- ナノ -


04


ポツリと薄暗い部屋の中、三郎が消え入りそうな小さな声で尋ねた

何と聞くのが正しいか、そんなことは此処にくるまでの間何十回と考えたが無駄だと思った

どう聞いたとて、鴇が失言することはない

そんなのは嫌になるくらい知っていたからである


「…薬は、飲みましたか」

「ああ、ありがとな」


何の、と言わないのがせめてもの気遣いであった

ただ、これを聞かないことには次の手も打てないのは確かであった

三郎の質問に対して、鴇が隠し立てをせずに答えたことに三郎は少し拍子抜けをして、

そして眉を顰めた

鴇にとってこの問いは、想定内であったのだろう

もう少し突き詰めれば、動揺のひとつも誘えなかったし、誘おうという意図が自分のなかで見え隠れしたからだ


「嫌な、やつですね 私」

「はは、何だ それ」

「……………」

「…隠せるなんて思ってないから、戻ってきたんだよ」


自己嫌悪に陥った三郎に、気にするなとばかりに鴇が笑う

その鴇の言葉に、三郎は項垂れていた頭をあげた

じわりと額に汗を滲ませた鴇が、天井をぼんやりと見つめて呟いた


「仙蔵には、戻るなと言われたさ」

「……そうですよ そんな調子で、戻ってくるとは思ってませんでした」

「…だって、それでもお前待つだろ」


そっと目を伏せて、鴇が静かに笑った

その一言に、三郎の身体の中がカッと熱くなった

自分の行動は、見透かされている

鴇の言うとおり、戻ってこない確率の方がはるかに高いと知っていながらこの足は自然とこの部屋に向かって

明らかに誰もいない部屋の前で、鴇に会えないことに踏ん切りがつかずに立ち尽くしていた自分

自室に帰ろうと言い聞かせるように思ったとて、すぐに気持ちが切替えれてたなんて到底思えなかっただろう

それは事実だ、事実なのだが、


(結局、)


