- ナノ -


ひとりよがりは夜にして
(文次郎+学級5年)


パチパチと、算盤の珠を弾く音が延々と続く


「学園維持補助費として、学級委員長委員会総予算の2割2分」

「次」

「再来月の組対抗戦の運営費として各委員会より上期予算の1割ずつ」

「…少し高くねぇか?」

「これ以上削ると修繕費がなくなる 各自が無茶をしないと約束してくれるなら削ってもいい」

「………あー…いい、悪かった それで割こう 次」

「対外交渉費ならびに矢銭として学園総予算の、」

「おい、そこ合わせるな」

「ん?どれだ」

「対外交渉費 それ、内訳を出せ」

「…一番面倒なところに指摘をいれてくるなぁ」


一息いれるか、と息を吐けば文次郎がふん、と鼻を鳴らした

会計委員会室の一番奥、潮江文次郎の座する会計委員長席の前に、学級委員長委員会委員長である嘉神鴇も座っていた

普段は2室をつなげて使っているが、今日は襖を仕切って外部からの音を遮断している

いわゆる客人である鴇の前にも文机が用意されており、両者とも帳簿やら巻物やらが山積みだ

先ほどのようなやりとり、鴇の申告に基づいて、次々と文次郎が算盤を弾いていく姿は四半期ごとに見受けられる姿である

冷めてしまった茶を啜り、文次郎が無造作に開いた帳簿をざっと眺め見る


「今回の報告書、作ったのはお前か?」

「半分だけ、そっちは鉢屋と尾浜に頼んだ」

「チェックは?」

「した」

「内訳、諳んじれるか?」

「もちろん 始めるか?」

「…いや、後でいい どうせ聞いて頭の痛くなる内訳だろう」


毎年恒例の予算会議ではなく、こちらは決算報告である

要は3ヶ月の間にいくら使用したかの報告会だ

各委員会の報告単位が半年に1回なのに対して、学級委員長委員会は四半期に1回の報告が義務づけられている

それは学級委員長委員会が使用する額の大きさによるものだ

学園全体の企画や学園維持のための費用と使用金額が大きいが、規模が大きいため不透明になりやすい

会計委員会としては貴重な予算が公正公明に使われているかのチェックを、学級委員長委員会としては身の潔白を証明する場である


「いい勘してる」

「お前んとこの怪しい計上はそこだ "対外交渉費"」

「大人の事情、ってやつは いつだって割り切れないもんなんだよ」

「…酌量いるのか?」

「いや、内訳も明確にした 気遣いはいらないくらいには説明もつくさ」


ふーっ、と鴇が溜め息に近い息を吐きだして、髪を無造作に掻いた

眉間の皺が額に刻まれ、目の下には薄っすらと隈が見える


「…何だ 寝てないのか?」

「ん…、やることが溜まっててなぁ」


正直、細かい字を見るのが辛いと呟いた鴇は疲れが溜まっているようであった

嘉神鴇は優秀な忍たまである

学級委員長という、面倒な役割を担いつつ、それの総指揮をとる委員長様だ

この男、こんな優男のような風体であるが管理能力はピカイチである

期限厳守、その上要点を抑えた報告書は他のどの委員会のそれよりもわかりやすい

そして鴇の字がまた流れるように整っているものだから、会計委員会としては拝みたくなるくらい貴重である

多少の字の癖というものは容認せざるをえないのだが、数字の判別が困難であるのはご法度だ

だが、そんな指摘をしたことは一度もないし、鴇のところを経由してやってきた他委員会の資料もそこは修正されて回ってくるものだから頭があがりやしない


「お前のとこの下はどうした」

「んー?」

「鉢屋と尾浜には手伝わせてないのか?」

「まさか、今年は遠慮なく手伝ってもらったよ それでようやっと終わりが見えてきたところだ」


眠気覚ましに食うか、とスルメを差し出せば、ああ、と鴇が手を伸ばす

日常生活で鴇と話をするより、こうやって委員会繋がりで鴇を見る方が文次郎にとっては多かった

こういった深夜、下級生たちのいないところで一気に仕上げたい時の鴇はかなり重宝する

自分の処理能力に何の戸惑いもなくついてくる鴇もまた、計算の鬼である

会計委員会の委員長をしている自分の方が、より早く正確な数字を叩きだせるが、鴇だってかなりやる

それは規模のでかい案件ばかりをもっているからだろう

見積りに関して言えば、鴇の予測はかなり正確だ

それは鴇の経験値によるものなのだろう


「今年はどうなんだ?」

「どう、とは?」

「学園長からの無理難題」


そう問えば、ああ、と鴇が力なく笑った

鴇がこういう笑い方をしているときは芳しくない時である


「年々増えるな」

