れた自室であったが、障子の外の光は明るい

部屋で灯りもつけていないようなので、どうもまだ真昼間のようだ


(……………?)


何故自分はこんな昼時分から布団の中にいるのか

完全に寝過ごしたかと焦り、飛び起きようとしたが全く身体がついていかないことに鴇はその時初めて気が付いた

身体が重い

手足も嫌な熱を帯びている

仰向けの姿勢から、うつ伏せになって起き上がるかと寝返りを打とうとすれば、ズキンと鈍い痛みが頭部に走った


「いっ………!」

「駄目ですよ 寝てないと」


呻いて思わず頭部を抑えた鴇にそっと声が降ってくる

バサバサと水分の飛んだ髪の隙間から見上げれば、そこには見慣れた後輩の、鉢屋三郎の姿があった

普段から飄々とした表情が印象的な三郎の眉間には小さく皺が寄っており、なんとも言えない表情をしている

それを見た鴇は、初めて自分が何をやらかしたかを理解した


「……あー、その、」

「……………」

「……毎度毎度、すまん」

「謝る話ではありませんよ ただ、」

「鴇ー? ちょっと診察しようかと思うんだ、鴇…」

「少々お待ちを」


聞こえた声に眉を顰めた鴇の表情を見た三郎が、自分の判断が正しいことを確信したのか、今度はにこりと笑って鴇をゆっくりと布団に戻したのであった











「体調を崩されたのも、看病するのもいいんですけどね、委員長」


ぼんやりする視界で枕元を見やれば、整然とならぶそれぞれはある意味いつもの一式であった

手桶に手拭い

替えの衣類にそして鉢屋が部屋に常備している薬箱が広げられていて

ゴリゴリと薬を煎じながら三郎がひょいと鴇の顔を覗き込む


「倒れた時のこと、覚えてます?」

「…いや、全く…」

「ほんと、心臓に悪いので勘弁いただきたいものですよ」


鉢屋のお小言は至極もっともで、鴇が再度小さくすまないと呟けば、鉢屋は困ったようにそっと笑う

手桶の水に浸した手拭をきつく絞り、三郎は鴇の額の汗を拭った

もう随分長いことこうやっているが、一向に熱がおさまる気配がない


(…久しぶりと言えば、久しぶりだ)


鴇がこれほどの高熱を出したのは半年近く前のことであった

先ほどの伊作の言葉をもとに記憶を辿る

これは今朝のことである

週末のため、授業はないが委員会活動は逼迫していたため、開催すると聞いてたはずの鴇が来ない

はて、と思った三郎は、鴇の部屋を訪ねることにした

鴇が寝坊をするなんて今まで一度もないのだが、鴇だって人間だ

それを庄左ェ門達1年生に迎えに行かせて目の当たりにさせるなんて、鴇も望んじゃいないし、自分もそんな鴇の失態を誰かの目に映させるのはまっぴらごめんであった

自分の委員長はいつだって忍たま達の理想でいてほしいのだ

自分が尊敬して止まないこの人であれば、なおのこと


「委員長、すみません 起きておられますか?」


三郎はまずはそっと外から声をかけてみた

鴇はとても耳がいいし、覚醒するのも早い方だ

真夜中に急務が発生することも多いこの委員会に所属していれば自然とできるその体質に沿った訪問の仕方にしてみることにする

万が一鴇が寝過ごしていた場合は、これで十分起きると踏んだのだが


(……………?珍しい)


何も音も起きなければ、中で人が動く気配もない

ただ、中に人がいる気配はある

これは本当に珍しく寝坊だな、と三郎は踏んだ

まあ、連日授業に任務に委員会活動にと忙殺されるようなスケジュールが続いたのだ、無理もない


「失礼しますよ」


返事が返ってこないのは承知の上だったので三郎は静かに鴇の部屋の障子に手をかけた

どうやって起こそうか、どちらかと言えばそんなことを考えていたのだったが


「委員長、そろそろ………委員長!」


思わず大きな声をあげて、三郎は慌てて部屋に踏み入った

部屋の中は三郎の想定を大きく超えていた

文机の前で鴇が倒れている

寝落ちとかそんな段階の話ではないのは、鴇の崩れ方が妙であったからである

畳の上で蹲る鴇は羽織をとろうとしたのか、志半ばで力尽きたように手を伸ばしたままの状態で

眉を顰めて吐く息は荒い

駆け寄った三郎は、さっと脈を測り、額に掌をあてた


(…熱いな)


