- ナノ -


01


◎はじめに

この作品は、アニメ忍たま乱太郎「五年生VS六年生」から派生した小話です

一部ネタバレ含まれていますので、困るという方はこちらよりお引き返しください

一部台詞の変更等をしています(一人称や当サイトでのキャラの口調などに合わせるため)

色々いじってますので、あまり本編との違いを気にせず楽しんでいただけたらと思います

五年生と六年生の対抗戦とか、あまり書く機会がないので完全娯楽でお楽しみください











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その日、1のはトリオは悔しい思いでいっぱいであった

今までもあったことではあるが、最近2年生の嫌がらせが酷い

暴力や虐めのソレとは違うが、自分たちへの絡み方が日に日に悪くなっているのだ

先ほども摂津のきり丸は大好きな銭を餌に、まんまといっぱい食わされたところである

一言ビシッと言わねば、これはいつまでも続くであろう

そう思って、同級生の猪名寺乱太郎、福富しんべえと共に立ち上がってみたが、結果は散々であった

ろくに言い返せなかった自分達を二年生たちは笑いながら去っていった

まあ、自分たちの普段からの緩さが影響しているのは間違いないが、それだけで納得できるほどの鬱憤ではない

この怒り、どこに向けたものかと暴れていれば、そこに通りすがったのは五年生の竹谷八左ヱ門であった


「なるほど、それで2年生に怒っていたのか」

「そうなんです!」

「2年生の先輩ったら、いつでも私達のことをからかうんですっ!!」

「わかるわかる」


それから数十分

じっと自分たちの話を聞いてくれる竹谷八左ヱ門に甘えていろいろと愚痴っていた乱太郎達であったが、八左ヱ門のその一言に引っかかった

そして、そこを追求する必要があったかと言われればなかったのだが、どうにもこの鬱憤がそれを許してくれないらしい

ふむふむと頷く八左ヱ門の言葉を遮って、乱太郎達はジロリと八左ヱ門を睨みつけた


「竹谷先輩」

「ん?」

「慰めはやめてください」

「へ?」

「優秀な五年生に1つ上の先輩に馬鹿にされる私達の気持ちなんて、わかるはずありません」


たしかに愚痴ったのはこちらの都合だが、適当な慰めが欲しいわけではない

ましてや、竹谷八左ヱ門は五年生

今年の五年生と言えば全体的に模範的で優秀な学年である

そんな先輩が、1つ上の先輩に苛められる自分達を理解できるはずがないのだ

頬を膨らませてそう告げた自分達に、八左ヱ門は意外な言葉を返してきた


「わかるよ…」


だからそんな口先だけの同意なんて、と反論しようとした乱太郎は、八左ヱ門が思っていた以上に神妙な表情をしていたのに驚いた

八左ヱ門はどこか遠くを見つめ、物憂げな溜め息までついていたのだ


「もしかして…五年生も1つ上の先輩に酷い目に…?」

「合っている」

「五年生の1つ上の先輩ってことは…?」


乱太郎達はあまり上級生同士の絡み合いに遭遇したことはないが、脳裏を過ぎった「1つ上の先輩」に乱太郎達はあ、と声をあげた

五年生同士は仲がよく、いつも一緒にいるイメージがあるのに対し、六年生達は個のインパクトが凄いのを思い出した

誰にやられるのですか、と聞こうとした乱太郎達であったが、ぶっちゃけ誰にやられてもおかしくはなさそうだ

今年の六年生達はそれこそ優秀で腕もピカイチだが、如何せん個性が強すぎる

学園で大きな騒動が起きると、大概は六年生が絡んでいるくらいだ

悪気はないのかもしれないが、それが一層タチが悪い