「いい加減断れよ」

「今年いっぱいだからな」

「優秀な後輩に引き継ぐか、だな」

「……それは、気乗りしないなぁ」


学級委員長委員会委員長は、完全なる学園長直下の忍である

その委員長代理、つまり4年生になったその日から、鴇は学園長の元で指示をうけている

お使いから代役、忍務と多岐にわたり、かなりの量の仕事をこなしている

同級生たちは皆知っている、鴇の怪我が一気に増えたのは4年になってからだ


「…そういうわけにも、いかんだろう」

「そういうわけで、で渡したい内容じゃないんだよ」


蝋燭の火で、少しスルメを炙って鴇が打ち消すように言った

眉間をぎゅっと握り、目の周りをほぐしているが、鴇の目は据わっていた

先ほどの眠たげな目ではない

そこには強い意志があった


「いくつかは、手を切った方がいいようなところがある あんなもの、絶対にあの子たちにはやらせない」

「…それ、学園長は知ってんのか」

「ご存知だ だから私にやらせてるんだろう」


時折鴇は、委員会の愚痴のようなものを零す

それは長次や小平太には言えぬようなものなのだろう

奴らは鴇に近すぎる

今の会話だって、奴らであればまず「鴇自身」をそこから引かせたがるような話だ


「去年から少しずつ話を詰めている 夏が終わるまでには切ってみせるさ」

「…恨まれるような手じゃないだろうな」

「そんなヘマは踏まんよ」

「…ちなみに、それ、鉢屋達は知ってんのか?」

「知らなくていい 知らせる気も一切ない」


少し火がついたスルメの火をふっ、と吹き消して鴇は何でもないように言った

だが、文次郎は知っている

これは鴇なりの絶対の矜持で、曲げぬ信念のようなものである

鴇は自分の後輩に絶対の自信をもっている

鉢屋三郎然り、尾浜勘右衛門然りだ

そして自身の不遇も理解している

鴇が3年を費やして処分しようとしているのは負の遺産である

先人が有耶無耶にした取り引きで、明らかに分が悪いものを鴇は片っ端から片付けている

鴇自身は付け入られるような隙を見せずに踏ん張ってきたというのに、だ


「…お前は、不器用だよな」

「文次郎に言われるとは思わなかった」

「どういう意味だか」


小さく笑った鴇に、文次郎もくつりと笑う

文次郎は純粋に鴇のことを尊敬している

あれだけ癖の強い後輩と、癖しかない同級生を見事に統制している鴇の手腕は確かなものだ

そこに強制力はない

低学年の頃、文次郎は鴇が苦手に思えた時期がある

学年上位をい組の連中の名が連なるなか、仙蔵と鴇は常に首席を争っていた

今でこそ、その首席争いに文次郎も参加できるほどになったが、当時は全く敵わなかったのをよく覚えている

ろ組のくせに、と悔し紛れに鴇を貶すなか、文次郎は鴇がどれほど努力をしていたのかも見ていたのだから

そんな、事務処理を得意中の得意とする鴇が仕事が溜まっている、というのだ

余程量が多いのだろう、毎年この春の報告会は学級委員長委員会にとって鬼門の時期だとは聞いていたが、それはやはり変わらないらしい

この状態でいろいろと問うのは酷だろうかと思っていた時である


「失礼します」

「駄目ですって!今はっ…!」


襖の向こうが少しざわついていたと思えば、外から声があがる

この声には十二分に聞き覚えがある

聞こえた声に、鴇がそっと眉を潜めて溜め息をついた


「うるさいよ 鉢屋」

「田村、夜中だぞ」


そこにいたのは学級委員長委員会に所属する鉢屋三郎と、会計委員会に所属する田村三木エ門であった

もう少し正確に言えば、田村と、同じく会計委員会である神崎左門ははじめからいた

先日の予算会議の片づけが終わっていないため、まだまだ絶賛活動中な会計委員会である


「…鴇、お前鉢屋をちゃんと撒いてこい」

「撒いてきたから2刻持ったんだろ」

「委員長!」


文次郎と鴇の愚痴り合いに三郎は語気荒く割り込んだ

珍しく鴇を睨むその視線に、鴇がまた視線をそらした


「何だって私を撒く必要があるんです」

「…今日は委員会休みって言っただろ」

「だったら、これは何ですか」

「文次郎との茶会」

「そんな冷めたお茶でですか」

「渋いし、眠気覚ましには丁度いい」

「委員長 最初の質問に答えてください」


鉢屋三郎は怒っていた

それなりに、しかし結構本気で

原因は鴇にあるのだろう

これもある意味いつも通りだ

だって鉢屋が本気になる相手なんて、こいつが敬愛する鴇か顔を常時借りる不破くらいしか思い当たらない

おかしいとは思ったのだ