部屋に敷かれた布団は乱れておらず、机の横に立つ蝋燭もまだついていることからある程度の推測はたつ

鴇がよく自室で仕事を続けていることは知っていた

いつまでも委員会室に残っていれば、それを気にする自分たちがなかなか帰らないからだ

寝る前のもうひと頑張り中に意識が途絶えたのだろう

膝の裏と首の後ろに手を差し込み、抱き上げれば熱の高さがじわじわと伝導する

そのまま三郎は手慣れた様子で鴇を布団へと入れ、ペチペチと軽く鴇の頬を叩いた


「委員長、委員長」

「………………」

「……、鴇」


頬を叩いても起きない鴇に、三郎は役職名でなく、ゆっくりと名前を呼んだ


「鴇、鴇」


反応は継続してないが、三郎は辛抱強く名を呼んだ

頬を撫で、目元を撫でるように指を這わせば、うっすらと鴇の目が開いた

よし、と思いつつ慌てず三郎は静かに問う


「私がわかりますか?」

「……………」


しばらく見つめ合うような時間が続いたが、鴇は何も声を発さない

そのまままた目を閉じた鴇に三郎はこれは完全にアウトだなと小さく溜め息をついた

意識がどうのこうのというレベルでもない

言葉も発さず、眠りこける

そこまで疲弊してしまっているのだと確認がとれれば、もう手当の仕方なんか考えるまでもない

とりあえずは寝かせる、これしかない 

そう判断して、三郎は足早にその場を後にした








「おかえりー 三郎、鴇先輩は?」

「体調不良だな 今日は来られない」

「ありゃ、久しぶりだね」


委員会室に戻ってきた三郎へ、鴇の様子を聞いた勘右衛門がおや、と目を丸くした


「私はすぐ戻る 勘右衛門、あと任せていいか?」

「オッケーオッケー よろしくやっとくから、そっちは頼むよ」

「言われるまでもない」


ゴロゴロと寝そべっていた勘右衛門がそっかーと呟いて身を起こしたのとは反対に、話を聞いていた庄左ェ門と彦四郎が顔を青くして立ち上がる


「鴇先輩、病気なんですか?」

「何かお手伝いします!」

「ありがたいが…」

「いいのいいの、鴇先輩の看病は三郎がするって決まってるから」


何と言おうか口ごもる三郎の言葉を遮って、勘右衛門が軽い口調で言えば、庄左ェ門が睨むように勘右衛門の前に立つ

そんな勘右衛門の態度が軽薄だったのが庄左ェ門達には不愉快であったのだろう、小さく溜め息をついて間に入ろうかと考える三郎より先に庄左ェ門が言葉を発した


「尾浜先輩は鴇先輩が心配ではないのですか?」

「えー?心配だよ」

「でしたら、」

「そんで、鴇先輩の心配事はこの書類の束を明後日までに追えないと次の行事に穴が開くことかなぁ」


よっこいしょと傍らの書類の山を机の上に置いてにっこりと笑えば、その重量の音に庄左ェ門達がびくりと肩を震わせる


(先週もかなりの数の書類を先輩たちはこなしていたはずなのに、まだこんなにも残っているのか)


