帰る

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

車に乗り込み門に向かう。

後部座席に座ってなんとなく外を見ていたら、運転する世話役らしき男性に声をかけられた。

「今回のような出来事は初めてでしたので今も驚いていますよ。」

「そうですか。私も今回のような例は滅多にないですよ。ほとんどが金がらみとか憎しみとかですから。」

「ふふっ怖いですね。」

「もう慣れましたよ。あなたこそ、あのお貴族様に縛られて窮屈ではありませんか?」

「もう慣れました。」

「慣れとは恐ろしいですね。」

「全くです。」

「今回の非現実的な出来事は慣れた日常にスパイスになってくれました?」

「はい。それはもう、ハマる程に。」

「光栄ですね。あなたは私と価値観が似ているように感じます。良かったら今度補佐という名目で除霊にお連れしましょうか。まあ…お世話役に休日があるのかは不明なところですが。」

「痛いところをつきますね。休日を作れたらぜひお願いします。毎日マンネリ化してますから。」

「ええ。では連絡先をお教えしますね。」

「今から楽しみですよ。」

「あ、これは業務連絡ですが、今回のご依頼料は特別料金を上乗せにした800万円ですから。あなた以外皆さん呆けていて聞いてるのか聞いてないのかわからなかったので。」

「ふふっ800万円なんてケチらないでキリの良い1000万円にしてしまえば良かったのに。」

「あ、惜しいことをした。」

「あっはっはっはっ!!残念ですね。」

「もしまたあの絵に関して変な噂がたちましたら是非私に。」

「はい。わかりました。そのときは1000万円ですか?」

「いいえ。今回の取り逃がした200万を合わせた1200万円です。」

「良いキャラしてますね。」

「あなたこそ。」

「さあ、門に着きました。」

男性は車から出て、私の隣のドアを開ける。

「ありがとうございます。」

と差し伸べられた手に手を重ね車を降りた。
その際にさりげなく私の連絡先を書いた紙を渡して。

門番がいるから先程の話は掘り返さない。

「今回はありがとうございました。道中お気をつけて。」

「はい。こちらこそありがとうございました。」

社交辞令で頭を下げたままの男性に背を向け、門を出て行った。




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