「こないだも、生物委員会と火薬委員会の予算を増やしてもらおうと、兵助と一緒に潮江先輩の部屋に行ったんだが」


これは聞いたら怖い話では、と聞くことに躊躇した乱太郎達の予想を飛び越えて、八左ヱ門の方が先に口火を切った

こうなってしまえば、今度はこちらが聞き役に徹しなければいけない

大人しく乱太郎達は話の行方に耳を傾けることにした


「潮江先輩と立花先輩がずっと作法委員会の予算の話をされていてさ…俺と兵助の話を全っ然聞いてくれなかったんだ…!」

「本当、あの時は参ったよ」

「わかるわかる」

「そういうことあるよな」


八左ヱ門の話が終わる頃、一体いつから話を聞いていたのか

気が付けば五年生の久々知兵助、不破雷蔵、鉢屋三郎と五年生が勢ぞろいしていた

乱太郎達が驚くのもそこそこに、皆一様に八左ヱ門の話に大きく頷いていることに一年生達は気づいた

これは思っているよりも根深い話なのではないか、少しの好奇心に動かされ、しんべえが他にも困っていることがあるのかと問えば、意外なことに一番大人しそうな不破雷蔵から愚痴りだした


「この間なんて、七松先輩が図書室で派手にすっころんで散らかしてね…」

「あー… ありましたねぇ」

「丁度委員会で大掃除をした後だったから、中在家先輩が酷くご立腹で、図書室が滅茶苦茶になって困ったよ…」

「中在家先輩は時々大噴火を起こすなぁ」

「普段溜め込んでるから余計だよね」

「私はこの前、七松先輩に追いかけまわされた」


雷蔵の話は展開が容易に想像できたものの、続いて放り込んできた三郎の話の出だしが強烈で他の五年生達がぎょっとした表情で三郎に問うた

ちょっと待て、コイツ今何言ったという反応である


「何それ、三郎また何かやらかしたのか?」

「どうせまた嘉神先輩絡みで七松先輩に喧嘩売ったんだろう」

「酷く心外な言われようだ 何だって私が悪さをした前提なんだ」

「お前の場合は、そういうことが多いからだよ」

「この間のは違う」


散々な言われように口を尖らした三郎が、先日のことを話しだした



それは唐突であった

道端でばったり会った七松小平太が、突然三郎に言ったのだ

「お前の本当の顔を見せろ」と

何を、と三郎が反論するより先に、小平太は三郎の面を剥がそうとその大きな掌をいきなり突き出してきたのだ


「追いまわされるは、何十枚と顔の面は剥がし続けるは、ほんと、大変だったんだぞ」

「ってか、お前何枚重ねてるんだよ」

「そこは企業秘密だ」

「その唐突な会話の前に何かあったんじゃないのか、それ」

「そんなのは知らないし、知りたくもないね」


いつもであれば、三郎と小平太はすれ違っても最低限度のことしかしない

話しかけることもなければ、視線だってほとんど合わせないようにしている

ややこしいのは御免だし、互いに馬が合わないことは認識しているからだ

まあ、もしかしたらと思うのは、小平太と会った場所が、鴇の部屋に続く六年長屋の廊下であったことぐらいだろうか

さっさとすれ違おうとした三郎に対し、小平太が何やらじっと三郎の顔を見ての一言だ

もしかしたら鴇が絡んでいるのかもしれないが、三郎は鴇にはこのことを言っていない

あの後、追いつかれて好き放題されたのも屈辱であったし、その勢いに尻込みした自分の情けない姿を何も自分から鴇に曝け出す必要なんてこれっぽっちもないからだ

結局、かなりの面は奪われたが何とか逃げ出せたのだ

あちらは満足いってないかもしれないが、結果としては自分の勝ちだ

(そう思いでもしないと、やってられん)