ぎょっとする庄左ェ門達とは別に、勘右衛門はひい、ふう、みいと書類の山の数を数える


「三郎、やる余裕ある?」

「ああ、ひと山くらいなら問題ない 後で取りに来るから避けておいてくれ」

「りょーかい」

「悪いな 庄左ェ門、彦四郎 また落ち着いたら連絡する」


鴇の机の上にあった委員会日誌を片手に掴み、いくつかの書類を手早く回収した三郎は、落ち着いた様子で部屋を出て行った

よろしくねーとヒラヒラ手を振って三郎の退室を見送った勘右衛門は、立ち尽くす庄左ェ門達にまあ座りなよと着席を促す

勘右衛門の意向を理解したのか、少しばかり気まずそうな庄左ェ門達に勘右衛門はにこりと笑った


「もう3年間、ずっと同じでさ」

「え?」

「鴇先輩がダウンしたら、三郎が看病するんだ」


積まれた書類の山を適当にばらしていきながら、勘右衛門は淡々と述べる

ぐーっと、大きく伸びをして、さてと、と勘右衛門が中央の席を陣取った

いつもはダラケて曲がった背中もしゃんと伸びて、書類に向かう姿勢はまるで鴇のようだ

じっと書類を数秒だけ見つめ、その後の筆を握る手は留まる所を忘れたかのように動き続ける


「三郎が看病するのが一番安心なんだよ 鴇先輩の体を一番理解してて、一番丁寧にやってくれる」


静かにきられたスタートを、庄左エ門は感じ取った

ようやく勘右衛門の先ほどの態度の意図を理解できて、庄左ェ門はそういこうとかと頬をかいた

要するに役割分担が決まっているという話だ

普段から鴇の身の回りのことを気に掛ける三郎が看病に徹し、2人の抜けた穴を勘右衛門が埋める、そういう体制らしい

安直に鴇が心配ではないのか、という発言は庄左エ門の安易な発想であったのだ


「…失礼なことを言って、すみませんでした。」

「ん?ああ、いいよいいよ」


俺はどうにも雑だからさぁと笑いながら、勘右衛門が次の書類に手を伸ばす

1枚、2枚、3枚と、あっという間に書類を仕上げていく勘右衛門は庄左ェ門達にはとても頼もしく見える


庄左ェ門にとって、勘右衛門はとても変わっていると思う先輩であった

いや、変わっているといえば三郎だってそうだが、そういう特殊な趣味の話ではない


「…尾浜先輩は、鴇先輩と鉢屋先輩がおられないと、真面目に仕事されますよね」

「しょ、庄左ェ門!」

「あはは、何それ」


聞き方によっては上から目線に思えるその発言に彦四郎が慌てて咎めるが、勘右衛門は怒るどころか、声をあげて笑った

庄左エ門のこのずばりと問うのも特徴的であるが、勘右衛門はそんな庄左エ門を頼もしく、また可愛い後輩だと思える性格である


「まあ、流石にね 鴇先輩も三郎もいなかったら俺がさぼってるのバレバレだからね それなりに頑張らないと」

「それなりに、ですか?」

「そう、それなりにー」

「…わかりました 僕達にも、仕事ください」


はい、どうぞーと比較的簡単な書類をもらって、庄左ェ門はちらりと勘右衛門を盗み見た

庄左ェ門は知っている

勘右衛門が「それなりに」や「適当に」と曖昧な表現をするときに限って、それがきっちりと為されることを


(この人は要するに"できる人"なのだ)


鴇達がいる時はめいいっぱい甘えてさぼってダラダラするのに、いなければきっちりと締めることのできる人なのだ

だから、何から着手しようかと迷うこともなく、息をするようにこうやって全然別の仕事を突然開始できる


(だから鉢屋先輩も何も心配されなかったんだろう)


これが5年い組の学級委員長と言われれば納得できる

普段がどれだけゆるくとも、この委員会に所属する上級生の忍たまなのだ

自分たちはどこまで食らいついていくことができるのだろう

そんなことを冷静に考えながら、庄左ェ門も新しい書類に筆を走らせるのであった









(…熱い)


ぼんやりと意識が浮上した鴇は、酷く喉が渇いていた

身体中に熱が籠り、朦朧とする

少し身じろいで、布団のどこかひやりとする部分がないかと探したが、何もかもが熱い

うだるような熱さに参っていた時、冷たい手拭が額の上にそっと置かれた

うっすらと目を開ければ、見慣れた後輩


「…はち、や」

「すみません、起こしましたか」


鉢屋三郎がこちらを見つめており、そして申し訳なさそうに呟いた


(むしろ迷惑をかけているのはこちらだというのに)


この後輩はいつでも自分に気を遣う

大丈夫、と呟こうとした鴇であったが、カラカラに乾いた喉に眉根を潜めた


「水、いりますか」


コクリと頷けば、鉢屋が枕元に用意していた吸飲みを手に取った

口に差し込んでもらって水を口に含めば、水分が身体中に染みわたるようであった

温くなった手拭を、手桶に浸して鉢屋がきゅっと絞る

再び目の上に冷えた手拭を置いてもらえば、ようやっと生きた心地がした



(…熱だけがやけに高いな)


鴇の額に置いた手拭を何度も変えながら、三郎はそっと眉を潜めた

微睡みながら鴇が荒い息を吐くのを見れば、熱に浮かされているのは容易に察せた

喉や鼻はやられていないようだが、熱だけがかなり高い

うだるような熱に侵されている鴇は意識が朦朧としているのだろう

言葉は発せず、ぐったりとしている


「辛いところ、申し訳ないんですが寝着を変えましょうか」


遠くから聞こえるような言葉に鴇が薄っすらと目を開き、また言葉もなく目を閉じた


「委員長、身体起こしますよ」

「……ん、」


シュルシュルと、寝着の帯を緩めてやれば、その音だけを頼りに鴇が上半身を脱ごうと身じろいだ

肩から布はずり落ちて、鴇の均整のとれた身体が露わになる

肌に冷たい空気が直で触って、一度ビクンと身体が跳ねたものの、熱のこもっていた鴇にとっては心地のよいものだったらしく、ほう、と感嘆の息を吐いた


(…なんつー、色気)