結局のところ、鴇は自身の体調よりも三郎を心配して戻ってきたのだ

三郎は鴇が今回強力な媚薬を飲まされたことも知っているし、その欲を立花仙蔵が一手に引き受けたことも知っている

薬物系の治療であれば真っ先に頼られる自分でなく、立花仙蔵のもとへと姿を消したのは解毒とは違う中和の仕方を鴇が選択したからである

ただそれは、鴇の口から語られたものではない

本来であれば、そんなこと、おいそれと知られたくないだろう

自分が同じ立場にあったとしても、同じだ

それがどんなに親しい間柄の人であっても、いや親しい間柄だからこそというものがある

そんなのは十分すぎるくらい理解している

それでも、だ


「わたし、は」


どろり、と何かが胸の、いや腹の奥で込み上げた

モヤモヤする、というのは少し違う

どこか胸やけのするような、吐きたくても吐けないような言葉にできない感情が自分のなかで渦巻いた

また少し、ぶり返してきたらしい鴇の両脇に手をついて、三郎は真上から鴇に覆いかぶさるように覗き込んだ

鴇は自分の上に降りかかってきた三郎の影に気付いたのだろう

重たそうな目蓋を開けて、ぼんやりと三郎を見つめ返す

浅く、早く繰り返す呼吸を、鴇が意識して深い呼吸へと切り替える

その熱の塊に触れたくて、三郎がそっと鴇の頬に手を伸ばせば、ビクリと一瞬だけ身体を震わせた鴇が真っ直ぐに三郎を見据えた


「やめろ 鉢屋」


それは明確な制止であった

そして綺麗に引かれた線の上に成り立つ拒絶でもあった

それがまたどうしようもなく腹立たしくて、どうしようもなく胸が痛くて

三郎は吐き出すように答えた


「腸が、煮えくり返りそうだ」


そのままズルズルと、三郎は鴇の頭を抱えるように抱き込んで、首元に顔を埋めた

ビクビクと、鴇の身体が何度か跳ねたのは気づいていた

しかし、それをどうこう言うつもりはなかったし、本来はそうならないよう気遣うべきであることを三郎は理解していたが全て無視した


「……何?お前、私の理性のタガを外しにきたのか?」

「そんなつもりはなかった」

「…そうだろ?だから、戻ってきたんだ」


ポンポンと、覆いかぶさった三郎の背に手を回して鴇が軽く背を叩いた

少し身じろげば鴇の呼吸が一度止まるように息をのむ

その一つ一つは鴇が理性と戦うために気を張っている証拠であった

掌ひとつ、指先ひとつ、三郎が鴇に触れれば、鴇の身体が反応しているのは明らかであった

額に滲む汗も、上気した頬も全て物語る

ただ、それでも鴇は平然と笑う

目の前にそれを発散させられる相手がいるというのに、だ

それが酷くもどかしくて、酷く腹立たしい


「…私は、貴方を軽蔑したりなんかしないし、棚ボタ的な展開だって期待してるわけじゃない」

「…ああ、知ってるよ」

「でも、貴方が苦しいのであれば、その捌け口にしてくれたっていいのにと思う」

「……………」

「委員長、何故私では駄目なのですか」


ぎゅっと眉根を寄せて、真正面から三郎は問うた

鴇はいつもそうだ

自分ばかりが彼に救われている気がする

それは柔らかな言葉であったり、苛烈な視線でだけであったり、一掬いの体温であったり

何でもいい、いや何もかもだ

欲しい時にくれるソレらは、三郎にとってどうしようもなく嬉しいもので、救いの光であるのだ

自分はもらっている、それら全てを


(じゃあ、この人は?)


鴇が滅多なことでは弱音を吐かないことは知っている

一方で、自分のように気心の知れた相手にだけ零す表現がある

くだけた口調、声をあげて笑う姿、無防備な寝顔

自分はそのどれもを頻繁に目にしている

気心を許してもらっている

遠慮のない表現は、素直に嬉しい

時折感じる優越感のようなものは確かにあって、それは自分に対する信頼に他ならない

それでも鴇はそれ以上をあまり見せてくれない

特にこういった、人間のなかのドロドロした部分はなおのことである


「私だって、それなりに相手できると思ってます」

「…よせよせ、外れクジを引く必要はないだろう」


真剣に申し出たつもりの自分の言葉を、鴇が小さく笑った

なんてことはない、どれだけ言葉が柔らかくとも申し出は却下され、やんわりと拒否をされている

それがどうにも納得できなくて、三郎は改めて申し出た


「収まっていないのなんか、委員長自身が一番わかってるでしょう」

「そうだよ だから煽るな」

「だからっ、何故私では駄目なのです」

「困らせないでくれ …認識してるとおり、体調がよくない」


苛立つ自分の言葉に困ったようにそっと眉を顰めながらも、鴇は寝る、と呟いた

取り合わないことを決めた鴇の態度にカッと頭に血がのぼる

布団を肩まで引き上げようと身じろいだ鴇の肩を押さえつけて三郎は無理やり唇を重ねた


「はちっ…や、」

「五月蠅い」


目を見開いて、そしてぎゅっと今度は明らかに顔を顰めた鴇の言葉を三郎は無視した

条件反射のように押し返された鴇の手首を掴んで、再び押し倒すように覆いかぶさって唇を重ねた


(熱い、)