「それ、俺から鴇先輩に言っといたから」


思い出しただけでもムカムカすると思っていれば、ひょっこりと後ろから現れた勘右衛門の言葉に三郎は驚愕した

コイツの現れ方はいつも唐突だが、発言もかなり度肝を抜かれる

今、勘右衛門は何と言ったのか


「はぁっ!?委員長に言いつけたのか!?」

「告げ口みたいに言うなよ どえらいことになってたから心配したんじゃん」

「っ…で、い、委員長は?」

「後でシメとくって」

「えー、鴇先輩、助けに行ってくださらなかったんですか?」

「『鉢屋なら小平太を撒くくらいはできるだろうから、そこは心配してない』って」


その評価は良いのか悪いのか、勘右衛門から聞いた鴇の言葉に三郎は眉を潜めた

助けに来てほしかったような、見られなくてよかったような

悶々としていれば、勘右衛門も愚痴りたいことがあったらしい

俺も話したい!と先日は、不運コンビの六のはに偉い目に合わされたことを話しだした

その後も五年生達の会話のボルテージは上がり続けた

声はでかくなり、少々の暴言が目立ってくる


「大体、六年生の方々は俺たちの話を全然聞こうとしない!」

「「そうだ!!」」

「1つ下の学年は、自分達の言いなりになると思っている!」

「「そうだそうだ!!」」

「尻拭いはいつも僕たちだ」

「「全くだ!」」

「いつまでたっても子ども扱いして」

「それは鴇先輩限定じゃないのか?」

「お前、それが好きでいつも嬉しそうにしてんじゃん」

「わ、私は別に…」

「〜っ、もう我慢できない、六年生が何だ!!」

「俺たち六年生が何だって?」


頭に血が上っていたからだろうか、何の前触れもなく混じった声にはっと我に返れば、全てが遅かった

振り返れば六年生達が勢ぞろいしてコチラをじっと見ているではないか


「せ、先輩方 どうしてここに?」

「今実習から戻ったところなんだけど」

「それよりお前達、面白い話をしていたようだが」

「……どういうことだ」


どうもガッツリと聞かれてしまったらしい

普段、あまり絡んでくることのない長次までが、眉間に皺を寄せて問うてくるのに雷蔵は思わず目を逸らした

そこまで酷い愚痴は言ってないが、気分は害してしまったかもしれない


「六年生にはもう我慢できんとか何とか?」

「そうか、俺たちと勝負したいようだな」

「いっちょやるか」

「面白そうだ!私も乗った!」


今の流れでどうしてそうなるのかはわからないが、何故か勝負することにまで勝手に進む六年生達に五年生達がぎょっとする

面白半分、そしてやはり気分は良くなかったのだろう

手加減なしだと言った潮江文次郎の目がかなり真剣なのはそういうことだし、好戦的な相手に喧嘩を売ったのはこちら側なのだろう

もうこれは全力で逃げるしかないかと五年生達が唾を飲み込んだ時である


「五年生と六年生の勝負か、面白そうじゃな!」


通りすがった学園長がまた悪ノリを始めたのを目の当たりにして、もう駄目だと退路を断たれたことを理解した








「駄目です!」

「大体、他の生徒達の迷惑になります」

「不要な勝負はやるべきではありません!」

「全くです」

「構わん、許す!」

「だからっ…!」


騒ぎを聞きつけたのだろう、慌ててやってきた土井半助と山田伝蔵が必死に学園長に制止をかけるが、学園長は聞く耳もたずだ

ただでさえ、授業が遅れがちなのだ

また祭りのように派手なことをされては、全体進捗に影響が当たり前のようにでるだろう

同じやりとりを何度しようと強行開催をしようとする学園長に溜め息をついて、半助は後ろを振り返った

こうなったら奥の手だ


「鴇、お前からも学園長に…、あれ?鴇はどこだ?」

「ふっふーん、鴇にはお使いを頼んだ 戻るのは夕方じゃ」

「「えっ!!」」


実習帰りの六年生の集団のなかに、目当てであった忍たまがいないことに半助達が気付いた時には手遅れであった

嘉神鴇

学級委員長委員会委員長である彼であれば、自分達よりも学園長に近く、何より学園長は鴇の言うことであれば一応耳は傾ける