その様子を目の当たりにした三郎は、目の毒だ、と素直に思った

汗ばんだ身体も、上気した頬も、虚ろな流し目も、どれをとってもいろんな妄想を掻き立てる材料にしかならない

肌にペタリと張り付いた髪を手探りで纏めようとする鴇に、三郎は小さく溜息をついた


「…手間かけてすまんな」

「え?あ、ああ、すみません そういうため息じゃないです」


少し意識が戻った鴇が、申し訳なさそうに呟いた言葉に三郎は慌てて否定した

それが本音かどうかなんてのは、鴇と三郎の間では声色だけで判断がつく

三郎が本当に手間だと思ってないというのは鴇にも伝わったらしい、それなら何だ、とぼんやりと三郎を見つめる鴇に、三郎は気まずそうにガリガリと髪をかいた


「見つけたのが私で良かったですね、という話ですよ」

「なー…、いつもありがとな」

「わかってるんだか、わかってないんだか」


へにゃりと鴇が、あまりにも無防備に笑うものだから、三郎は少しむっとして鴇の肩を軽く押した

ぼすん、と布団に戻された鴇が何か文句を言ってくるだろうと思っていたが、その姿を目の当たりにした三郎は、再び天を仰いだ


(私は馬鹿か)


布団の上に広がった髪も、着崩れて露出しているその様も、じわりと汗の浮いたその肌も、何もかもが誘い込むような要因にしかならない

これでは、いかにも


「…なんだ?したい感じか?」

「違います!」


心中をずばりと言い当てられ、脊髄反射のように三郎は鴇の言葉を否定した

完全に不意打ちをくらったせいか、上擦った声から動揺が駄々洩れの状態だ

チッ、と舌を打った三郎に、鴇が小さく笑った


「治ったらいいよ 手間賃代わりになるなら、安いもんさ」

「…貴方、普段はあんだけ頑なに手を出してくれないのに、こういう時だけえらく緩いの何なんですか」

「取引みたいなのは、好きじゃないだけ」


素肌に布団が思ったよりも気持ちよかったのか、鴇が目を瞑ったまま、伸びをした

着崩れたそれが、さらに乱れるのを見て、三郎はもう1度大きく溜息をついて、今度は躊躇なく鴇の胸元へと手を伸ばした


「ほら、そんなことを言う元気があるなら、身体起こしてください」

「力は入らん」

「…まったく、口ばかりよくまわる」


グチグチと説教じみてきた三郎の肩を借り、クスクスと鴇が笑えば、三郎もふは、と気の抜けた声で笑った

力の抜けた鴇の身体を抱えるように、三郎が背中から汗をぬぐう

首へと絡められた腕と、やはりどこか荒い鴇の吐息が耳元で吐かれるが、今度は三郎も慣れたものであった


「…毎度、すまんな」

「役得と思ってるんで構わないですよ」

「…それ、いつもよくわからんよ これのどこが役得なのだか」


汗をぬぐい、髪を軽く結わえて今度は前を拭くぞと鴇に言えば、絡められた腕がゆっくりと離れていく

ふらふらしている鴇の背の方へのまわり、今度は寄っかかるように腕を引けば、今度も抵抗なく自分の腕のなかへと鴇が背を預けてきた


「貴方にこうして頼ってもらえるのは、気分がいい」

「…割に合わんと思うんだがね、保健室に放り込んだら楽だろうに」

「嫌いでしょ 保健室」

「そりゃあ、気心しれてるお前に診てもらう方が、私は随分楽だよ」


新しい寝着へと着替えさせれば、また眠気が襲ってきたのか鴇がうつらうつらとしている


「小難しいことを考えるのはもうよして、もう1回寝たらいいんですよ」

「……そうす、る」


すり、と人肌を恋しがるように三郎の首元に頬を寄せた鴇に三郎は小さく笑った

普段、あれだけ人との距離を意識する鴇が、ここまで無防備に甘えてくるのがこういう半分意識が飛びかけてるくらいであるというのを三郎はよく知っていた

今なら恋人つなぎのように指を絡めてくれることも、腕のなかに深く抱き込んでも全部受け入れてくれる

そして、それは本当に気心のしれた自分と特定の人間にだけ許されるものだということも三郎はよく知っていた


「私が、よくできた後輩でよかったですね」


それらのどれもせず、鴇を布団に寝かしつけた自分を三郎は褒めてやりたいといつも思う

それは自制心の賜物か、はたまた臆病がゆえの慎重さか

別にどれだって構いやしないのだが、こうやって安心しきった表情で眠る鴇を見ていれば、どれでもいいやと思ってしまう自分は阿呆なのだ

この人の世話を焼くのが、楽しくて仕方がない

一方的な依存関係ではなく、ほどよく互いの真意も読める状態でのやりとりが、心地よくてたまらない

体調を崩していること自体は心配だが、この状態が来るたびに、自分は鴇を占有できるという喜びが付きまとう


(困ったものだ)


さて、夜食は何にしようか

鴇の好きな梅粥か、それともさらりと茶粥と塩こぶにでもしようか

そんなことを考えながら、三郎は口元を緩ませるのであった




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