開いた唇の隙間からぬるりと舌を潜り込ませれば、鴇がビクンとまた跳ねた

絡む舌も、手繰り寄せるように包んだ首から頬にかけての肌も、どれもがかなりの熱をもっていた

くちゃり、と角度を変えて再び口内を舌で探れば、鴇から熱い吐息が漏れた

自分が調合した解毒剤は効いてなくはないのだろうが、それでも通常の鴇の体温よりも大分高い

そして肌を撫でるように触れる度に鴇が小さく痙攣することから見ても、媚薬の効能は続いていることが明確であった

やはり、無理やりにでも発散させた方がいいと判断した三郎は、手を鴇の下肢に伸ばそうとした

その時である


「…………っ!!」


ガリっと口内に激痛が走り、思わず三郎は仰け反った

その隙を逃さず、三郎の腕を鴇が思い切り掴み、身体の上下があっという間に入れ替わる

結構な力で叩きつけられるように布団に押し付けられて、その上から力任せに鴇が乗った

ぐうっ、と唸り声をあげた三郎が目にしたのは、肩で息をしながら自分を睨みつける鴇の姿であった


「なに、するんですか」

「それはこっちの台詞だ 阿呆が」

「…絶対舌切れた、これ」

「噛みちぎらなかっただけ感謝しろ」

「……そんな状態で、どうしろってんですか」


額に浮かぶ汗と、熱を孕んだ目、乱れた呼吸も何もかも、鴇が発情状態にあることが手に取るようにわかる

それを指摘しても、鴇は三郎を拘束する手の力を緩めなかった


「言ったはずだ 煽るなと」

「私も言いました 私を捌け口にしてくれたらいいと」

「お前に手をだすつもりはない どれだけそれが、必要な申し出であったとしてもだ」


改めて告げられた言葉に、今度は三郎が眉根をぎゅっと寄せて鴇を睨みつけた


「私では役不足だと」

「違う そうじゃない」

「では、何故 戻ってきたのです」


吠えるように吐いたつもりの言葉が、最後は変に裏返った

それに驚いた三郎がひくりと喉を引き攣らせた

それでも、言葉は止まらない


「私ができることをしようと思った だから薬を煎じて、届けてもらった」

「…そうだな ありがとう」


ギリギリの表面張力で堪えていたソレが、決壊した気がした

鴇の体調が悪いことなって十分に承知していて、ややこしいことは言うまいと思っていた自分はどこかへと飛ばされるように消えた

これだけ自分が悶々と悩んでいるのに鴇がそれを淡々と返していくソレが、

どうしようもなく腹がたった


「今日は、会えないと先輩方にも釘を刺された そんなのはわかってましたよ」

「…私も、仙蔵に戻らない方がいいと言われたよ」

「だったら!何故戻ってきたのです こんなの、」


ぼろり、と大粒の涙が自分の目から零れ落ちた

じわじわと来たソレではなく、はじけ飛ぶように零れたソレを、どこか他人事のように三郎は見ていた

感情の昂ぶりが抑えきれない

裏返った声も、ひくつく喉も、この涙も止め方がわからなかった


「こんなの、どうしたらいいかわからない」


期待した、という言葉は少し違う気がした

三郎は何も鴇と身体を交えたいわけではない

肉欲的な快楽が欲しいわけではない

別にそういったことを一切したことがないわけではなかった

片手で数えれるだけ、本当に必要であった時に鴇とはそれを行っている

そのどれもが、三郎から鴇に頼んだもので、鴇が拒んだことはない

苦痛や嫌悪感などと言ったマイナスのものは何もなく、ただただ馬鹿みたいに幸せで、どこまでいっても充足した時間であったのは確かである

恥も外聞も全て捨てた

伸ばした手も重ねた肌も、クラクラするような熱量だったのを覚えている

鴇は優しい

一方で、とても残酷だ

鴇は三郎にこの手を好きなだけ伸ばさせてくれるのに、鴇はそれを三郎にしてくれない

本当に頼みにくいであろうことであれば猶更

それが鴇の優しさが故なのかもしれないが、それは酷く三郎に鈍く、深く突き刺さる


(私がいなくとも、何とかなると言われてるようで)