いつもの鴇であれば、引き継ぎも兼ねて鉢屋か尾浜を連れてきたのに今日はそれがなかった

まあ、それをおかしいと自分が気づいていることも鴇にとっては折り込み済みなのだろう

だから先ほどの作成者が鉢屋と尾浜だと言った箇所の報告も鴇が内訳を把握してきていたのだ


「…答えただろ 今日は委員会活動は休みにした だからお前も休みなさい」

「だから聞いてるじゃないですか 貴方のしてるこれは委員会活動ではないのかと」

「各自の持ち帰り分まで管理しようとするなよ 野暮だ」

「…何か、不備でもありましたか」


ヒラヒラと、手を振って鉢屋を撒こうとしていた鴇の手がピタリと止まった

ろくに顔を見ようともしてなかった鴇が振り返れば、鉢屋が下唇を噛んでこちらを睨んでいた


「至らなかったのであれば、そう言ってくれればいいのに」


ぎゅっと握った拳は白くなっており、刻まれた鉢屋の眉間の皺は深い

震える声には怒りが込められていた、それは第三者である自分が聞いてわかるくらいに


「私だって、」

「こんの、お馬鹿っ!」


突然割り込んできた声と、ガツンと振り下ろされた拳に鉢屋が呻く

スタスタと、茫然とする田村と神崎を掻き分けて入室してきたのは尾浜であった

まだ制服の鉢屋と違い、こちらは寝着であり、髪もおろしている


「な、にをするんだ ば勘右衛門…!」

「馬鹿はお前だよ 何やってんのさ」

「何って、委員長が」

「あれは鴇先輩の仕事」


ほら、帰るよと鉢屋の襟首を掴んで連れて帰ろうとした尾浜の手を、鉢屋が叩き落した

面倒くさいなぁ、と呟く尾浜が何だよ、と鉢屋に問う


「…!お前は気にならないのか!」

「なるよ すっげーなる 俺たちの報告書が、初めて会計委員長に出されてんだもん 気にならないわけないじゃん」

「だったら!」

「でも、何で今日に限って休みなのか、わかってんの?」

「だから、それは委員長が、私達の不備をっ…」

「不備、あんの?」


ズバリ直球で問うた尾浜に、鉢屋が口ごもる

真っ直ぐ、じっと見つめる尾浜の視線に、鉢屋がたじろぎながら答えた


「…ない 少なくとも、思い当たるようなものは、何も」

「そうだよ 俺とお前で相互チェックもした 鴇先輩のチェックも受けた あれに不備なんてない」

「だが、」

「寝ろ それが委員長の指示だよ」


くるりと振り返って鴇を見た尾浜に、鴇が気まずそうに息を吐いた


「鴇先輩、そういう話でいいんですよね?」

「そうだよ そういう話でいい」


そうなんだけど、と鴇が腰をあげて、鉢屋と尾浜の前に立つ

理解半分、消化しきれない気持ち半分といった鉢屋の頭に鴇がそっと手を置いた


「ごめん、いろいろ省いた」

「三郎は頭の回転させすぎるんだから、ちゃんと言わないとこうなりますよ」

「お前はフォローする気ないの? 尾浜」

「えー、ありますよ 超ある だからこうやって来てるじゃないですか」


それもそうか、と呟いて、鴇が鉢屋の前に座った


「不備はない 自信をもっていい いい出来だったと思っている」

「だったら、何で」

「…明後日から、夜間演習があるだろう」

「?それが、」

「寝なさい 本業を大事にして、そういう話」


鴇の手が、鉢屋の頬に触れて、目の下をそっと撫でる


「悪かった お前達の予定を確認するのをすっかり忘れてた」


冷たい肌は少し青白い

目の下の隈だって、うっすらと見えている

普段から化粧等で隠している三郎でこれだ、隣で欠伸している勘右衛門も普段であればあまり隈がでないタイプなのにはっきりと見える


「この間の年末行事から予算会議、報告会とぶっ続けで働いてもらった もうひと踏ん張りだとラストスパートをかけたんだけど、それどころじゃなかった」

「…委員長、私別に」

「お前は絶対そう言ってくれる でも、それじゃダメなんだよ 鉢屋」


それは、完全に鴇の考慮漏れ事項であった

5年生の初回の夜間訓練は4日間完全に山に籠る

昼夜が逆転し、また少人数の組を作った集団行動であったはずだ


「お前は足を引っ張るようなことはしないだろうけれど、それはやはり体調を万全にして臨むべきものだよ」


今回、三郎と勘右衛門はかなりの量の資料作成を終わらせてくれた

本来であれば気付くべきであったのだ

通常は、明確な期限がないこの仕事を、連日連夜残って資料作成をしていた理由に

昨日である、ようやく終わりが見えたこの仕事を労おうと鴇がどこか甘味屋にでも行こうと思った時である


(今週末にでも行くかなぁ)