それほどまでに密着した関係なのである

また、嘉神鴇は学園の秩序にはかなり気を遣う男であった

それは自身の立場から言えばごく自然であるし、何より鴇は普段から学園長に振り回される犠牲者代表みたいなところがあったからだ

四年生の頃は何とか必死に学園長の言うことを守ろうとしていた鴇が、月日がたつにつれ、それは学園長の道楽ではないのかと疑問を持ち出した

気付いてからの鴇は行動が早く、それが学園の、それも生徒達に被害がでるようなものであれば学園長に正面から抵抗する忍たまになった

最近では学園長の思い付きの無茶なイベントを鴇が半分くらいは却下している

一部の者たちはそれを知っているのだ

学園長は、鴇のド正論に勝てないということを

その鴇が不在だと言う

困った時の鴇頼みとはこのことか、先ほどから必死に鴇を視線で探していた三郎と勘右衛門も学園長の一言に思わず声を出して驚いたのである


「実習の立て続けに行かせたんですか!?」

「学園長!そんなことばかりしてたら、そのうち鴇先輩もキレるんですからね!」

「やかましい とにかくやるったらやるんじゃ!」


キーキーと鴇に言いつけてやると言わんばかりの三郎と勘右衛門を学園長が一蹴する

この2人、顧問である自分よりも鴇の方を信頼しているきらいがあるのは少々気に食わないが、それほど鴇は信頼を得ているのだろう

どうせ鴇が帰ってきたら早々に止められるのは目に見えているのだ、適当に半助たちもあしらって、大川平次は声高らかに宣言した

「今回の勝負の方法は、宝探しじゃ!」と













時は夕暮れ

学園長のお使い帰りの鴇は少々苛立っていた


「おや、嘉神君 おかえりなさい」

「どうも、入門票 いただけますか?」


少し疲れた表情でそう言った鴇に、小松田秀作もはい、と書類を渡す

サラサラと筆を走らす鴇は思ったよりも荷物が多かった

ただ、恐らく自身の荷物はほとんどないのだろう

それは持って帰ってきた荷物の端々から感じ取れる


「運ぶの手伝おうか?」

「いえいえ、全部学園長先生に頼まれたものなので、報告がてら持っていきますよ」

「そうなの?あ、嘉神君をずっと待ってる子がいてね」

「?はあ、」


今日はいい加減ゆっくり休みたいんだが、と思っていた鴇は小さく溜め息をついた

体力的な疲労は正直あまりない、ただ愚痴りたいくらいには納得のいかないおつかい内容ではあったのだ

そんな少々憂鬱な気持ちで脇戸を潜り抜けて学園へと入った鴇であったが、事務室の窓からひょっこり顔を覗かせた2人に思わず頬が緩んだ


「鴇先輩」

「おかえりなさいです」

「やあ、どうした 今福、黒木」


待ち人というのは可愛い後輩であったようだ

とりあえず荷物を事務室の中に入れ、庄左ェ門が淹れてくれた茶を前に、鴇は首を傾げて尋ねた

よく見てみれば、自分の帰還を確認できて安堵しているようだが、その一方で外の様子を気にしているのか少しソワソワしている


「?何かあったか? 今日は鉢屋も尾浜もいるだろう?」

「あの、それがその…」

「お疲れのところ、とっても心苦しいんですけれど」

「そんなのはいい どうした、何か問題が起きてるのか」


言葉に詰まる彦四郎の頭を撫で、こういう時でも手短に話せる庄左ェ門に問えば、実は、と経緯が説明される

淡々と話はするものの、庄左ェ門もどうしたものかと困っているのだろう 少々の気まずさが滲み出てる


「わかった」


それから数分、庄左ェ門の話を聞いた鴇がコクリと頷いて立ち上がる

ガシガシと髪を掻いて小さく息を吐いた鴇であったが、申し訳なさそうに自分を見る2人の視線に気付いて小さく笑った

庄左ェ門も彦四郎も、鴇が苛立っているのがわかるのだろう

何か手伝えることは、と小さな声で尋ねてきたのに鴇が再度笑った


「大丈夫 これが仕事だから」


ついておいで、と振り返った鴇に庄左ェ門も彦四郎も苦笑いを浮かべながら後を追うのであった





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