ボロボロと、どこから生まれてくるのかと言いたくなるくらい次から次へと涙が零れ出た

怒りや憤りといった感情ではなかった

ただひたすら、悲しいと思った

ぽっかりと穴があくような虚しさで、腹の奥が空っぽの感覚

応えてもらえない虚しさが、三郎を縛るように取り囲む


「…泣くな 鉢屋」


きつく縫い止めるように掴まれていた腕が解放され、鴇の親指の腹が三郎の目元をゆるりと拭った

鴇は戸惑った様子はなかったが、相変わらず困ったような表情をしていた

そう、鴇は三郎が泣いたところで驚きはしない

想定内、ということなのか

どれだけ自分が鴇の本心を聞きたいと思っても、こうやって落ち着いて見つめ返されるうちはきっとダメなのだ

それがまた悲しくて、三郎は静かに泣いた


「納得してくれとは言わない けれど、理解してくれ 私はこの件でお前を捌け口にするつもりは一切ない」

「……………」

「これは私の矜持の話だ お前をこんな形で巻き込みたくない」

「…私では、満足させられないから」

「違うと言っている」


ぐしゃりと髪を乱して、鴇は小さく溜め息をついた

少しだけ、鴇は目を瞑って、そして三郎の耳の横に手をついて顔を寄せた

先ほどのゴタゴタで髪紐がほどけてしまっていたらしい

鴇の灰色の髪が、帳のように三郎の周りを囲って

囲炉裏の火でキラキラと暗い室内で輝いていた


「言葉は選ばん 適当に流せ」

「……?」

「別に、発散するだけなら、好きに抱きつぶせる 見知らぬ奴よりはお前がいい」

「い、」

「簡単に欲情するこの状態をお前は薬に呑まれていると思うのだろうが、なめるなよ これくらいの状態なら別段問題ない」

「で、も」


自分に跨る鴇の下肢の反応を、チラリと見た三郎に鴇が気が付いた

言いたいことはわかるらしい、生理現象のそれを否定するつもりはないらしいが、鴇がそこを見るなとばかりに三郎の額を押し返した

                                            
「言葉にさせるお前もなかなか容赦がない それでも私はお前に手を出さんよ これは私の意地の話だ」


大きな鴇の掌が、ゆっくりと三郎の頬に添えられる

先ほどまでの荒々しさは微塵もなく、心地のよいいつもの鴇の触れ方である


「いい加減、気付けよ これだけお前にお膳立てしてもらっているのに、手を出さない理由を」

「………い、んちょ……」

「仙蔵に助けてもらった分、お前に苦痛を味わせるような抱き方にもならんだろうよ それくらいは自制も効いてるし、私にもそれなりの腕はある」

「…………」

「でもこれは違う これを契機に、お前に手を出すような衝動に、私が流されたくない」


怒ったような、目が笑っていない鴇の顔がゆっくりと近づいてきて、三郎は思わず目を瞑った

鴇が三郎の頭を抱えるように抱きしめてくる

耳元のすぐ傍で、鴇が呼吸をする音が聞こえる

馬鹿みたいに自分の心臓が跳ね上がる


「頼むから煽るな 私の前にお前をそんなに簡単に差し出すな 私だって人間だ 欲なんて腐るほどもっている」


閨の中でしか聞けないような、熱のある言葉が鼓膜を震わせる


「何で戻ってきたかと聞いたな そんなの決まってる、お前に会いたかったからだよ 馬鹿鉢屋」


我を忘れるくらいの衝動のままに仙蔵と交わった

意識が戻った時に襲ったのは酷い自責の念と自分への失望であった

仙蔵の身体に残った青黒い痣は、きっと自分が加減なく彼を蹂躙したことによるものだろう

仙蔵はそれを見せぬようにしてくれたが、そんな気遣いをさせるほど、自分は酷い有様だったのだろう

結局のところ、自分は簡単に獣になり得るのだと思い知らされた

理性がとんだ

それも記憶がないほどに、あれだけの痣を人に残すくらいに

それは鴇なりにショックな出来事であった