軽い気持ちで暦をめくれば、そこには「勘・三 不在」、と尾浜の愛嬌のある字が殴り掛かれていた

しかも4日間連続で

あれ?と思ったのと同時に、脳裏に記憶が凄い勢いで戻ってきた

月跨りということもあったが、完全に失念していた

そうだ、夜間訓練があると一月ほど前に2人はぼやいていた、と


「お前達は私に気を遣って、夜間訓練を意識させまいとしてただろう」

「……気を遣っていただくほどのモノじゃないからいいんです」

「鉢屋、違う お前達の本業は学業だよ」


不貞腐れる鉢屋の表情から、文次郎は容易にその意味が想像できた

鉢屋の優先事項は委員会、いや 正確に言えば鴇なのだ

鉢屋は昔からそうだ

鴇が一人で踏ん張るのを嫌うし、分担しようとしないのを酷く憤っていた

しかし、鴇も同じなのだ

鴇は鴇で鉢屋と尾浜に負担を強いるのは好ましく思っていない

勘違いしてはいけないのは、鴇は彼らの1つ上の年次なのだ

今回だって、もし鴇が夜間訓練に気付いていたら少なくとも3日前には準備に専念させただろう

それを2人が素直に受け入れるかは別にして


「わかってます だからといって、委員長一人で進めなくてもいいではないですか」

「大分片付けてもらった お前達が心配するような状態ではないから私が進めている それだけだよ」

「私達に休めというなら、貴方も休むべきでしょう もう何徹目ですか」

「うるさいぞ 学級委員長委員会」 


ダン、と鉄算盤を机に鳴らせば、言い争っていた双方が黙る

鴇も鉢屋も基本は空気を読める、しかし鉢屋の視線は邪魔するなと言わんばかりだ


「鴇、お前も帰れ 喧しくて仕事にならん」

「…文次郎、私まで帰してどうする」

「これはお前の後輩達の自信作なんだろ もとから一旦預かってうちでチェックするつもりだったんだ 何も変わんねぇよ」


どうせ今日一日で片付くなんて思っていなかった

鴇が口頭で説明してくれた方が手っ取り早い、それだけだ


「鉢屋、尾浜 お前ら、訓練終わったら再度来い」

「……それは、」

「見てやるよ お前らが穴がないと思っているこれを、不備があるかどうかは俺が判断する」

「……!」

「言っとくが、俺は鴇の帳簿にだって何度も物言いを出している それを鴇が論破してるだけであって、お前らにまで譲る気はねえ」

「文次郎」

「鴇、その代わり、お前が擁護するのはなしだ 至らなければ俺がダメ出ししてやる それで公平ってもんだろうが」


それでいいか、と問えば、鴇がコクリと頷いた

鴇だって、適当に仕上げてきたわけではない

いつだってコイツは全力で通す心意気でやってきている、それでも通らないのであればそれは尾浜と鉢屋の交渉術が下手なだけだ


「わかったら、とっとと五年は寝ろ お前らわかってんだろうな、及第点に満たなかったら委員会活動、制限されんだからな」

「「え?」」


その言葉にピタリと止まった三郎と勘右衛門に、文次郎があ?と鴇を見る


「何だ 言ってねぇのか?」

「…余計なプレッシャーかな、と思ってなぁ」

「阿保か、それでお前がヤキモキしてるんじゃぁ、世話ねぇだろうが」


うむ、と気まずそうな表情をしている鴇をペシリと叩いて、文次郎が大きく溜め息をつく

鴇はいつもそうだ、肝心なことを言わずに一人心配事を抱えている


「四年までは落第点とったら委員会活動に制限かかったけどな 五年で落第点なんてレベルの低い話はお呼びじゃねぇんだよ」

