「これがその絵ですの。」 妻が部屋に着いて、言う。 私は急いで親族たちの間をぬって前へ出る。私の機嫌の悪さはMAXに達しようとしている。 「この絵ですか。」 前に出て絵を見上げる。 この部屋はもともと絵を飾るために作られた部屋なのか、部屋を明るく照らす蛍光灯がない。 その代わり、絵をあらゆる方向から照らすライトだけがある。 「どうですの?」 妻が聞いてくる。 「うーん…」 私が睨んでいた、作者が絵を他人の物となるのを嫌うもしくは金がらみの場合、言い方が悪いが綺麗な感情でないため絵の周りの空気が澱んで重苦しい。 しかし、目の前の絵からはそういうのが全くない。 転売先で不幸ばかり起こす絵なのに、意味がわからない。 「やはりこれは変ですの?」 「……今見てます。」 妻が急かす。 周りもヒソヒソと話し始める。 うるさい。 集中できない。 絵に作者の想いが必要以上に付きまとっているわけではない。 この絵の人物はモデルはいるかわからない。でも…見る限り、実在する人物を描いたのではなさそうだ。 ならばこの絵に関わっていたのは作者のみ。 しかし作者が引き起こしているのではない。 じゃあ誰が… 「どうなんですの?」 妻が苛ついた声色で聞いてくる。 周りも私が黙っていることに苛立ってきているようだ。 待つことが出来ないのかこのお貴族たちは。 「今探ってます。」 適当に答えておく。 私はふと、関係ないことを考えた。 周りがうるさくて集中できないせいかもしれない。 ―この画家はこの家で生きにくかっただろうな― 曰くつきの絵には関係ないと思うが、気になったので聞いてみた。 「この絵を描かれた方はいつ頃から名が広く知られるようになったのですか?」 「え?」 妻は馬鹿馬鹿しいとでも言いたげに反応した。 「いつだったかしら。ちょっと。」 妻は世話役らしき男性を呼ぶ。 「46歳で『朝日の夕暮れ』が評論家の目に留まったそうです。」 「ふぅん。だそうよ。」 「……そうですか。」 私は呆れた。 旦那のことぐらい自分で把握してろよ。 しかも私の質問は身内なら答えられなきゃいけないような質問だった。 画家とこの妻は好きで結婚したわけではないんだとわかった。 画家は誰を支えとしていた? この家では、いや画家の親族もみんな画家のことよりも絵だ。 それも絵そのものでなく、絵の価値。 画家は……幸せだっただろうか? 誰も画家自身を愛してはいなかった。 誰かに愛されたいと思っただろう。 ふと、また顔をあげ絵を見た。 わかった。 [*前] | [次#] ページ: topへ |