自分はそうならないとどこかで高を括っていた、それがあのざまである

もっと穏やかに鎮めたかった

「人としての矜持」

その一言に尽きたが、その一言が譲りたくないものであった

だから、


「お前と過ごす時間が好きだ 人らしく言葉を交えて、私らしく振る舞える」

「……………」

「それをお前が力任せに崩しにこないでくれよ 私に、お前の意志を確認させるだけの時間を頂戴」


三郎をここまで追い詰めたのもまた、自分の態度である

そして仙蔵が危惧したのも恐らくこういったことだったのだろう

ただ、赴くままの衝動をぶつけたかったわけでもないし、三郎が慕ってくれるソレを利用するような真似はしたくなかった

これは自分の三郎への甘えである

三郎が腹を括るくらいの気持ちでぶつけてきた気持ちを、鴇が測り損ねていたのは事実だ

声が聞きたいと、もう少し我慢すればいくらでも叶うソレにアレコレと理由をつけてこうして出歩き、これだけ三郎を混乱させてどの口がいうのか


「一瞬の快楽を貪って、グズグズに溶けあうのも一つの手段だろう 多分それが、一番合理的で、最短でこれを終わらせられる」

「……いい、んちょう…」

「本当はお前や仙蔵の言うとおりだよ こんな状態でやってきたら、ソレが目的だと思わせるのは十分だ」


でも、だ

本当に、そんな気はなかったのだ

あんな理性が飛んだ、記憶にも残らないような強烈な快楽を求めたかったのではない

自分にだって、男のそれなりの欲はあるが、築きあげてきたこれまでをぶち壊してまで得ないといけないものでは断じてない

私が好きなのは、私が私であれるこの瞬間だ

何も変わらない、ずっと繰り返してきたこの時間だ

この馬鹿みたいに自分を慕ってくる後輩の、誇れる先輩であれる時間


「お前をそんな一時的な衝動で使わせないでくれ お前が、大事なんだ 鉢屋」


だから、今日はこれでおしまい

それでもこの状態が収まらないのであれば、池に飛び込むなり自分で処理するなりして鎮めるさ

そう言って、鴇が三郎の額に静かに唇をよせた

それは色めいたものは何もなく、親が子に送るような、とても優しいものであった


「部屋に戻れ 戻らないなら布団適当に使え 私は寝る」


そこから空気を断ち切るように、鴇は身体を離しておやすみと呟いた

涙が止まり、そこに残ったのは顔も耳も真っ赤にした三郎であったが、鴇はそれに何も触れることなく布団に潜りこんで目を閉じた

しばらくの静寂の後、背後で三郎が身を起こした気配がして、そして


「…いいん、ちょう」

「………何」

「朝、まで 一緒にいてもいいですか」


布団、借りますと呟いた三郎に鴇も小さく了承の意を返した

その後、わざわざ背を向けた鴇の前へと回り込んで布団を敷いた三郎に鴇が困ったように眉を潜めたのに気付いたのだろう

ガリガリと髪を掻いて、自分は引かぬとばかりに口をへの字に結んだ三郎が向かい合うように布団に潜った

その後すぐ、ゴソゴソと、鴇の布団のなかに伸びてきた三郎の手に鴇は少し戸惑った

先ほどの話は何だったのかと思ったが、ずぼりと出てきた三郎の腕が、考え込む鴇の腕をあっという間に1本回収していって、


「…これぐらいは、許してください」


三郎の冷え切った手が、鴇の左手の掌を両手で包んだ

そして、


「…お前ね、煽るなと言ってるだろうに」

「……私だって、やりたいようにやります」


人の腕一本、掌ひとつを大事そうに握りしめ、擦り寄るように頬を寄せた三郎に鴇は小さく笑った

猫のように身体を丸めてぎゅっと目を瞑った三郎はこれが鴇に言える最大の我儘だったのだろう

いじらしいというか、何というか

少しだけ自由の効く指先で三郎の目元をゆるりと撫でて、今度こそ鴇も静かに目を閉じるのであった




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