「…それって、」

「及第点すら届かねぇのに、委員会活動に勤しんでる場合じゃないって話だ 当面自粛させられるぞ」


さーっ、と鉢屋と尾浜の顔が青くなる

本当か、と無言で問う視線に、鴇が苦笑して頷く


「なんで!言ってくれないんですか!」

「だって、お前達こういうの嫌いじゃんか!お腹いたいとか言うじゃん!」

「何年の時の話ですか!」

「そうですよ!手の抜き具合が変わってくるから…」

「…手を、抜く?」

「!ば勘右衛門…!」


ギャーギャー言ってた2人の言葉に鴇が今度はピクリと反応した

慌てて鉢屋が尾浜の口を塞いだが、鴇にはバッチリ耳に届いたらしい


「ふーん…」

「…い、委員長…?」

「そうかそうか、いやはや、優秀な学級委員長だったものな 心配したのは失礼ってもんだよな」


先ほどとは一転して、ニコニコと笑う鴇を見て、五年2人は青ざめた

視線が合いそうで合わない、これは鴇が怒っている時の兆候である


「そっちがその気なら、本気、見せてもらおうか 上位3名に入ってきたら、委員会の戸、くぐらせてやるよ」

「さ、3位!?」

「こちとら、委員会に出れなかったらお前達に迷惑かかると思って、3位をきったことがないんだ お前達もそれくらいやってみせてよ」


いきなり上がったハードルに、マジか、と尾浜が額に汗をたらして呟く

内容を聞けば恐ろしい話だが、実際、六年の間では有名な話である

先輩のいなかった鴇は、一度たりとも補習や補講で委員会にいけないような状態には陥らなかった

そして、ギリギリで通過なんてしたら何を言われるかわかったものではなかった状況から、上位3位から成績を落としたこともない


「私の心配をする暇があるなら、自分の心配をするんだな」


ぴしゃりと部屋から2人を締め出せば、2人はしばらくボソボソとやっていたが、静かに部屋へと帰っていったようだ

ガリガリと、髪を掻いて溜め息をついた鴇に文次郎がクツクツと笑う


「…何だよ」

「いや、お前も後輩が可愛くて仕方がないクチだな、と思ってな」

「……言っておくけど、尾浜も鉢屋も、3位以内に修めてくるよ」

「そうだろうな 焦ってはいたが、無理だとは言ってなかった」

「私には出来すぎた後輩だからな」


最近、どう接するのが正しいのかよくわからん、と鴇が愚痴る


「もっと、広く物事を見てほしいんだ 私の見る世界なんて、知れてるのだから」


それは鴇の本音なのだろう

それでもあの後輩達はそうもいかないのだろう

それだけの誠実さと真摯さで鴇は奴らと向き合ってきたのだから


「そんな答えのでねぇ問いを、グルグル回す暇があんならお前も寝ろ」

「…そうする すまなかったな文次郎」

「言っとくが、会計報告の件は取り消し無しだからな いくらお前の後輩が優秀でも、不備があれば落とす」


部屋を出ていこうとする鴇が、その言葉に足を止めて振り返る

それはそれは、腹が立つくらい清々しい表情で


「いいよ 何の心配もしてない あの子らには、私の全てを叩きこんでいる」


結局のところ、鴇は絶対の自信をもっているのだ

それをただ真正面から突き付けられただけだったかと文次郎もさっさと寝ろ、と鴇を追い出すのであった




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